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グォークと湖の精霊

「ちょっと、そこの方たち、待ってくれないかしら」


 俺たちがアリシアを目指して疾走していると、大きな湖に差し掛かったところで声がかかった。


「済まない、今急いでいるんだ!」


「そう言わないで、ちょっとお話ししましょう」


 そんな声に無視を決め込もうとした俺たちだったが、アンネがそれを静止した。


「待って、もしかしたら、アリシアかアリシアを連れ去ったやつがここに寄ってるかもしれないわ、話を聞いてもいいかも」


「……そうですな、もし相手の目的地が分かれば、先回りさえできるやもしれません」


 アンネとボスにそう言われ、俺も声の方に向き合うことにする。声の主はどうやら精霊のようだ。湖の上に立っており、その体も透き通っている。所謂ウンディーネとかいう奴だろうか。


「分かった、少し話そう。だが、さっき言ったように今急いでいるんだ、それほど時間は取れないぞ」


「ええ、勿論。では早速……」


 そう言って声ウンディーネは一瞬湖の中に潜ったかと思うと、次の瞬間にはハムスターのような何かを2匹手にもって現れた。


「貴方の……じゃなかった。ここに落ちたのは、このゴールデンリトルウィッチフェアリーですか、それとも、この灰色のリトルウィッチフェアリーですか?」


「いや、知らんけど」


 まさか、異世界に来てまで金の斧のまねごとをさせられるとは思わなかった。いや、というか、わざわざ引き留めておいてするのがそれかい。


 心なしかアンネやボスも不満そうな顔をしているし、なんとなればウンディーネ自身も、ですよねー、みたいな顔をしている。


「まあ、セオリー的には、灰色の方なんじゃないのか?」


「お、正解です~。……セオリー?……私の存在って、そんなセオリーができるほど有名になってるんですか?」


「……まあ、それは兎も角、俺たちはどうしたらいいんだ?言っとくが、別にそのハムスターもどきはいらないからな」


 それを聞いて、ウンディーネは複雑な顔をする。


「そうですよね~。そもそも、あの人が落ちなければこの問いをあの人にして終わりだったのに」


「あの人?」


「ええ、ちょっと待ってください、……ほら、この人」


 そう言って、ウンディーネに引っ張り出されたのは。


「アリシア!?」


鎧のままずぶ濡れになって意識のないアリシアだった。


「おやおや、知り合いだったんですね。それじゃあ、あなたが落としたのは、この立派な鎧のアリシアさんですか?それとも、この一糸まとわぬアリシアさんですか?」


「言ってる場合か!」


 嬉々として問いかけてくるウンディーネに、俺は苛立ちながらも答える。


「ちょっとグォークしっかり考え……」


「アリシアさんが鎧のまま湖の飛び込む自殺志願者なわけないだろ!」


 その答えを聞いて、ウンディーネが大きく目を見開き、二人のアリシアを湖に沈める。


「嘘つきにはどちらも返還できません」


「は?」


 そうして、アリシアは湖の中に完全に沈み込んでしまった。残されたのは、呆れるアンネと、茫然とするボスと、そして、気まずそうにするウンディーネだった。


~~~~~~~~~~~

「それじゃあ何か?お前は湖の精霊で、お前の問いかけによって徴収された物は、お前自身でも勝手に返却できないってことか?」


「ええ、そう言う事なのよ~困ったわね」


「困ったわねじゃないんだよ!お前が原因だろうが!」


 あの後、湖の精霊と話し合った結果、以下のことが分かった。


1、彼女は湖の精霊で、彼女のいる湖に完全に沈んだ物は生物、非生物問わず時間が凍結され、返還されるときまでずっと沈んだ当初の状態で保存される。


2、湖の精霊から物品を取り返すためには、基本的に問いに対して正しい答えを返す必要がある。そこに精霊の情状酌量などはない。


3、仮に底引き網などで無理に取り出そうとすると、途中で凍結された時間が急速に加速し、使用に耐えないほどに劣化した、湖のゴミとなる。


