オークとドッペルゲンガー
焦ってしまったが、これはこれで良い展開だ。リストは正直なところ、どれほど強いのかわからない。
レベル1だというし、オークの防御を突破して攻撃を通すなんてことはないとは思うが、下手をすると目くらましやなんやらで足並みを崩される可能性もある。
リストはレベル1だが1200階層を超える猛者。今の片足を封じられた状況でも何らかの妨害をしてくる可能性は高いが、それでも足を封じることができたというのは大きい。
「おっと」
俺は偽物の俺が振るった剣を受け止める。
「……なるほど、確かに炎の剣だが、性能は違うようだな」
俺が持っているのは、ボスが精霊王からもらった物だ。その性能は非常に高い……のだろう。まがい物の魔物では、精霊王の剣は模倣できなかったようだ。炎自体は吹き上がっているものの、その炎は俺が合せた剣から噴き出した炎に飲まれて剣自体をとろけさせる。
驚愕の姿をしたオークの顔に、俺は炎の剣を振り下ろす。これで終わりだ。
「……なんだと?」
俺が見たのは、二つの剣を携え、双剣でもって俺の攻撃を耐えきったオークの姿だった。
そいつは俺が驚愕している間に双剣を振りかぶる。
「ちっ……」
俺は慌てて距離を取り、剣を避ける。その俺を追って、炎が襲い掛かってくるが、剣を一振りすればその炎は追いやられる。
だが、それで剣がとろけても、いつの間にかその剣は復活している。
「ドッペルゲンガーはそっくりそのままの姿で戦うものだと思ったが……これは、炎の剣分のハンデってことか?」
俺はそう思いながら、再び敵を観察するのだった。
~~~~~~~~~
side ボス
我は、主殿にリスト殿の偽物を足止めを伝えた後、我の偽物に相対する。そして、そのまま体当たり気味に剣を叩き付けた。
「ヌン!」
上からの叩き付け攻撃を振り下ろすと、偽物は剣で我の攻撃を押しとどめる。双方から冷気が迸り、その身を襲うが、冷気の強さは我の剣の方が強い。流石は精霊王様の剣であるな。
「ム」
嫌な予感を感じ、我は身をひるがえす。そして、その直後にすさまじい速度で我の顔を何かが掠めていく。避けたはずの攻撃で、我の顔がわずかに凍り付いた。
魔剣を投げたか……。仕留められると言うのならともかく、この状況で武器を失うというのは悪手であろう。そう思って偽物を急襲しようとした我は驚愕した。何故なら、その手には先ほどと同じ魔剣が握られていたのだから。
思わず歩みを止め、警戒する我に、偽物は再び剣を投げる仕草をする。
一投……。直後、飛んでいった剣とは別に、偽物の手元に剣が出現する。
「……これは、厄介ですな」
我は再び気を引き締めるのだった。
~~~~~~~~side アンネ
私は偽物と対峙してにらみ合っていた。理由は単純。私という存在は、私と相対した場合先に攻撃したほうが負けるからだ。
私の魔法は基本的にめっちゃ強いかめっちゃ弱いかの二通りに分かれている。
例えば重力操作や着火、水弾などは即座に魔法を使うことができるが、相手を驚かせるくらいで効果はそれほど得られないだろう。
グォーク達には結構有効な重力操作だが、体重の軽い私にとって影響は非常に小さい。
逆に、精霊王からもらった魔導書にある睡眠の霧や麻痺の雲などは有用ではあるのだが、詠唱時間が長い。恐らくそれらを詠唱した瞬間に、相手に接近され、詠唱が終わる前に口を封じられてしまうだろう。
とはいえ、ここでにらみ合っているわけにもいかない。意を決して、私は詠唱を口ずさみ始めたのだった。
~~~~~~~~side リスト
「おや、始まりましたね」
「そうだね~」
本物と偽物、二人のリストが戦いの外側からそんな話をしている。
「ところで、どうします?僕と戦ってみます?」
リストがそう言うと、もう片方が首を振ってそれを否定した。
「どうしてもっていうならするけれど、こうして足が動かないと何もできないし。それに、君は冒険者でもないし、それを目指しているわけでもない。まあ、いつものことってことで」
そう言って、偽物は残りの3人に目を向ける。
「……というか、なんかいろいろと違う感じになってますが、これは……」
あたりを見れば、双剣で攻め立てるグォークに、剣を投擲しまくるボス。アンネは特に不審なところはないが、あの二人は明らかにおかしい。
「あー、あれは多分、特殊措置?装備のレベルが高すぎて、その代替措置であんな感じになってるんじゃないかな?でも、能力とか行動パターンとかの模倣はそのままのはずだよ」
そう言い切った偽物の声を聞き終わると、リストは全体を見つめて頷いた。
「まぁ、とりあえず皆がピンチにならないように見ておきますかね」
リストはそう言うと、偽物をいない物として、あたりを観察しはじめるのだった。
ということで、偽物戦。
なお、リストくんは強いっちゃ強いし、アンネなら不意討たれてやられる可能性はあるけど、オークくらいの耐久と膂力があると接敵して逃げおおせるくらいしかできない。
仮にこの試練の達成条件が、敵全体の殲滅だったら一番厄介なのはこいつ。




