グォークと魔王
本日2話目です。3話目は5時くらいに出す予定。
俺の目の前には4人の人物……人物か?まあ、とりあえず話の出来る奴が4人座っていた。
まずはジュモンジの暴走のせいで置いていかれたアリシア。彼女は元オークキングの集落跡の残骸に三角座りしていじけている。
次にアンネ。彼女は俺の前で居心地悪そうにふよふよと浮きながら、器用に正座していた。
そして、ここからが頭を悩ませるものだ。
「主よ、どうなされた?」
心なしかイケメンになったオーク、ボスは、先ほどからっからに乾いて死んだオークキングの鎧を身に纏い、俺に笑いかけていた。なんでこいつは人類語を完璧にマスターしているのか、そして、なんでこいつは俺を主と仰ぎ、あまつさえ戦国時代の忠臣みたいだと独断と偏見で判断するようないい笑顔で俺を見つめるのか。本当に分からない。
「いや、まあ、うん。後で聞くよ」
そう、もうなんというか本当に頭が痛いのだが、ボスが大胆なキャラチェンジをしたのも、現状後回しで構わない。とりあえず、現状俺が頭を悩ませている元凶が何とかなるまでは。
その元凶、目の前でにこにこと笑う男装の麗人に、俺はやっと目線を向ける。
「あの、今回助けていただいたのは本当に感謝するのですが、それはそれとして、帰って頂けません?」
「ヤ・ダ♪」
魔王、リリスウェルナ。彼女はオークキングを吸い殺してから、未だに俺たちの前から立ち去る気はないようだった。半笑いでそう宣う魔王サマに少し殺意を覚えつつも、どうしようもないと内心に不満をしまい込み、次を考える。
そもそも、彼女の行動からして動機が不明だ。オークキングが死に、一通りが済んだ後、彼女が最初に話しかけたのは、ボスだった。
「ねえ、ゴブリンに恋したオークって、君のこと?」
その言葉が問われた後の彼女とボスの会話は、もうすごかった。自分の恋人に興味を持たれたボスは、それはそれは流暢な人類語でゴブリナのことを誉めそやし、そのつがいであれることを誇っていた。そして、それを聞いて魔王のはずの女は体を悶えさせながら頬を上気させていた。
そこまでなら、俺は弟分の微笑ましい恋愛模様に聞いているのが気恥ずかしくなりつつも、魔王の駄目美女っぷりに幻滅しつつも笑って済ませただろう。だが、そこから続いたボスの言葉に、俺は凍り付いた。
「えぇ、我は果報者です。何しろ、最愛の妻と、至高の主に出会えたのだから」
そこからはもう俺に対する美辞麗句が並びたてられた。
曰く、天に二つとない英知を持つ者
曰く、どんな強者にも怯まぬ剛の者
曰く、偉大なる我が主君、命を懸けるに惜しくない名君
はっきり言おう。やめてくれ。知識量的にはアンネどころか、そこでうずくまってるアリシアよりもこの世界の知識がないと思うし、俺だって怖い者は怖い。剛のものなんて称号は過ぎたるものだ。少なくとも、俺よりも君主にふさわしい者はごまんといるだろう。
偶に、自分のことを褒めている者がいると無性にいたたまれなくなる、という人の話を聞いたことがあったが、本当だった。めっちゃ恥ずかしいしいたたまれない。だが、反論できない。なぜなら、ボスの話を聞いているリリスが、訳知り顔でこちらをチラチラ見つめているからだ。
あの顔は絶対に分かっていてああやって話を聞いている。本当にボスの言葉を信じている奴は、あんな訳知り顔で、顔が美人でなければ下卑たものに見えたであろう顔はしない。
そんな、強制羞恥プレイも一通り済み、やっとお帰り願おうと思い促した答えが、アレである。
「……」
「……」
「あの、我々に、何の用があるのでしょうか?対価が欲しいなら、今は渡せるものも……」
それを聞いて、リリスウェルナはチッチッチと手を振った。
「そうじゃない、そうじゃないわ。私はね、あなたたちに興味があるのよ!だって、童貞のオークに、それに惚れる妖精に、異種間でラブラブのカップルよ!愛の使徒としてはこれを見逃すわけにはいかないでしょう!」
