20 殿下の御心(※オリヴェル視点)
夢の中で、イェレナが泣いていた。
久しぶりに泣いている姿を見れた歓喜と、誰がイェレナを泣かせたのかと思うと嫉妬心が沸き上がり、イェレナを抱きしめた。抱きしめてもずっと泣いていて、腕の中で震えていたイェレナは、やがて泣きつかれたのか眠ってしまった。
「イェレナ、すぐに見つけ出すからな」
誰も君を泣かせられない、安全な場所に閉じ込めておきたいから。
早く捕まってくれ。
俺の見えないところで誰かと話し、それどころか泣かされているかもしれないと思うと、それだけでたまらなく心が乱される。
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イェレナを探しに行きたいとはやる気持ちを抑えて王城に行くと、殿下はいつも以上に上機嫌で待ち構えていた。俺の顔を見るなり、例の件を切り出してくる。
「オリヴェル、そなたの婚約者が見つかるように魔法をかけた」
「本当ですか?!」
「ああ、いずれ見つかるだろう」
殿下は目を眇めた。
嫌な予感がした。妙に殿下の機嫌がいいのもまた引っかかる一因で。
「どんな魔法をかけたんですか?」
「イェレナ嬢とお前が真に想いを伝えあえるようにしたのさ」
そう説明されてもかけられた魔法の正体がやはりわからないが、鼻歌交じりの殿下を見ているとますます不安が募っていく。なんせ殿下は雪の女神の末裔で雪の精霊たちと同じ性格だ。こんなにも機嫌が良いと胸騒ぎがしてならない。
まるでとっておきの悪戯を仕掛けているような、そんな気がしてしまう。
「お心遣いには感謝しますが、まずはイェレナを見つけるのが先決です」
「そうだな、早く見つけてやった方がいいぞ」
「ええ、そろそろ王都の外も探しに行こうかと思っています」
王都をくまなく探したがそれらしい人物は一人も見つからなかった。手がかりも全くない。あの舞踏会の日のうちに王都を出たのであれば地方領に辿り着いているかもしれないとも思い始めている。
「いいや、意外と近くにいるはずだ」
殿下は水晶を覗き込んで唇の端を微かに持ち上げた。一体、なにを見ているのだろうか。殿下のような力が自分にもあればいいのにと、いまだけは願ってしまう。
「なあ、オリヴェル。私はそなたたち二人には永遠に一緒にいて欲しいと思っているんだよ。他の誰もイェレナ嬢の隣はふさわしくないと」
そんな風に思っていてくださったのか。イェレナと婚約して十年くらいになるが、初めて殿下から聞かされた。
「ありがとうございます。早くイェレナを見つけ出して、こんどこそ彼女に自分の想いを伝えたいです」
「幸運を祈っておるぞ」
あたかもこれから試練を迎える者に贈るような言葉に微かな疑問を抱いたが、相変わらず目を細めている殿下の顔を見たところで、その真意は掴めなかった。




