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妖精と大鯰

 ~~~SIDE アンネ~~~


 私はふわりと空を飛ぶと、風を捲き上げて風刃を大鯰に放った。


「っち!行くぞオラぁ!」


 リーダーの一声で冒険者たちは弾かれたようにそれぞれの行動を開始した。

 パーティは6人、前衛は剣を持つリーダーと槍を持つ男性と斧を持つ女性。それに魔術師と僧侶の後衛2人。最後に私、アンネを入れて6人になる。


 基本的にはリーダーを除く前衛2人が前に出て、リーダーは要所を見つつ指示と前衛のサポートを兼務、その間に魔術師が魔法で攻撃し、僧侶は神聖魔法で回復や味方へ強化魔法を飛ばすような戦い方をしている。それに、私が加わる形になる。


 しかし、現状その方法は下策にしかならなかった。

 何故なら、前衛であり、最も突出していた斧持ちの女戦士が斧を構えて前進した途端、大鯰が女戦士に突進。陸地へと体が乗り上がるのも気にせず、その身を丸のみにせんと襲い掛かってきたのだ。


 女戦士はその攻撃に怯み、槍持ちの援護も空しく押し切られてしまった。


「……あ」


 直後、女戦士の体は大鯰の口の中にあった。時間にして僅かに1秒、その一瞬の時間がまるで緩やかに過ぎるかのようにはっきりと見えた彼女の呆けたような顔が、上下の唇によって遮られる。


 一瞬おくれて響く何度かの打撃音と、声にもなっていない半狂乱のくぐもった叫び声、しかしそれもすぐ聞こえなくなり、次に口を開いた大鯰の口の中には女戦士の姿は無かった。


 女戦士の死、それは冒険者達に相応の衝撃を与えたようで、僧侶と魔術師が半狂乱になって後ずさる。

 しかし、その直後に更なる絶望が私達を襲った。


「お、おい!後ろにもいるぞ!」


 そう魔術師の男の方を見れば、前方にいるのとは別の大鯰が、後ろからも姿を現していた。

 私は頭の中で何をすれば最も彼らに痛手を与えられるか考え、相手を混乱させる魔術を使おうとして……。


「仕方ねぇな……緊急だ、俺はエルをやる、お前はキノンを」


「……!分かった」


 リーダーと槍持ちが投擲した武器が、綺麗に魔術師と僧侶に当たり彼らを即死させたことで、思わず思考が止まった。キラキラと塔の魔物が消滅する時と同様に消滅していく冒険者の姿を見ながら、私は慌ててリーダーに詰め寄った。


「ちょ!あんたたち、何してんのよ!」


「あぁ?見てわからねぇか?こりゃ負け戦だ。なら、サーネみたいなトラウマ体験する前に、死んで一回脱出したほうがいいだろう?」


 それを聞いて、私の頭は瞬時に沸騰する。


「何をアホなこと言ってるのよ!賢者様がそんなこと望むはずがないでしょ!行き詰ったら死んでリセットなんて、馬鹿のすることよ!」


「そう思うんならいいが、これは詰んでる。せっかく生き返れるんだ、死んでもやり直せるんだから、利用すべきだと思うがね」


 そう言ったリーダーと槍持ちの男は、私の激昂を無視して首筋に短刀を当て、引き抜いた。


「あ、あいつら……!」


 キラキラと跡を残しながら消滅する二人の冒険者を見つめる私を、二匹の大鯰が感情の読み取れない眼で見つめていた。


~~~~~~~~SIDE グォーク

「くっ!ジャマだ!」


 俺はシィラの実の匂いを追って走り回っていたが、そこを厄介な魔物と厄介な地形が阻んでくる。

 襲ってきたのは泥人形や沼スライムなどの泥にまつわる魔物や、地形に関係なく襲い来る鳥や虫などの飛行する魔物等だ。


 それだけなら俺は適当に腕を振り払えば吹き飛ばせる程度の魔物しかいない。それだけなら、妖精村を出たばかりの魔物としては不思議はない。

 だが、それでも俺が苦戦しているのは、その地形によるものだ。


 11階層は沼地。他のオークに比べれば軽いとはいえ、巨体を持つオークと沼地の相性は悪い。

 さらに言えば、自業自得とはいえ、俺が匂いを追いかけることに集中したせいで、他の一切を無視して追跡した結果、いつの間にかぬかるんだ沼の中へと入り込んでしまっていた。