4、正しい答えを返した者に対しては、元々落とした物品に加え、それの上位互換的な物品が贈与される。


と言うことだ。自分のやっていることなのに自分で決められないのはなぜなのか、と聞いたところ。


「例えば、炎の精霊だったら、炎を使いますよね?雷の精霊だったら雷を、風の精霊だったら風を生み出します。

 だけど、炎の精霊だからって、熱くない炎を出すことは出来ないし、雷の精霊だってビリビリ来ない雷を生み出すことは出来ません。

 私は、湖に物を落とすと、何者かがそれを拾って、正直者には落としたもの以上の富をもたらす、という伝説をもとにした精霊です。だから、炎の精霊が熱くない火を出せないのと同じように、湖の精霊は答えを間違った者には池の中の物を返すことは出来ないのよ~」


 ということだ。因みに、アンネが噛み砕くと。


「要は、精霊っていうのは知的生命体の認識を元に生まれて、生まれた瞬間から、その元となる認識を逸脱できない呪いみたいなのがかかってるのよ」


 とのことだった。だが、それで諦めるわけにはいかない。


「もう一度確認するが、アリシアはまだ生きてるんだな?」


「そうよ~、時間の凍結をやめてないから、おぼれたりもしていないわ~」


 湖の精霊の言葉に、俺たちは頷いた。


「そして、アリシアを救い出す方法はあるんだな?」


「えぇ、何個か思いつくわ~」


 そう言って、湖の精霊は指折りその解決策を伝えて来る。


「まず一つ、私を消滅させること。精霊の力も、流石に消滅後には効果を示さないわ~。まあ、尤も、私の力がなくなれば、彼女はおぼれてしまうけれど」


 そう言って、彼女は更に指を折った。


「二つ目、アリシア……だったかしら~。彼女が目覚めるのを待つこと。元々、私の元となった伝説は生き物じゃなかったから、生物なら抵抗自体は出来るはずよ~。まあ、目覚めるのが十年先になるか、百年先になるかは分からないけれど」


 さすがに百年もたつ可能性があると言われれば、首を振るしかない、というか、一年……いや一月を超えるなら、例え目の前の精霊が時間を止め続けたとしても問題しかないだろう。それを見て、湖の精霊はもう一つ指を折る。


「なら、知り合いを連れて来てくれれば、もう一度最初の質問から初めてもいいわよ~。それで正解したら、その人に返す、って形で解放出来るわ~」


「……一応、アベルの奴を呼べれば、行けるか?」


 俺の言葉に、アンネが頷く。


「そうね、アベルが精霊郷に来てくれれば、可能ね。だけど、それをするためにどれだけの時間がかかるかっていうと、結構大変よ。そもそも、あなたたちは当然としても、私も基本的に賢者の塔から出たことないわよ?」


 つまり、アベルの場所は分からないということだ。まあ、極論、スライム離宮までたどり着いて最寄りの町に行けば何とかなる様な気はするが、それでアベルを引っ張り出してここまで連れて来る……それはかなり骨が折れそうだ。


「……もし、他に方法があるのなら聞きたい。一応候補に入れるがその方法は、他に選択肢がなかった時にしようと思う」


 俺の言葉を聞いて、湖の精霊は頷いて指をもう一つ折った。


「なら、これが最後の手段。精霊王様にお願いするしかないわね~」


「ちょ、待ちなさい!精霊王!?あなた、精霊王って言った?」


 アンネが慌てて聞き返した。


「そうよ~」


「いやいやいや……会えるの?嘘でしょ?」


 アンネの慌てぶりに、俺たちが聞き返すと、アンネが諦めたように呟いた。


「精霊王ってね、この精霊郷の魔王でもあるんだけど、精霊王、魔王の他にも、一つ呼び名を持ってるのよ」


 そう言って、アンネは諦めたように息を吐き出した。


「概念王、存在しない概念のみの存在だ、ってね」

湖の精霊(この人性欲強そうだし裸に剥いとこ)「どっち?」

グォーク(常識的に考えて鎧で湖には入らんやろ)「裸の方が本物」

湖の精霊・グォーク「「え?」」


 なお、仮に時間的余裕があったとして、そして、アリシアが服を脱いでいたとしても、出身が内陸国のため泳げなかった模様。



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