表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

25 銀色の瞳は捕らえた

 その柔らかな感触が何であるのかはわかる。

 驚いて見上げると、殿下の銀色の瞳が目と鼻の先にあって、予想は確信に変わった。


 殿下、いま、私の額にキスしましたよね?


「ふふ驚いた顔も愛らしい。いや、たとえどんな姿でもそなたには惹かれてしまうだろう」

「にゃー……」


 なんだか口説いているような台詞ね。こんな時にもふざけるとは、やはり王になる人は器が違う。褒めてはない。呆れているのだ。


 ジロッと睨んでみたら、殿下は柔らかく笑った。機嫌を取るように顎の下を撫でてくるけど、私は中身が人間だからその手は通じないわよ。

 そう身構えていたのに、条件反射でゴロゴロと喉が鳴ってしまう。


「イェレナ嬢は、定められた運命とやらをどう思う?」


 いきなり真面目腐ったように聞いてくる。今度は何を企んでいるのかしら?

 前科が多いだけに警戒してしまうけど、撫でてくれる手はただただ優しくて、抗えずに瞼が閉じていく。


「絶対に振り向いてもらえないとわかっている相手が心から消えてくれない苦しみを、味わったことはあるかい?」


 殿下の声色に違和感を感じ取った。気づけば、殿下の瞳はしっかりと私を見据えていて。


 その瞳の奥に、ゆらりと揺れる影を見た。


「イェレナ嬢、そなたの幸せのために私は耐えていた。しかしオリヴェルと一緒にいても幸せになれないのであれば、私が攫う」


 聞き間違いなのか、それともまたもやふざけているのか。ふと浮かんだ考えは殿下の瞳を見て可能性を失った。かつてないほど真剣で、どこか余裕がなくて、いつもと違う雰囲気に完全に飲まれてしまった。


 なぜ?


 これまでに殿下とお会いした時には微塵も感じなかった彼の気持ちが、今、堰を切ったように迫ってくるから、考えがまとまらない。


 いつから?

 どうして?


 疑問は次々と浮かびあがっては頭の中を埋め尽くす。


 そうしている間にも殿下はしっかりと抱きしめてきて、私の背をゆっくりと撫でた。


「可哀想に。オリヴェルに傷つけられたからこんなに冷たくなったんだろう」


 ちがう。そんなことはない。否定の言葉を込めて見上げているのに殿下の表情は変わらず、じっと、昏い瞳で捕えてくる。


「定められた運命とやらが傷つけるのであれば、私が断ち切ろう。たとえそなたに嫌われたとしても構わない。もう諦めたくないんだ」


 まるで、殿下の方が傷つけられたような顔している。

 弱り切った声が近づいてきて、もう一度、殿下は額にキスをした。優しくも、決して逃がすつもりはないと言わんばかりに触れてくる感覚に、なおさら混乱する。


「だからイェレナ嬢、雪になって私のそばにいてくれ」


 追い打ちをかけるように迫る殿下の声になにも答えられないでいると、戸口のそばから息をのむこえが聞こえてきた。


「殿下、どういうことですか?」


 振り向くと、外套のフードを脱いだオリヴェルが、呆然とした表情で立ち尽くしていた。

殿下派のみなさま、お待たせいたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電子書籍が2023年5月11日(木)より配信開始!ご予約お待ちしております!
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