 大地を踏みしめ、無理やり通り抜けることで走り抜けることができる程度のぬかるみ。だが、一度大量の魔物達に囲まれ、足が止まると、次の一歩に泥がまとわりつき先に進むことが困難になった。

 仕方がないので本格的に足を止め、手元の剣に手を伸ばす。


「はっ!」


 一閃すると、そこから炎が迸り、泥人形や沼スライムの水分が飛びカピカピの土人形になる。鳥たちも危機感を感じて逃げ出したようだ。


「っ!これは、厄介だな」


 そうして先に進もうとした俺だったが、足元に抵抗を感じ、思わず下を見た。


 まぁ、少し考えれば分かることだ。柔らかい泥と乾燥した土の塊なら、どちらが脱出しやすいか、それは明らかに柔らかい泥の方が抜けやすい。

 さらに、空気まで焼けたせいでシィラの実の匂いもだいぶ嗅ぎ分けにくくなってしまっていた。


「仕方ない……急がば回れ、だ」


 俺は一度深呼吸をして、今度は足場や敵の気配にも気を使いつつ追跡を続け、そして間もなくアンネの姿を見つけることになった。


 2体のナマズのような魔物に、襲われているアンネの姿を。



恐らく今後登場しない冒険者の皆さんのプロフィール


ガルフ ランク オーク級

 40代の冒険者。男。冒険者としての腕はあまり高い方ではなく、本人もそれを自覚しているため後進の育成に力を入れている。賢者の塔には半年前辺りから潜っているが、魔物とは会話をしないスタンス&案内役を入れないで攻略していたため、かなりの回数リトライしている。

 死に戻りで立て直す方法は自分で見つけた。

 指導能力もそこまで高くなく、正直冒険者に向いていない人物。


ダイン ランク ゴブリン級

 槍使いの冒険者。男。冒険者としては駆け出し。ガルフが賢者の塔に登り始めて一月ほどのタイミングでパーティに参加した。なお、その時いたメンバーは全員ガルフとダインとはパーティを解散し次の階層に進んでいる。磨けば光るものは持っているが、まだまだその力を発揮しきれていない。


サーネ ランク ゴブリン級

 斧使いの冒険者。女。冒険者としての初めての冒険がこの賢者の塔である。以降紹介するエル、キノンと同郷で、自分がどこまで行けるのかを確かめるために訓練として賢者の塔に挑戦した。

 ガルフのことは頼りになるリーダーだと思っており、実際初心者にとっては貴重な話をいくつも聞き、身に着けている。割と才能の塊ではあるが、今回丸のみされたトラウマで現在PTSD的なものを発症中。


エル ランク ゴブリン級

 魔術師の冒険者。男。サーネと同じく初めての冒険がこの賢者の塔。同郷出身の三人の中で唯一の男であるため、自分が二人を守らなければという責任感を持っている一方、頼りにされているガルフやダインに嫉妬心を見せることもある。なお嫉妬されている側の二人からは青春してるなと生暖かい視線を向けられている。


キノン ランク ゴブリン級

 僧侶の冒険者。女。上記二人と同じく、初めての冒険が賢者の塔。三人の中では一番しっかり者であり、例え失敗しても死なない賢者の塔でどこまで行けるかを確かめることを提案したのは彼女であるし、さらに言えば先達を頼ってその技術を盗むべきだとしてガルフたちに声をかけたのも彼女である。ただし、精神は他の二人と同じく成熟しきっているわけではないため、今回の件で、少し精神的に参っている。



 なお、ガルフの言った通り、詰んだ状態で死に戻りしてリセットという方法は知られていますが、一般的にはギルドも賢者自身もその方法を推奨してはいません。

 というか、賢者で想像できる通り、塔の管理者は情報を得ようとする姿を好むので、恐怖に打ち勝って死の直前まで戦って次の勝利をもぎ取るような存在を好んでいたりします。


 まぁ、賢者の好感度が上がったとしても塔の難易度が目に見えて下がったりはしないんですけどね。

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