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幕間 真紅の竜女は少女を助く。

後半です。

 ぼくの村は、普通の村だ。火竜山脈にほど近い。農業と、鉱山で成り立っている、ただそんな村だった。


 あいつが来るまでは。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「イヤァァァ!?ネア!ネア!」


「GRURUUUUU、女ノ肉、ヒサシブリノゴチソウダ」


 そいつは村に現れて、隣に住んでたネア姉ちゃんを、一吞みにしてしまった。ぼくは茫然としていたけど、母さんはそいつに縋り付いて……食われてしまった。男も女も、動けたのは母さんただ一人だけだった。

 そいつはデカいトカゲのような姿をしていた。まるで教会の建物のように大きくて、厳めしい鈍色の鱗を身に纏っていた。体のところどころには苔むしたような植物が生えており、先ほど二人を呑み込んだ口は、大の男が立っていたって関係なく呑み込むほどの大きさを誇っていた。


「GURARARARA、ウマイ、ウマイ。女ハ美味イナァ」


 ぼくたちが何もできないでいると、そいつは顔を器用にゆがめて、こう声を出した。


「オレハ、慈悲ブカイ、モシ俺二イケニエヲ捧ゲルトイウノナラ、一年二一度ノイケニエデコノムラヲ見逃シテヤル。明日ノヒグレマデニイケニエヲオレノ巣二持ッテ来ナカッタラ、村ヲホロボス。選ブコトダ」


 そして怪物が去って残されたのは、茫然としているぼくたちと、破壊されたいくつかの建物だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 沈痛な雰囲気の漂う村長宅に、ぼくは呼ばれた。


「……分かってくれ……あいつに対抗するすべは、この村にはないのじゃ」


 ぼくは、あぁ、と思った。ぼくは孤児だった。冒険者をしていた父が死んで、その後を追って本当の母さんも病気で死んでしまった。残ったぼくを助けてくれたのは、ネアの母さんだった。

 ぼくは、常ならば幼いと言えるくらいの歳で一人暮らしをしていたけれど、頻繁に母さんが見に来てくれていた。


 でも、その母さんもいなくなり、誰かを危険にさらさなければならないのなら……。


「ぼくが、生け贄に行けば、いいんですね」


「おぉ、分かってくれるか?」


 それを聞いて、僕は首を横に振った。


「行きたくありません。……いやです!なんで、なんでぼくが行かなきゃいけないんですか!痛いのは嫌だ!怖いのも嫌だ!食べられるのだって、嫌だ……」


 それを聞いて、村の長老たちは息を呑んで黙り込んだ。この村はいい村だった。ネアの母親が極端に僕に構っていただけで、村全体で孤児を育てようという気風がある、食料にも、人々の心にも余裕がある村だった。ここに集まっている長老たちだって、ぼくの家に何度も足を運んでくれる人たちだ。


「嫌です……嫌なんです。だから、だから、ぼくの家の棚にある薬を……ぼくに飲ませてください」


 それを聞いて、父さんの冒険者仲間だった長老の一人が再び息を呑んだ。多分彼は知っているのだ、そこにあるのは睡眠成分のある粉末だというのが。ぼくが、せめて意識のないまま生け贄になりたいと言っているのだと。


「すまん……本当にすまん!この敵は、必ず!必ず取る!こんなことしか言ってやれん儂らを、恨みたければ存分に恨め!どうか、お前の冥土への道が、安からんことを……」


 こうして、ぼくが生け贄に行くことが決まったのだった。


 生け贄になる準備は夜通し、そして日が昇っても行われた。かの化け物の気を悪くしてはいけないと、村一番の上等な着物を着せられ、見目も整えられた。そして、大人たちがぼくを運ぶ台車を擁したのを最後に、ぼくは薬を飲まされて意識を失ったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 暖かい、温かい場所。多分それは死後の世界。だって、ぼくは、生贄に出されて……。

 ”キュァアアアアアアア!!!”


 夢うつつに突如鳴り響いた声に、思わず目を開くと、そこには、ネアを捕食した、あの顔があった。


「……ヒッ!?」


「ヨウヤクメザメタカ。全ク、ニンゲン共ハ判ッテイナイ。獲物ヲ食ベル時ニハ、ソノ反応マデ楽シマナケレバ」


 なんてことだ、こいつは、この化け物は、ぼくが怖がって、悲鳴を上げて、化け物を恐れていることを見て、楽しんでいるのだ!


