オークの子育て
作中では明言されていませんが、現在出て来たキャラの中で服を着ているのはアルトバイアン村の面々と女神さまだけです。なんとなれば女神さまも”そう見えるようにした分身体"なので全裸とも言えます。
オークに着衣を期待するなど無駄な希望なのです。
俺は今日も今日とて雌オークを避けつつ、狩りにいそしんでいた。
……しかし、あの雌オークは少し不思議だ。オークが特定のものに執着することは殆どない。婚姻関係になった雄オークが妊娠した雌に執着するのが特殊な状態なだけで、基本的には少しよそ見をした程度でその集中は霧散してしまう。
ただし、一つのことに熱中すると基本的にそれ以外の対象に鈍くなるので、そもそも狙った獲物を見失うということ自体が稀であり、『強引に視線を逸らさなければ一つの獲物を追い続ける姿』だけを見れば執念深いと言えるかもしれない。
そこを行くと、雌オークの執着度合いはすさまじいものだ。他の雄オークなど見向きもせず、俺だけを狙っているように感じる。まあ、だからと言って雄ゴブリンや雄ウルフにぶつけるとそっちに行くので今のところ問題ないが……。
若干目を遠くに移しながら、オークの集落を歩いていると、今日も今日とて酒池肉林の真っ最中だ。
そんな中に、へその緒が繋がった小さなオークの姿を見つけた。新しい生命の誕生の瞬間、感動的だ(棒)と気のないことを考える。
そもそも、オークにとって子どもというのは、性欲を解消していると勝手にできてしまうものだ。前世での望まぬ妊娠のように邪魔だと言って堕胎される……なんてことは全くないが、逆に慈しもうとか、大事に育てようとかいう考えも全くない。勿論、母親が妊娠中でも行為を控えることは全くない。
というか、妊娠しているという状態はまさに婚姻状態であり、一体のオークを相手にすればいいので母体の負担は軽減されるものの、オーク側から見れば行為回数はむしろ増加する傾向にある。
まあ、誕生直後の俺もそうだったが、いくら妊娠中に致しても流産を起こさず、誰が世話をするわけでもないのにすくすくと育ってしまうオークの子どものたくましさと成長スピードを考えれば、別に構わないと言えばそうなのだろうが。
とにかく、子どものオークは世話を全く必要としない。
だが、意外なことにオークを世話しようとする者は存在する。
それが、オークに捕われ、繁殖相手として使われている雌達によるものだ。
当然、オークたちは(仮に子供を産んだ雌オークであったとしても)育児をすることはない。また、無理やり犯されている雌達にも、育児をする理由はないように思っていた……のだが、そうでもないらしい。
本来なら、その育児にかけられる時間は、相手のオークが狩りなどに言っている短い間のことで、脱走なり抵抗なりあるいは体力を温存するための貴重な休憩時間のはずなのだが、それ等を放棄してでも育てる理由があるのだろう。
例えば、獣の本能だったり、
自分がこんな目に合うならいっそ他人も、という昏い思いだったり、
あるいは逆に、絶望と快楽の狭間で狂いオークの孕み袋にされるのが一番の幸福であるという妄執に取りつかれたり。
はたまた、自分のような境遇を少しでも減らすためにオークを少しでも理性的に育てようとしたり、と言った感じだろうか。
まあ、そのように何か指図している母親たちのことなどどこ吹く風と言った風なオークの子供は、結局のところ俺のような例外を除けば本当に些細な差異があるかないか程度の結果しか生み出さず、要するに彼女たちの努力は殆ど無駄に終わってしまっているのだが……。
因みに、出産直後に生まれ落ちたオークが仲間オークを餌と思って襲い掛かることが、俺の知る僅かなオークの学習機会だったりする。身体能力としては人間の大人と子供ほどの差はない両者ではあるが、体格やリーチの差があるため普通に生まれたばかりの方が相手が交尾に戻るまで殴り続けられ、半殺しの憂き目に合うのが一般的である。
この半殺しを経て、オークたちは同族を襲わないという、ある意味基礎の基礎と言える常識を学ぶのである。
そのため、母体が逃げ出し、オークが周囲に存在しない状態で出生する。食べ残しの食料に飛びかかり、無事に食料をせしめることに成功する。など、生後数日で他のオークに襲い掛からなかったオークは、基本的にその後も他のオークに襲い掛かっているのを確認している。本当に、最初で最後の学習なのかもしれない。
なお、この時オークでなく雌に襲い掛かった個体は、行為中のオークに容赦なく縊り殺されていたりするのだが……まあ、蛇足だろう。
俺は生まれたばかりの子オークに話しかける、女騎士だった雌を見ながら、その場を後にしたのだった。
今日はもう一話投稿します。