オークとボスの活用法
今日は午後余裕があれば六時以降にもう一回投稿するかもしれません。しないかもしれません。
さて、ボスが仲間になり、現在言葉を覚えさせている最中だが、そろそろボスだけでなく他のオークの様子も見ていくべきだろう。
というか、オーク移住計画、あるいはオーク強化作戦の一番の要はもはやボスになっている。
まるで子供のように俺たちに付きまとい、狩りを褒めると無邪気にはしゃぐ姿を見ていると忘れがちだが、ボスはオークを3体殺したオークのリーダー個体であり、ある程度ならオークの行動を決定することができる特殊な個体である。
「となれば、実験するしかないわけよ!」
食事中に興奮しながらそう告げたアンネに、俺は少し後ずさりながら頷いた。確かにアンネの言う通りなのだが、そう意気込んで言われるとなんだか実験をしたいだけのように見えてしまう。
とりあえず何を実験するかが重要だ。俺の経験上、あんまり難しいことやオーク自身の欲求に真っ向から対立するもの、それに何かに夢中になっている時は指示が通りにくいようだ。
「んー。戦わせて強化を図るか?いや、少し無理があるか」
言ってはみたものの、俺はその案を即座に却下する。ボスに、ワイバーンが現れた時戦うように指示したと聞いて思いついた案であり、実際その時はレベルアップした個体もいたようだが、そもそもあれはオーク並の敵がこちらを攻撃するために向かってきたからこそ上手く経験値を得られたに過ぎない。
俺が経験値を得るために狩りまくったサラマンドラ達が現在現実的なターゲットではあるが、彼らも今ではオークを見ると逃げ出すようになってしまった。
原生のホーンラビットやウルフなら、指示を出すまでもなく戦っているわけで、経験値効率としてはそれほど変わらないだろう。
それに、経験値を高めようにも、サラマンドラやイヴィルゴートと普通のオークが戦えば、俺やボスが支援するとしても事故が多くなることは想像に難くない。改めて考えると、普通のオークを強化するというのは、それこそ画期的な方法を見つけるまでは延期したほうがいいだろう。
さらに言えば、強力な罠を設置してその場所を進入禁止……なんてするのも効果は薄いだろう。
「こんなところで考えてる暇があったら、検証よ検証!」
そんなアンネに追いやられて、俺たちはボスのところに行くのだった。
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「ワカル オレ ヤル」
そう言って、ボスは喜んで作戦に協力してくれた。
「それじゃあ、とりあえずこの集落にいるオークで実験よ。まずはあそこの蛇食べてるオークにこっちに来るように命令してみて」
ボスは頷いて一声吼える。すると、蛇を食べていたオークと共にその周辺の何体かのオークがこちらに近づいてきた。因みに、近づいてこないオークも結構おり、そのオークは狩りから戻ってすぐだったり、まさに今情事にふけっている奴らだったりした。
「ふむふむ。食事中でも指示に従うようね。それに行為中は指示には従わない、と。でも、声をかけた奴以外にも来たのは……」
「オークは基本的に個体を区別しないからな。固有名や相手を指す言葉はオーク語に無いんだ。さっきのも来いというオーク語だ」
それを聞いて、アンネも頷いた。アンネ自身も俺との生活でオーク語を習得しているため、念のための確認作業だったのだろう。
「さて、じゃあ、基本的な確認も済んだところで、次ね。今度はまっすぐ歩くように指示を出してみて。歩いた時間が指示が有効な時間になるはずよ」
もう一度ボスが咆哮すると、今度は近づいてきたオークがてんでバラバラに動き始めた。因みに近づいてきた中にも、今回の指示には従わないやつもいた。どういう基準なのかは不明だが、言うことを聞くときと聞かない時は、短時間で変わることもあるようだ。
命令は不測の事態に対処できない時はなるべく使わないようにするべきだな。これは。
そして、歩き出したオーク達は10秒ほど直進すると、すぐに座り込んだり誰も行為をしていない雌を見つけて組み敷いたり、あるいは直進し続けてどっか行ったりなどてんでバラバラな行動をし始めた。
「うーん。基本十秒、その後は目についたもので行動を決める、といった感じかしら」
……出された結果は、正直どうやって活用するか悩むようなものだった。命令には確実に従うわけではなく、相手の状況によっては効果がないときがあり、さらに言えば簡単な命令を覚えて従えることができる時間が10秒ほどというのはかなり短いだろう。
まあ、息を潜めてやり過ごすのが上手い獲物にオークをけしかけるとか、戦闘に強制参加させるために使うくらいなら有効に使えそうではあるが……。
「……さて、次は少し複雑な命令もしてみるわよ。……そうね。例えばこんなのはどう?歩きながら腕を振ってみて」
ボスが二度咆哮すると、何もしないやつが一番多く、次に歩く者とその場で腕を振る者が現れる。
「うんうん、並行した作業の命令は無理、と。それじゃあ、次は……右手を上げろ!とかはどうかしら?」
アンネがそう言うと、ボスは戸惑ったようにアンネを見つめていた。そして、同時に俺もその命令の致命的な部分を発見し、アンネに告げる。
「アンネ、オークにそれを命令することは不可能だ」
「え?どうしてよ。命令を熟せないならともかく、命令できないって……」
それは、彼女が考えているであろう事態よりも単純で、そして彼女が考えている以上に深刻な問題だ。
「オーク語には、右とか左とか言う言葉が無い」
「え?」
まさかの命令を伝えるための言語の方に問題があるとか、救いようがない。
結局、数度検証はしたものの、殆ど実用性なしとして俺たちは実験を終えるのだった。
オーク語は平均10~40個くらいの言葉で構成されています。ただし、グループ毎に微妙に内容が違ったりしますし、場合によっては賢い個体が新しい言葉を定着させることもあります。場合によっては語彙が100種類以上増えていることも……。
実はワイバーン戦の時に雌オークが使ってた、”代わり”を示すオーク語は彼女が作った独自の言葉だったり。
基本的な言葉
オーク=自分、オークという種族、強者、の意味
ボス=上位種族あるいは、命令権を持つ種族の意味
ヒル=昼、太陽、空、空を飛ぶものの意味
夜=あたりが暗くなる、寝ることの意味
来る=自分のところ、獲物のところまで移動するの意味
エサ=食料、弱者の意味
メス=女性、性行為、そして、メスがいる集落の意味
犯す=殺す、性行為する
狩り=犯すとほぼ同じ意味
殺す=殺す、痛い目を見せる
オス=男性、性行為、そして、集落にいるのは基本雄オークのため、オスがいる集落の外の意味。あんまり使われない
逃げる=基本的には蔑みの表現、敵前逃亡なんてかっこ悪い的な煽りで使われる
グォーク=愚かなオークの意味。元々は愚オーク。悪口ではあるが、どちらかというと「どんくさいなぁお前」みたいなニュアンス
これ以外にも、うるさい、邪魔、みたいな言葉がグループ毎に独自開発されていたり。そのため、オーク語→他言語はかなり難解ですが、他言語→オーク語の習得はかなり容易です(発音が結構唸ったような感じのもあるので、話せるかは別)問題は、習得しても使い道がないこと。




