グォークと賢者の塔
精霊王から贈り物を貰って旅を再開した日から僅か半日、俺たちは今までとは全く違う、人工の建造物を目の当たりにすることとなった。
「これは……かなりすごい光景だな」
そう言った俺にアンネはふふん、と自慢げに胸をそらした。
「そりゃそうよ!ここがすべての中心、八百万の魔物の故郷、そして、2400階層を誇る大ダンジョン!賢者の塔なのだから!」
「そして、お前の実家ってわけか」
ふんすふんす言いまくっているアンネを一旦無視し、俺は改めて塔を見直した。その塔は……というか、あれは純粋な塔と言っていいのだろうか。中央には確かに巨大な塔が立っており、それが雲を突き抜けて非常に高いところまで続いている。そして、その周囲には空中に浮かぶ大きな輪。イメージ的には土星の輪の様な物が少なくとも目視できるだけで3つ、塔を中心として存在しており、その上にもいくつか部屋らしきものが見られる。
また、その輪以外にも周囲を球状の物やダイヤ状の物が浮かんでおり、絶えず塔を中心に回っていた。
個人的には宇宙人の基地を豪華にしたようなものと言うようなイメージが浮かぶ。
「……これはすさまじいものですな。こんなものを作り出す賢者殿というのは、一体どんな存在なのか。リリスウェルナ殿の時も大概震え上がりましたが、こちらも恐ろしそうだ」
そんなことをいったボスに、アンネがまたしてもふんすすんすと鼻を鳴らしていた。
そんなこんなで、少しづつ大きくなってくる賢者の塔に近づきながら、歩いて行った。
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「……いやいやいや。でかくね?」
塔を見つけてから一時間。塔の麓にようやくたどり着いた。遠くから見た時は塔に見えたが、近くから見れば……これは壁だろう。少なくとも右を見ても左を見ても視界の果てまで塔の壁面が見えるのは異常だろう。
まあ、よく考えれば2000階以上の建造物を建てるのならば、それこそ規格外の土台がいるのは理解できる。ぶっちゃければ、中世の都市国家の外壁を土台に使ったと考えればその規格外さを無視すれば、理解できなくはない光景ではある。
因みにアンネによれば、実際には2400階と言うのは正確に言えば2400フロアであり、単純に縦に2400階あるわけではなく、外周の輪や浮遊する球やダイヤの建造物に存在する部屋を全て転移陣で移動できるようにした階層が2400階層あるという事らしい。と言っても、本体である塔だけでも優に1500階層は超えているらしいが。
「で、これからどうしたらいいんだ?あの大きな門に行けばいいのか?」
そう言って指さした俺の指先には、巨大な塔でもかなりの大きさを持つ扉だった。
「あぁ、あれは巨人の中でもデカい巨人用の入口よ。えーと、ちょっと待って、巨人用の扉があっちで、こっちが一番大きな扉だから……うん、ここからならまっすぐ行けばいいと思うわ」
そうして、更に歩いて行くと、その塔に比べれば小さすぎる人影が見えて来た。それはみるみる大きくなり、その人影にも反応があるようだ。
「おい!オークが精霊郷から来たぞ!武器を持ってこい!」
「おいおい、何でオークなんかが精霊郷を抜けて来るんだよ!」
「知るか!それよりも誰か、非戦闘員を避難させろ!」
……おちつけ、うん、落ち着け。分かっていたことではないか。オークというだけで警戒されるのは当たり前なのだ。
牙を覗かせ武器に手をかけるボスを抑えつつ、どうしようかとアンネに目くばせしていると、そこでアリシアが前に出た。
「冒険者の方々よ!どうか武器を納めてほしい!私の名前はアリシア、聖都リス・デュアリスの支部ギルドに所属するオーガ級冒険者だ!今ここにいるオークの安全は私が保証しよう!もし信じられないというのなら、リスデュアリスのジュモンジ老に確認を取ってもらっても構わない!戦友というわけではないが、面識はある!」
アリシアが一息でそこまで言い切ったので、俺も前に出て口を開けた。
「俺はオーク族のグォークだ!そちらの対応に関しては、俺もオークに対する対応として不自然な物でないものであることは認めよう。だが、こちらに戦う意思はないことは伝えておく!どうか、塔に入れてはくれないだろうか」
アリシアと俺の言葉を受けて、ザワザワと冒険者たちが話し合う中、何やら別のざわめきが冒険者に広まった。どうやら、誰かが幾重にも重なった冒険者の壁を抜けようとしてきたようだ。
「はぁっ!はあぁっ!アリ、シア!今、来たのはアリシアって聞いた、っすよ!えぇい!どくっすよ!」
……おや、どこかで聞いたような……?
そうして、姿を見せたのは……やはりというかなんというか、アベルだった。
アベルはアリシアを見つけると、全力疾走でこちらに向かってきたと思うと、アリシアの肩をガッと掴んで暫く凝視した後、ヘナヘナと膝を地面につけた。
「生きて……たっすね。よかったっす。ほんとに、良かったっす」
「アベル……」
オークがらみの一件で一旦パーティを解散したり、また組みなおしたりと紆余曲折あった人物ではあったが、それでも顔見知り以上の関係だ。安堵の息を吐くアベルに、アリシアが話しかけようとして……いきなり敵意に似た眼差しで見つめられ、それ以上言葉を告げられなくなる。
「でも、なんっすか!こんな元気そうな姿でひょっこり出てきて!元気なら、なんで俺に連絡くれないっすか!?俺、ジュモンジ老がアリシアを連れて帰ってこなかったって聞いてわざわざ旧オークキング集落まで探しに行ったんすよ!?それに、グォークの旦那のところの集落にも行ったんすよ!まあ、そのおかげでここには来れやしたが。そもそも……」
そう言って涙さえ流しながら言いつのるアベルに、アリシアは焦ってアベルをなだめすかしていた。
結局、いろいろと話し合った結果、再びパーティを組むことになったようだ。なんだかんだ言って、心配して探しに行ってくれたことを知ったこともあり、アリシアも満更ではないようだ。
「あぁ、その、グォーク達にはかなり世話になっていたから、少し申し訳なくも思うのだが、あの、パーティを解散しても、良いだろうか?」
おずおずと、確かめるように聞くアリシアに、俺たちは笑って頷いた。
「別に構わないぞ。そもそも、アリシアと旅をしたのも成り行きだったからな。それが楽しくなかったとは言わないが、アベルの方が先にパーティを組んでたんだしな」
「アリシア殿、貴方は良い騎士です。また味方としてあい見えること、期待しておりますぞ」
「まあ、これが今生の別れってわけじゃないしいいんじゃない?あ、でも、私達と一緒に行けば竜のじーじ、竜帝様に会えるわよ?冒険者としては一度はあっておきたい相手じゃない?」
そんなことを言う俺たちに、アリシアは少し涙混じりに微笑んで、お礼と別れを告げたのだった。
賢者の塔は、建築物系の魔境としては最大の規模を誇ります。(単純な敷地面積だと、賢者の塔の立つ精霊郷や、空に浮かぶ浮遊大陸、黒き茂みの森なんかには負けますので)
一方で、難易度に関しては、どの魔境よりも難易度が高いとされています。
それというのも、賢者の塔には、賢者が長年かけて集め、育てた強力無比な魔物たちが待ち構えているからです。具体的に言うと、上位3体が塔の外で活動しているため欠番となっているものの、竜帝様が序列13位に甘んじるくらいには上位勢はとんでもない実力の持ち主です。
なお、欠番の一人はどっかの離宮のスライムだったり。




