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少女と隠密

「……アリシア、あれ、なんか言ってくれないっすか?」


「いや、その、何を言えばいいんだ?あれ」


 アンネが去り、リナが代わりにメンバーとして入った日。それは即ち、私たちがグォーク達の思惑を確信し、ウリエラの育成を本格的に開始した日、ということだが。

 結果として、アリシアはアンネとリナが入れ替わったあの日から、いろいろと吹っ切れ、予想外の動きをするようになっていた。


 とりあえず、現状を確認すれば、現在私たちはアベルをリーダーとして、私、そして私のポケットにミニニコットとポポルン。周辺の警戒をしながらリナが周囲に身を隠しながら追従しており、その警戒網に守られるようにウリエラが操るメタルリザード引きの車が進んでいる。と言った感じだ。

 それは良い。いや、まぁ、サスティナが従魔であることをダシにして従魔の貸し出しを延長したアンネの弁舌に若干引いたりしたのだが、それは現在は関係ない。少し前の話だ。

 現在、ウリエラは完全に馬車の中の住人となっている。これで、戦闘の無力感を感じて引きこもっているなら、まだかわいげがあったし対処の仕様もあった。だが、現実は違う。馬車の中から狙いすまして敵に向かって弓を射るのだ。

 そして、夕方から夜半にかけて、リナに森の中での動き方を教わっているらしい。

 要するに、彼女は本来草木に紛れなければいけないところを、実力的にも人数的にも足りていないので、次善の策として他者から見えない馬車の中から狙撃するという方策に切り替えたのだ。

 実際、まさか弓の攻撃が来ると思っていなかった魔物が撃ち落されていたりするので、全く意味がないわけでないのが始末に負えない。

 だが、冒険者としてのあれこれを教えるためにも、アベルたちとしては歩いて、少なくとも馬車の御者台にいてくれないとやり難いと感じていた。


「提案します」


「うおっ」


 いきなり背後から声をかけられ、アベルが飛びのいた。思わず武器を取り出そうとするのを咄嗟に止め、振り向くと、そこにはやはりリナの姿があった。


「ちょ、脅かさないで欲しいっす。思わず切りかかりそうになったじゃないっすか」


「それは、失礼を」


 リナはそう言うと、軽く体を払いながらアベルに向き直った。


「それで、提案って何っすか?」


「今、ウリエラ様は私から師事を受けています。冒険者としての心得を、私から伝えるというのはいかがでしょう」


「うーん」


 アベルとアリシアが同時に唸ったことに、リナが普段あまり見せない不安げな顔を見せた。 

 それに気づいたアベルが慌てて声を荒げた。


「あ、違うっすよ!リナさんは凄腕の冒険者っすし、教えるのも下手ではないと思うっす。ただ、グォークの旦那は規格外だし、普通の冒険者とはちょっと違うんすよ。リナさんも普通の冒険者から見たら適当……ってのはちょっと違うんすけど、自分の基礎能力に頼ってるところが多いっすから」


 鋭い目を向けるリナに、アベルはおもむろに近くにあった木の蔓に向かって石を投げつける。それを信じられない物を見るような目を向けたリナは、即座にその蔓に向かって飛び掛かり、そしてその蔓……蔓に擬態した大蛇を両断する。


「何を」


「リナさん、さっきのはどうして蛇だって分かったっすか?」


 その言葉に、リナは言葉に詰まる。分からなかったからではない。彼女にとっては当たり前のことだったからだ。蔓と蛇を間違えることなどない。否。彼女にとって蛇と蔓は同じく細長くて緑のものだが、遠目ですら違いが分かる、つまりは全くの別物で、比較の対象にすらならない。だから、彼女にとって先ほどの状況では、蛇だと分かったも何も、見えているのだから分かったとしか言いようがないのだった。


「因みに冒険者の定石としては、あの木の蔓にしては体が太かったのと、周囲に他の蔓が無かったこと、それを踏まえて注目すれば鱗が見えることで判断したっす。リナさんはどうっすか?」


 それを聞いて、リナはアベルの言いたいことを理解する。つまるところ、感覚の差が大きすぎるのだ。もしかしたら、何年も何十年も森の中で過ごせば、経験則が感覚を補い、同じようなことができるようなるかもしれない。あるいは特別な方法で能力を上乗せすれば、そう言った感覚を得ることができるのかもしれない。


 だが、少なくとも一朝一夕でリナの感覚を人間であるウリエラが会得することは恐らく不可能である。で、あるならば、少なくとも同じ種族としてほぼ同じような感覚を持っているであろうアベルたちがその感覚なりの解決策を提示しなければならないというのは、納得できる話だった。


「……でしたら……」


 リナは、アベルに一つの提案をしたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私は、今日もリナさんの訓練を受けていました。


「……今日はこれくらいにしましょう」


「待ってください!まだ今暗視の訓練をしただけじゃないですか!夜目も効くようになってきました!そろそろ夜間行動の仕方を教えてください」


 その言葉に、リナさんは静かに声をかけます。


「……夜間の行動は危険が多い。まずは平地での作法、隠密術、夜間の戦闘の順番。それができなければ、隙ができる」


「なるほど……」


 確かに、隠密をする冒険者は少ない。それは、隠密がそれだけ難しいからに違いない。となると、普通の冒険者の動きもできないのに隠密ができるわけがないというのは納得できる。


「分かりました!なら、最初はアベルさんたちから、昼間の動き方について改めて教わります!」


 そうして私はアベルさんたちから改めて冒険者のいろはを教えてもらうことになった。

 大分先になって、やっぱり隠密と戦士は動き方が全く違うんだからリナさんの理屈はおかしくない?と思い返すこともあったのだが、そのころには冒険者の動き、つまり戦う者の動きを熟知した隠密としてそこそこ経験が役に立つことを、今はまだ知らないのだった。

大変遅くなりました。


一応周りの言うことはしっかり聞くウリエラちゃん。正直な話、密偵と戦士の動きは全く違うので同じことを出来る意味はほぼなかったりする。というか、リナちゃん自身村娘系野生モンスター(囮を使った狩猟法の囮役)からニンジャへジョブチェンジしてるから前衛職を殆ど経験していないという。


ただ、アリシアとアベルの教えは人間の冒険者として生活するには結構重要だったりします。そもそも、ゴブリナニンジャと人間だと若干価値観とか生態とか違うので。流石にゴブリンだと生態も似通っていますが、僅かながら毒になる食材とそうでない物が違うとかもあるので……。

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