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オークの体

やっと転生しました。

 再び目覚めた時、俺は森の中にいた。どうやらあのカオスを名乗る女性との邂逅は夢ではなく、そして、俺は転生とやらをしてしまったようだ。


 周りを見ると、森はかなり豊かなように見える。実際のところどんな森が豊かなのかなど一切分からないが、今まで見た森の中では一番木も草も生い茂っており、仮に写真で切り取れば、「鬱蒼とした森」と言ったテーマで作品になりそうなほど見事な森の景観だった。


 と、周囲の観察もそこそこに、今度は目線を自分に移し、手足も動かして身体の感覚を確認する。……これはすごい。もしもこの森がミニチュアサイズの森である……と言ったことがなければ、今の俺の体は周囲の比較からして赤ちゃんサイズのはずだ。

 だが、そこに滾る力は前世では感じたことのないほど力強いものだ。それに、先ほどの確認で判明したが、肉体性能だけではなく、感覚もすさまじい。

 本来人間の赤子というのは目がよく見えないということを聞いたことがあるが、この体はそうではないらしい。非常に遠くまで見渡せるし、鼻なんて自分が犬になった気分だ。少なくとも、俺は前世含めて微かに香った花を辿ると、木々に遮られる視界の端ギリギリ、優に300Mは離れた場所の花の匂いだと判別できた経験などない。


 とはいえ、それらは体感だ。俺はおもむろに足元の石を拾い、近くの木に向かって放り投げた。


 バシュ!?


 手で放り投げたとは思えない風切り音が鳴り、木に半ばまでめり込んだ。

 予想以上だ。幼体でこれほどの力となれば、成体はどれほどの怪力だというのだろうか。


 ……と、そろそろ、まともに現実を見ることにしよう。

 まず、自分の体を確認した時に確認したこと、肌の色は……少なくとも目の届く範囲は緑、そして、顔に手を振れると、鋭い牙、潰れて、鼻眼鏡どころか普通のメガネでさえもずり落ちそうなほど低い鼻、耳は前世よりもやや高いところに、先端は頭の頭頂部を超えるか超えないかというほどに大きくやや先端が上方に尖ったものがついている。


 それと、これは別に身体的特徴というわけではないが、俺の体についているものがもう一つあった。それはおなかのあたりから伸びていて、まるでチューブのように細くつながっている。

 所謂へその緒というやつだ。


 そして、そのへその緒をの先には、俺を生んだ母親、正確には、先ほど産み落とされた胎盤と、それを無感動に見つめる女性の姿があった。

 

 燃えるような赤髪の彼女は、鍛えられ、引き締まった体をした女性だ。薄汚れているため正確な年齢は分からないが、少なくとも30代には届いていないだろうと思わせる女性だった。今は消耗していて見る影もないが、普段ならばとてもりりしい姿が容易に想像できる。そんな女性が、俺をうつろに見やり、まるで俺を探すように手を彷徨わせた。


 俺は思わず手を伸ばし返して……。

 

 その間を巨大な影が遮った。


 その影は巨大だ。小柄な俺から見て……ではなく、女性との対比でみたとしても頭3つ分は違う。その影は女性を軽々と持ち上げたかと思うと、勢いよく腰を突き出した。


 ……いや、実際にはその行為は、出産が済んだ時点で始まっていたに違いない。あたりを見回せば、種族どころか系統すらバラバラな雌、例えば小柄で角が生えた鬼のような生き物、あるいは俺の母親と同じ人間の少女、果ては四足の狼のような獣まで、視界の端々ではそのような光景がいたるところで行われている。


 俺は頭を振って、一つ息を吸って吐いて、認めたくないその結論を出した。


 俺は病弱だったため、暇つぶしに飢えていた。そんな中、ファンタジー作品を読むことも多かった。そんな俺の経験と、今の状況を照らし合わせれば、結論などほぼ決まったようなものだ。


「どうやら俺は、異世界に転生して、オークになってしまったらしい」


 俺の呟きは、雌達の悲鳴や嬌声、あるいはオークの怒号にかき消され、誰にも届くことはなかった。

 いや、まあ、聞いていたとしてもオークだけだろうから全く問題はないのだが。


なお周囲は励んでいるオークたちでひしめいているという地獄絵図。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人の善性と混沌の運命。ちょっと期待。
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