「村デハ、長イ間ハ楽シメナカッタカラナ。ユックリ仕上ゲテヤロウ」


 ……どうやら、ぼくは長い間苦しむことになりそうだ。せめて、早く死んでくれと内心で思いながら、ギュッと目を瞑った僕は……しかし、つんざくような化け物の悲鳴で顔を上げた。


「全く、訪問の挨拶をしたというに、このサスティナを無視するとは、死にたいようじゃな」


 それは、赤だった。優美な翼、滑らかな身体。力強い前脚。そして、威厳を感じる顔立ちで、それは少しトカゲのようだ、というだけの僅かな共通点はあるその化け物の首を噛みつけていた。しかし、それが痛打にならないのが化け物のようだ。


「グググ!ギザマ、何者ダ!ココハ我ノ狩場!後カラ来タ雑魚ガデシャバルナ!」


「……ほーう」


 真紅のドラゴンが、短い腕を鈍色の化け物に回した。


「貴様、わらわが雑魚と言ったかえ?ならば、この一撃受けて見よ!」


 短い腕は、攻撃のためではなかった。がっちりと掴まれた鈍色の化け物に向かって、赤いドラゴンが口を向ける。

 そして、その口から灼熱の炎が顔を出した。


「ソノヨウナ炎ナド効カnUGYAAAAAAAAAAA!???????」


「ふん、真なる龍王の末裔であるわらわの炎をなめるでないわ」


 鈍色の化け物は、あっけなく……本当にあっけなく炎に焼かれ、塵になってしまった。


「ふむ、予定とは違ったが、ここは村も近い。ここで人を待つことにしようか……の?」


 悠然とあたりを見回す真紅のドラゴンの目が、ぼくを捉えた。


「……む、えーと、あー。ようこそわらわの住処に!」


「貴方もここに来たばかりじゃないですか」


「あう……」


 気まずい沈黙、あの化け物を一瞬にして滅ぼしてしまったドラゴンがおろおろする姿がなんだかおかしくて、くすくすと笑ってしまった。


「ふふふっ、それで、ドラゴン様。貴方の住処にたどり着いたぼくは、どうされてしまうのでしょう?ぼくは、あなたになら、全てを捧げられそうです」


 先ほどの化け物ににらまれ、それがある意味滑稽なほどに簡単に排除されたせいだろうか、ぼくは異常なくらいに落ち着いてそんなことを答えた。それに、あの化け物を倒した、真紅の美しいドラゴンだからこそ、本当に全てを捧げる気になっていた。


「……んっ、そうか、んー。ならば、えー、お主、チカラが欲しくはないか?わらわと比肩するほどの力を得て、わらわと肩を並べて生涯共に歩む者を、わらわは探して居るのじゃ」


 そう言われて、ぼくが思い浮かべたのは、先ほどの化け物に食われたネアと母さんのことだった。


「力が欲しいよ!みんなを守れる力が欲しい!」


「良いじゃろう!わらわの元へと来るがよい……あ、でも、知り合いとかもいるじゃろうから、一度お主の住処へと向かうとするぞ」


 そんな、尊大な口調とはうってかわって相手を配慮した言葉に、またしてもぼくはくすくすと笑ってしまった。


 その後、村の人たちがドラゴン様の来襲に腰を抜かしたり、ぼくが生きていることに歓喜の声が上がったりといったことがあった後、ぼくはドラゴン様と共に旅立つことになった。

 この後、何が起こるのか、それは分からない、けれど、きっと、今までとは全く違う、とても愉快なことが始まる様な気がしていた。


「よろしくお願いしますね、ドラゴン様」


「ええい、ドラゴン様ドラゴン様とうるさいわ、わらわにはサスティナという名前があるのじゃ!」


「はい!サスティナ様!」


 こうして、ぼくとサスティナ様の冒険が始まったのであった。

☆アークアースリザード(鈍色の怪物) ランク シーサーペント級


 アースリザードが時間をかけて知性を得た姿。最も脅威なのはその外皮の硬さであり、鉄壁の防御力を誇るとされている。 その巨体は山を思わせるほどであり、攻撃が殆ど通用しないことで有名である。

 基本的に温厚な個体が多いため、話し合いをすれば問題を解決できることも多い種族ではあるが、仮に戦う場合は眼球等を狙ったり、体内から攻撃するのが効率的である。


☆ノーブルドラゴン(サスティナ) ランク マンティコラ級


 強力な種族であり、戦うという選択肢を避けるべき相手である。幸いなことに、ドラゴンたちは理性的な個体が多いため、話し合えば何とかなることが多い。話し合いで解決できないならば、諦めるしかないだろう。



 なお、もし生贄が成立したとしても、賢者の塔まで話が伝われば即座に倒せるだけの戦力が派遣されるので、”鈍色の化け物”ことアークアースリザードさんの運命は遅いか早いかの違いで破滅しかなかった模様。


 そしてよく考えなくても、家の前で家主を無遠慮に呼び出しておいて、返事が無かったからという理由で暴行を加え、更には灰塵に帰すなんて所業をやっているサスティナさん。明らかに頭おかしいんだよなぁ。まあ、目的達成できてよかったんじゃないかな?うん。


……なおタイトル



 話数調整もかねて、今日、2章も1話投稿します。

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