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番外編:運命と贖罪の鎖(※リクハルド視点)

猫の日なので更新しました

 オリヴェルとイェレナ嬢がいなくなった部屋の中は昏く、割れた窓の外では雪が音もなく降り続いている。


 虚しさに首を絞められているように息苦しく、立ち尽くすことすらままならない。

 これが己の愚行が招いた結末なのだと、胸の中を渦巻く虚無に知らしめられた。


 好いた者と、忠実な家臣を失った。


 生まれてからずっと近くにいたオリヴェルは、今となっては会うことすら、ひとひらの雪を手のうちに収めるよりも難しい。

 最後の最後まで、恨むことなく私に忠誠を見せたあの男だからこそ、女神様はイェレナ嬢を引き合わせたのかもしれない。


「はは……、何が神の末裔に当たる一族だ」


 どこまでも人間らしく、それも堕ちた人間のような身勝手な理由で力を使ったのだから、罰だと言ってこの力を奪ってみたらどうだ?

 そんな挑発だって()()はとりあってくれない。


 虚しさに飲み込まれそうだ。


 息苦しくて、空っぽの胸は痛みを訴えて、ただ笑うことしかできなかった。


    。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。


「殿下、こんなところで寝ていたら風邪をひきますよ」


 聞き覚えのある声が話しかけてくる。オリヴェルの声だ。夢の中のオリヴェルは私のことを許してくれているようだ。

 都合がいい夢に笑いたくなる。それでも縋りたくなって目を開けた。


「っ痛い」


 体を起こすと節々が痛い。変な姿勢で寝ていたせいだろう。そこまで考え至って気がついた。目の前に広がるこの現実世界に、イェレナ嬢の後を追うと宣言したオリヴェルがいるということを。


「殿下、幽霊を見るような顔になってますよ」

「いや、幽霊だろう?」

「こんな朝っぱらに現れる幽霊はいませんよ。ちゃんと生きてます」

「ならばイェレナ嬢を見捨てたのか?」

「イェレナは生きています。今は人間の姿で我が邸宅にいますよ」

「人間に戻ったと……?」

「ええ、人間に戻って、以前にも増して愛くるしい表情で見つめてくれるようになりました」


 ああ、なるほど。そう言うことか。

 つくづく嫌になるほどわからせてくれる。


 オリヴェルとイェレナ嬢はそう簡単に引き裂かれないのだと、私が忘れてしまわないようにしっかりと教えてくれているようだ。


「惚気話は結構だ。私に対する嫌味だろう?」


 イェレナ嬢は私の物にならなかった。雪にはならず、オリヴェルの伴侶になるように、女神様が生き残らせたのだ。


「オリヴェル、そなたはこんな愚かな人間にこれからも仕えるつもりなのか?」

「殿下のお守が俺の仕事ですから」

「愚かなのは否定しないと?」

「黙秘権を行使します」


 拍子抜けするほどこれまで通りに接してくるオリヴェルには調子を狂わされてしまう。


「そなたは人がよすぎるぞ」

「イェレナがそうしたのでしょうね。イェレナさえいれば何もいりませんから。それに、殿下のおかげで俺とイェレナは気持ちを通じ合わせることができたので感謝しています」

「もうよい。追い打ちをかけるな」


 償いを求められないというのもまた罰を与えられる以上に苦しめられる。だから罰を求めて国王陛下(父上)に全てを話した。


    。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。*゜。*。゜゜☆。


 謁見は長時間に渡り、すべてが終わる頃には日が傾いていた。

 新鮮な空気を求めて庭園に出ると、オリヴェルはこれまで通りついてくる。


「この世界は全く思い通りに運ばないな」

「おや、殿下がそのような考えをなさるとは思いませんでした」

「どういう意味だ?」

「ご想像にお任せします」


 そんな軽口を叩いていると生垣の影に隠れていた人物と目が合った。

 アイロラ侯爵家のリンネア嬢。

 いつも通り、オリヴェルに熱い視線を送る彼女は、オリヴェルが一瞥するだけでなにも声をかけてくれないのだとわかると踵を返して走り去る。


「あれを追いかけろというのか?」

「それが国王陛下から下された罰ですので」


 自分の運命を受け入れ、オリヴェルたちの幸せを見守り続けること。

 それが国王陛下から下された、一生かけて罪を償うための罰だった。


 私はこれから、先視通りにリンネア嬢を伴侶として迎えることになる。昔からオリヴェルに想いを寄せているリンネア嬢の気持ちを得られることなど、永遠にないのだとわかっていながら。


 それを知っていたからこそ、私はイェレナ嬢に惹かれてしまった。

 私にも、自分に寄り添ってくれる愛が欲しかったのだ。


 しかし罪を犯した今となっては決して敵わないことだろう。

 それでも、わずかながらに希望を持ってしまう。


「リンネア嬢、どうか警戒しないで欲しい。少しそばにいてもいいだろうか?」


 リンネア嬢は薔薇の茂みに隠れて泣いていた。きっと、オリヴェルの心が自分に全くないと思い知らされて傷ついたのだろう。


「そなたをそのままにはしておけない。私でよければ話を聞こう」


 そんな彼女に問いかけたくなる。

 オリヴェルのように運命以上に愛するのなら、そなたは先視の未来を変えて私を愛してくれるだろうか、と。

次回更新予定の番外編は楽しい結婚式の話です。

期待以上のオリヴェル様を書けるように頑張ります(*´艸`*)

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電子書籍が2023年5月11日(木)より配信開始!ご予約お待ちしております!
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
[一言] 読み始めて夢中になり一気読み来ました! リクハルド様、最初魔法をかけたときは「なんて嫌なヤツだ!」「得体が知れない」と憤慨&不気味に思っていたのですが、リクハルド視点を読んで「なんていじらし…
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