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オークの婚姻

※婚姻と書いていますが婚姻ではありあせん。

 俺は現在、怖気にも似た感覚をもって、全力で逃げ出していた。


「フゴッ!フゴーッ!(オカス!オカス!)」


 そう、俺は雌オークに追われていた。勘違いされがちだが、オークにもメスは存在する。とはいえ、その絶対数は圧倒的に少ない。恐らくだが、理由は習性や能力が関係あるのだろう。


 能力と言うのは単純で、雌オークは雄オークに比べて肉体能力が低い。雄オークならば一撃のもとに屠ることができるポイズンスネークだが、雌オークだと正確に当てたとしても一発では殺せない時がある。

 まあ、あくまでもオークの中で、という話なので、殴られる側からすれば即死の一撃が瀕死の一撃に変わったに過ぎないのだが。


 一方で知的能力はオークとしては高くなる傾向がある様で、崖から落ちたり溺死しているオークの中に雌オークは見当たらない。

 とはいえ、所詮はオークの知能。多少判断能力が上がったからと言って、仲間であるはずのオークから獲物を横取りしようとしたり、あるいは何もないときに殴りかかったりして腕力でねじ伏せられそのまま息を引き取る様な姿をよく目にするのだが……。


 また、オークの習性として俺が勝手に婚姻関係と名付けているものがあるのだが、その影響もあるだろう。

 当然、人間の婚姻関係とは全く異なる形態のものなのだが、他に言いようがないのでそういう風に名付けている。

 端的に言えば、雄オークは雌を孕ませるとその相手が出産するまではそのオークが孕ませた雌を独占し、逆に雄オークもその雌以外見向きもしなくなる。という習性があるのだ。

 因みに、いくらオークの性欲が非常に強いと言っても、四六時中性行為だけにかまけているわけではない。

 そのため、捕まった直後の妊娠するまでの乱交状態と比べて余裕を持てる雌達は、励まし合ったり、逃走を企てたりすることもあるようだ。

 場合によっては、人間とゴブリンの、種族を超えた友情じみた場面に遭遇したこともある。


 そんな婚姻状態だが、雌オークにその概念はない。雌オークは自分が妊娠しようが関係なしに行為にふけることになる。異種交配が可能で、出産率も高いオークにとって婚姻状態というのはありふれた状態であり、全体の半数程度は常に婚姻状態となっている。それはつまり、雌を奪い合うのは残った半数の雄のみであるということだ。

 そんな中、常に複数の雄と関係を持たずにはいられない雌オークは、他の雌オークとの衝突が必然的に多くなっている。


 さらに、そうして数が減る雌オークのもう一つの問題が食料問題だ。オークの雄が他種族の雄を食べるように、オークの雌が食べるのは他種族の雌だ。だが、雌というのはオークの雄にとっては生殖相手だし、雄は食料だ。


 要は、生殖相手と食料を巡って、雄雌が対立して争うのである。そして、そうなってしまえばわずかとはいえ身体能力の劣る雌オークに勝ち目は薄い。全体で協調性を持たないオーク族であるが、その中に有って交配相手の確保というのは、ほぼ唯一彼らが協力する事象なのだった。


 ……と、そんな現実逃避もそこまでにしよう。そろそろ雌オークがかなり近くまで迫ってきた。実のところ、俺の身体能力は雌オークよりも少し弱い。これは、俺が人並みの知能を持った特殊個体だからではないかと思う。知能が上がるほど身体能力が下がる。何となく納得できる話だ。


 そして、そんな(オークにとっては)ひ弱な俺を、あの雌オークは交尾相手として選んだらしい。


 冗談じゃない!俺は確かにオークに転生し数か月過ごすことで、自分がオークであることを認めている。それどころか、オークの蛮行や馬鹿な行いに頭を抱えつつも、まるで幼子を見る時のような微笑ましさ……いや微笑ましさはないな。まあ、兎に角、兄が年下の兄弟を見る時のような連帯感を感じることさえあった。それに俺だって男だ。前世の倫理観的に雌を捕まえたり、手を出したことはないが、性欲が無いわけじゃない。


 だが、転生してまだ数か月。衣食住についてはある程度諦めもつき、オークの感性にも慣れてきたが、美醜の判断までオーク並にはなっていない。要は、オークでは勃たない。


 必死に逃げていると、ふと、視界の端に老齢のゴブリンの姿が見えた。よし、悪いがゴブリンには犠牲になってもらおう。雌オークが賢いと言っても、所詮はオークだ。あらかじめ決めていたエサがあったとして、捕りやすいエサを逃すような我慢強さは持っていない。ゴブリンの集落で大量の雄を入手したなら、俺を追いかけることもしばらくはないはずだ。


 そうして、俺が数週間雌オークに追いかけられなくなる代償に、ゴブリンの集落が一つ、壊滅したのだった。

 

 

 因みにオークに対するハメ技じみた行動が使えないので、討伐難度としては雌オークの方が難しいと評価されています。

 まあ、障害物や見え見えの罠を無視して敵に直進しかしないAIが障害物や見え見えの罠だけは避けて直進するAIになった程度ですが。


 なお、急所狙ったり避けたりする脳は無いので雄オークには嬲られます。

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