「……愛の使徒としては不純な動機では?」
「ちょ、私とグォークはそんな関k「ほら、そこは愛に王道はないから」
アンネの言葉を遮り、そんなふざけたことを言う魔王に、俺はジト目を向けて頭の中で反論する。
「と、さっきまでのは冗談……でもないけど、それはそれとして、一応お礼を言う為に残ったのよ」
そう言って、彼女は先ほどのふざけた様子を引っ込め、厳かな声で俺に向かう。
「黒き茂みの森は、私の領域。その森のオーク達を奪い、矢面に立たせ、滅ぼそうとした愚か者を止めてくれたこと、感謝したい」
「……あの森は俺たちの住処でもある。あんたのためにしたことじゃない……が、まあ、その言葉は受け取っておくよ」
「あら?言葉だけでいいの?」
その言葉を吐いた後、彼女は舌なめずりをした。
「た・と・え・ば♡あのオークキングにしたこと、絶対の快楽を与えてあげる。も・し・く・は、あなたの妖精と気持ちいい初めてを保障してあげてもいいわよ」
「……いや、遠慮しておこう」
そう言った瞬間突風が吹き荒れ、思わず上空を見た俺たちはそこに黒い影があることに気付いた。それは、大きく空をかけ、そしてこちらに近づいてくる……。
「ど、ドラゴンか!」
一度ドラゴンを見ていた俺たちはすぐにそれがなんであるかを理解する。身構える俺たちに、しかしリリスウェルナとアンネだけが自然体だった。
「あ、リンちゃんだ」
「リンドヴルムちゃん久しぶり!」
唖然とするオーク2体とアリシアの計3人を無視して、リンドヴルムと呼ばれたドラゴンは近くに着地した。
「久々だな、アンネよ……そして、リリスウェルナ、様、先ごろはアンネを見つけたという報告、感謝する」
竜の姿のまま、リリスウェルナを極力見ないように言ったリンドヴルムは、懐に入れていたのか大きな水晶を取り出した。
「さて、アンネ、竜帝様からの贈り物だ」
そう言って、アンネがその意味を察する直前、水晶に巨大な竜の顔が映し出された。
その竜が、(おそらく)ニコリと顔をゆがめた。
「久しぶりだな、アンネ」
「え、ええ、久しぶりね、竜のジージ」
怯えたように声を出すアンネに、しかし竜のジージ、つまるところ竜帝であろうそのドラゴンは笑みを深める。
「まずひとまず、無事を喜ぼうではないか」
「ありがとう、ございます」
「で、なぜ儂のかわいいアンネはそんな汚らしいオークの巣にいるのかな?」
ひくっ、と喉を鳴らしたアンネは、しかし隠し通せないと察して言葉を発した。
「その、私が、野生の魔物のことを、知りたいと思って……それで、抜け出しました」
「そうか、そうか……」
一瞬の沈黙、そして。
「バッカモーン!!」
雷が落ちた。その後、いろいろとグチグチと言われ、全面的に非があるアンネは頭を下げて聞くしかなかった。その剣幕たるや傍で聞いている俺たちでさえ、相手が水晶越しであるというのに関わらず、食われるのではないかと思ったくらいだ。
「……と、まあ、それでも、だ。生きていてくれてよかった。そこにいるオーク達も、アンネを守ってくれて感謝している」
いきなり意識を向けられた俺たちは驚いて硬直したものの、それが怒りではないことに思い至り、落ち着いて応答した。
「あ、アンネは俺たちの仲間で、協力者だかりゃな……」
対応できなかった。
「ふぉっふぉっふぉ、まあ、そう硬くならんでもよいよい。何しろ、アンネの恩人じゃからの。まあ、アンネの恋人……というなら、話は変わるが」
「あら、それは、私に対する宣戦布告かしら?」
竜帝の言葉に反応し、自称愛の使徒であるリリスウェルナが竜帝にかみついた。
「ちょ、リリスウェルナさん、まって、話しややこしくしないで!り、竜帝様、俺と、アンネはそんな関係じゃなくて、さっき言ったようにただの仲間であって……」
