お前はペットだ
ロックの神様に見放された男が居た。
「シェケナベイベー!!」
音感もへったくれも無い、滅茶苦茶音痴なギター音。
「シェケナ!! シェケナ!!」
頭を激しく上下させ、男は兎にも角にも叫んだ。
「やかましい!!!!」
──ボゴォッ!
「グフッッシェケナ!」
その強烈な延髄蹴りは、ロックの神様の代行だろうか、男は下された天罰に藻掻き苦しみ、そして涙を堪えた。
「何を朝から騒いどるじゃワレェ!!」
「すみません……すみません…………!!」
「こちとら朝ドラに勤しんどるの、ワレも知っとるやろ!?」
「すみません……!!」
まるで極道が憑依したかのような気迫迫る物言い。男の妻は、男の脇腹を踏み付けると、男のパソコン画面に目が行った。
「ん、何これ……?」
それはネットショッピングのページだった。ページは既に決済済みの表示が出ており、妻は即座に男の尻を蹴っ飛ばした。
「ごらワレェ!!」
──ボフッ!
「しゅみまシェケナ!!」
「何を買うた!?」
「ゲ、ゲームです!! 限定版のゲームですっ……!!」
「そか、幾らや?」
「…………」
「言わんかいタココラァ!!!!」
「シェケッ!! ご、五千円が二つです!! 二つだけです!!」
二つだけ。その言葉に妻がキレた。
「おんどりゃー!! 貴様の小遣い500円で一万円のゲームが買えるわけあらんやろクソボケハゲウンコナスが!!!!」
──ボゴォッ!!
「──シェケナッチ!!!!」
男はボコボコに蹴飛ばされ、既に軽く痣が出来ている。しかし妻の怒りは治まる気配が無い。それでも男は土下座で頼み込んだ。
「お願いします!! ようやく見付けた限定版なんです!! お願いいたす!! 何でもしますから……!!」
「あ、そ。じゃあ、ソレ届くまでお前はペットな」
「──へ?」
妻は男の首にベルトを付け、荒々しく引っ張った。
「ゴフッ……!!」
「ほら! 鳴いてみろ!!」
「……ワ、ワン!!」
──ボゴォッ!!
「ゴフッコリーナ!!」
「お前は犬か!! 人間の鳴き声をやれと言っているんだクズ!!」
男は全身の痛みでそれどころでは無かったが、ようやく許しが出たゲームである。ここは涙を飲んで従うしか他に道は無かった。
「…………アァン♡」
──ボゴォッ!!!!
「汚い声を出すな!!」
「うぐぅ……お腹痛い…………」
そして男は次の日までボロカスに扱われた。
──ピンポーン!
「お届け物でーす!」
開け放たれたドアからは、全身痣だらけの首輪人間が現れた。宅配の業者が一瞬妻と目が合い、そして旦那を見て全てを察した。
「お、お楽しみの最中すみません!」
「違う……違うんだ…………」
男は涙ながらに訴えたが、業者はサインを受け取ると速やかにその場を去った。
「チッ! もう来やがったか……」
首輪を外し解放された男は、届いた段ボールを開けた。
「ううっ……念願の新作がやっと…………!!」
男が手にしたゲームを見て、妻はちょっと疑問を呈した。
「…………なぁ、それ何が違うの?」
「えっ? 限定版と特別版だよ? よく見て! パッケージが違うんだよ! ずっと前から魔女っ子ダ・クァポの限定版と特別版が欲しくて仕方なかったんだ!」
妻は男の言葉を理解する前に足が動いていた。
──ボゴォッ!!
「シェケッ!!」
「結局中身は同じモンやろが!!!!」
男は酷くもんどり打ち、妻は追撃のコンボで更にダメージを加える。
──ボフッ!
──バギィ!
「死ね!! 死ねぇぇ!!」
「ヒィィ!! すみません!! すみません!!」
「人がたまには許してやればしょーもないモン買いやがって!!!!」
「ごめんなさい!! 許して……っ!!」
「罰として一ヶ月ペットフードの計だ!!!!」
「ロックンロール!!」
こうして、男は一ヶ月の間、ペットとして飼われたと言う…………。