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番外編:永遠の誓い

ご無沙汰してます。

二人の結婚式の前編を更新しました!

「ああ、イェレナ。本当に美しいよ。ここでずっと眺めていたい」



 純白の礼装を身に纏う美しい婚約者――今は侯爵家の当主となり、数分後には私の夫となるこの男は、私を見て涙を溢した。


「オリヴェル様、新郎は新婦のウェディングドレス姿を神前で見るのが礼儀ですのよ。それをご存知かと思うのですが?」

「もちろん知っているが、俺よりも先にどこぞの男がイェレナのウェディングドレス姿を見るなんて想像しただけで気が狂いそうだったんだ」


 涙を流しつつ言い訳を述べるオリヴェル様を止める者はいない。使用人はもとより、ご両親も同僚も友人もみな、オリヴェル様がこうなると手がつけられないのだ。

 それに、と言ってオリヴェル様は私を抱きしめる。


「昨日はイェレナがいなくて寂しさのあまり死んでしまいそうだったよ」

「たった一日でしたわよ? それも、オリヴェル様がなかなか離れなかったから実質半日でしたわ!」


 昨日、結婚式の準備のために一年ぶりに実家に帰ることになっていたけれど、別邸を出ようとするとオリヴェル様がしがみついてくるせいで外に出られなかったのだ。

 お義父様が説得し、お義母様が説得し、次いでお義姉さまや執事が説得してもオリヴェル様は離れてくれず。

 私が何を言っても頑なに離れてくれず、最後の手段と思ってキスをすると渋々見送ってくれた。実家の部屋の前までついて来て、それからがまた大変だったんだけど。


「オリヴェル様、早く会場に行ってくださいませ。招待客たちが待っていますわ」

「もう少し、イェレナの姿を目に焼きつけたい」


 あと数分でまた会うというのに、どうしてこうも頑ななんだろうか。ちょっと溜息をつきたくなる。石像のように動かないオリヴェル様を睨めつけた。


「早く会場に行かないと式が始まりませんわよ」

「そうだな、あともう少しだけ」

「式が始まらないと私たちは夫婦になれませんわ」

「……そう、だな。もう行くとするか」


 石像はあっさり動いてくれた。気恥ずかしいが、オリヴェル様は私を愛してくれているんだと、手に入れたいと思っているんだと、改めて実感してしまう。ああ、なんてことを考えてしまっているんだ、私は。


 恥ずかしさのあまり窓に頭をぶつけているとお父様が部屋に入ってきて、遂に私は会場に行くことになった。


     。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。


 王国随一の由緒ある教会の廊下を、お父様と歩く。ここは王族や高位貴族のみがここで式を挙げることが許される場所で、そんなこともあってか、厳かで神聖な空気に思わず足が震えそうになる。


 本当に、侯爵夫人になるんだと、ひしひしと実感してきた。


 会場の扉の前に立つと両側に立つ司祭が扉を開けてくれた。その一瞬に、二人の司祭が何とも言えない表情をしていたのが気にかかったが、扉の内側から拍手が聞こえてきたから前を向く。


「なっ……何ですの? これはどういうことですの?!」


 扉が開いた先の光景を見て頬が痙攣を起こした。というのも、会場にいる誰もが黒い目隠しをつけているのだ。

 怪しい呪術集団の儀式会場に来てしまったんじゃないかと錯覚した。恐ろしさのあまりお父様にしがみついて赤い敷物の上を進んでいくと、オリヴェル様が喜色を浮かべて手を取ってくれる。


「美しい。ステンドグラスの光りの下で見るイェレナもまた別格だな。どんな宝石も美術品も、イェレナには敵わないよ」

「あ、あの。お世辞の前にこの状況を説明してくださらない?」

「お世辞ではない。これでも厳選した俺の本心だ」

「それはわかりましたから、この異様な光景の理由を教えてくださいませ」

「招待客たちがイェレナのウェディングドレス姿を見続けてしまっては何かが減りそうな気がして耐えられなかったんだ。だから誓いを交わす時まで目隠ししてもらっている」

「いや、何も減りませんから」

「本当はお義父様にも目隠しをして欲しいくらいだったがどうにか堪えたんだよ。イェレナの安全が一番だからね。歩いている途中で転倒しては一大事だ」

「心配するのはそこではありませんわ!」


 盛大に感覚がずれているオリヴェル様を見ていると、早くも先行きが不安になった。

 この一年、別邸に閉じ込められていた間に慣れてきたものだと思っていたのが甘かった。オリヴェル様は日々進化している。得体の知れないものに、進化してしまっているのだ。

 そんなオリヴェル様を恐ろしく思う一方で、たまらなく惹かれてしまう自分も、そろそろおかしくなってきたんだと思う。


 自嘲気味に笑っていると、オリヴェル様がそっと指先にキスをした。


「イェレナ、とても幸せで胸がいっぱいだ。息もできないくらいだよ」

「そんな死に方で私を独りにしないでくださいませ。式を挙げたその日に未亡人だなんて笑えませんわ」

「もちろんだ」


 私とオリヴェル様は祭壇の前に進み出た。すると、心底同情しているような眼差しを向けてきた大司祭が、咳払い一つして口上を述べる。


「ロイヴァス侯爵、あなたはここにいるルッカリネン嬢を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「もちろんです。今ここで神に誓うその前から、密かに誓い続けておりました。一生、いや、生まれ変わっても、この誓いを違えることはありません。たとえ神に背くことになろうとも」


 オリヴェル様、神前で「神に背く」なんて言わないでください。大司祭が倒れそうな顔してますから。魂が抜けだしそうになっていますから。

 傍で控えていた司祭たちがどうにか大司教の体を支えてくれて、誓いの儀式が続行される。


「ゴ、ゴホン。それではルッカリネン嬢、あなたはここにいるロイヴァス侯爵を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓いま――」


 誓います、と言い終える前にオリヴェル様に引き寄せられて唇を塞がれる。最後の言葉は、オリヴェル様に飲み込まれてしまって。

 盛大な拍手と微かな苦笑が聞こえてくる中、深くなっていくばかりのオリヴェル様のキスを受けとめる。


 息苦しくなりそっと瞼を開くと、恍惚とした表情を浮かべるオリヴェル様と視線が絡み合い、ぞくりと背筋が凍った。

後編をお待ち頂けると嬉しいです(*´艸`*)

また、感想など頂けるともっと嬉しいです(ू•ᴗ•ू❁)

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電子書籍が2023年5月11日(木)より配信開始!ご予約お待ちしております!
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
[一言] 見ていてとてもドキドキしましたっ!後編楽しみです♪\(・∀・)/
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