「あぁ。よいよい、言ってみただけじゃ。ふう。とはいえ、これ以上アンネをそんな場所に住まわせるわけにはいかん。即刻賢者の塔まで帰るのじゃ、ではの」
そう言った切り、水晶は何も写さなくなった。
「と、言うわけだ、竜帝様の言葉は分かったな。では」
そして、その直後、リンドヴルムもその身をひるがえして宙を去っていった。
俺は竜帝の言葉を反芻する。確かに、竜帝の言葉はその通りだ。調味料は十分に確保できたとはいえ、服は今着ている物の他は、粗末な毛皮を繋いだものか、ゴブリンが作ったものしかない。
当然家も粗末なものだ。
ならば、俺たちはアンネを見送るべきだろう。幸いなことに、(オークキングには手も足も出なかったものの)ある程度戦えるアリシアという人材も残っているのだし、アンネを帰りにくくしていた竜帝からの雷という名のお小言も、先ほど落ちたばかりだ。逆に帰らなければもっと大きな雷がおちるだろう。
だから、俺はアンネに向き合ってこう言った。
「アンネ、今までありがとう、こっちはこっちで何とかやってみるよ。幸い、ゴブリナやボス、それに(少し頼りたくない気もするが)リリスウェルナ様にもつながりができた。これだけの協力者がいれば、何とかなるだろう」
「いや、着いてきてよ。グォーク」
そんな配慮は、アンネに真正面から叩き潰された。
「だって、まだオークの研究、全然進んでないのよ!このまま終われないじゃない!竜のジージを説得するためには、グォークとボス、オークの特殊個体を連れて行って、説得するしかないわ!じゃないと私、絶対に帰らないから!」
そんなことを言われ、俺は困って頭を掻いて考える。森を出ること。それは不可能では、ない。人間に受け入れられるか、とかそういう対人的な難点はあるものの、人間の集落出身のアリシアと、賢者の塔出身のアンネ、人間側の二人がいるのならば。
そして、誠に遺憾ながら”オークに洗脳なんて頭脳プレーできるわけないじゃん?むしろまともにしゃべれるわけないじゃん?”といったうれしくない方向の信頼を考えれば、二人と一緒に行動している時点で、少なくともすぐさま敵対しないというのは理解してもらえるかもしれない。
「だが、オークの集落がなぁ」
そう、俺にとっての問題はそこなのだ。アンネの言いぐさから、いずれこの森に戻って来てオークを研究する腹積もりなのはわかるが、その間にオークの集落が壊滅していないという保証はない。もしオークキングが再び誕生し、暴れ出せば普通のオークなどすぐにオークキングの支配下に入ることになる。
「なら、あなたたちが留守の間、森のオーク達を保護しましょうか?」
そして、そんな俺の悩みをぶった切ったのはリリスウェルナだった。
「その代わり、オーク達には私と死なない程度にイイコトしてもらうことになるけど」
「グォーク!チャンスよ!それに、賢者の塔はその名の通り、賢者様が作った塔よ!もしかしたら、オーク繁栄のヒントが聞けるかもしれないわ!」
堀を埋められ、餌までぶら下げられて、流石に俺も、この状態で引くことは出来なかった。
「分かった。俺もその賢者の塔とやらに行こう。ただ、アンネがオークの研究を禁じられたら、俺は森に戻るからな」
「主が行くというのなら、我もお供いたします。主の近くに侍ることこそ、家臣の誉れで有りますゆえ」
こうして、俺たちは広く住み慣れた黒き茂みの森から抜け出すことが決定したのだった。
なお、この後リンちゃんことリンドヴルムさんは、どうしてそのままアンネを連れて帰らなかったのかと折檻された模様。
まあ、自分の上司と同程度(実際は竜帝の更に上に賢者がいるので、上司の上司と同程度レベル)に自分にではないとはいえ殺気まで放たれたら一刻も早く帰りたくなるよねっていう。
今日投稿されるエピローグをもちまして、1章完結となります。




