オークと竜娘
本日3話目です。
もしも、ドラゴンが言葉を解するほどの知能を持たない下位の竜なら、俺たちは対話することすらできなかった。
もしも、ドラゴンが本気でオークの集落を滅ぼそうとしていたのなら、俺たちは抵抗することも出来ず滅ぼされていた。
もしも、ドラゴンが餌を探しに来ていたのなら、俺よりも集落のオークを優先し、罠にはめることができなかった。
それらすべての”もしも”を超えて、俺たちは一人の少女と対面することになった。
~~~~~~~~~~
目の前にいる少女は俺たちの苦労などなかったかのようによくしゃべり、普通に歩き回っている。体が動くかどうか確かめているところから、完全に効いていないわけではないのだろうが、それも時間の問題だろう。
そんな彼女は、おもむろに俺の方に近づき、ポンポンと俺の腹を叩いた。
「いやはや、姉者達にお主のような傲岸不遜な娘に種付けしたい者などおらぬから子を産むことなど一生ないだろうと言われ、反発して交配相手を探すもドラゴンの中にはおらず、ドラゴンを諦め亜竜や地の守護者、それに恥を忍んでゴブリン共にさえ、わらわとの種付けの機会を恵んでやったと言うのに、皆そろって「恐ろしい」だの「殺される」だのと言いよってからに。それで、もうどうにでもなれと強者であっても構わず犯そうとして返り討ちにされる様が滑稽と噂になっているオークの群生地に来てみたが……。いやはや何とも賢くたくましい男がいるではないか!のう、そこなオークよ。その益荒男振りと知略に免じて、種付けまでなどとけち臭いことは言わぬ!わらわの婿として認める故、つがいとならんかえ?」
……尊大な竜だと思ったら色ボケ幼女だった。とりあえず俺は色ボケ幼女の頭をげんこつで殴り飛ばす。
「あ痛ッ!?何をするのじゃ!」
「何をするんだはこっちのセリフだ!馬鹿野郎!たかが行き遅れたくらいでオークの集落に侵攻してくんじゃねえ!この色ボケドラゴン!」
「い、言うの事欠いて色ボケドラゴンじゃと!貴様何様のつもりじゃ!わらわは高貴なるドラゴンノーブルドラゴンのサスティナじゃぞ!」
ギャーギャーと言い合う俺たちを前に、アンネはあきれ顔で手を打ち鳴らした。
「まあまあ、落ち着いて、グォークもよ。とにかく、そっちのドラゴンは別にこっちを滅ぼすために来たわけではないのね?」
「オークの群れを滅ぼしたってわらわに益は全くないわ」
それを聞いて、アンネは頭を抱えつつ、彼女に伝える。
「なら、あなたはオークの集落への侵攻をやめなさい。なんていうか求婚より侵略の意図を感じたわよ?」
アンネに言われた幼女は痛いところを突かれたと言った顔で弁明を始めた。
「うぐっ。いや、しかしわらわとしても、切羽詰まっているといっても選り込みくらい……」
「そんなくだらない理由で、他種族の集落を潰して回る気?」
「い、いやそんなつもりはない!わらわは手加減したし、その証拠に、オークの被害はゼロのはずじゃ!」
「いやいやいや」
オークの集落では、死者こそ出ていないが負傷者はかなり出たし、食料なんかもめちゃくちゃになっている。オークが生命力旺盛で、日常生活については問題ないとはいえこれで被害ゼロと言い切られるわけにはいかない。
「つまり、今回の侵略について、反省も謝罪もしないという事ね」
底冷えするような声に、幼女がビビりながらも言葉を続ける。
「そ、そもそもわらわはそんなつもりはないし、オークは別に権利種族じゃ……ってなぜわらわが言い訳せねばならんのじゃ!」
「ひとつ言っておくけど」
ドラゴンがあたふたしながら言い訳するのを、アンネが遮る。
「私の出身地、賢者の塔なのよね」
それを聞いた途端、幼女の顔が硬直し、顔がさぁっと青くなった。
「え、ちょ、その、もしかして、なんです、けど、竜帝さま、とか、お知り合いにいませんか?」
口調すら変わって恐る恐る聞く幼女に、アンネはにっこりと笑うことで答えた。
直後、幼女は土下座した。
「ごめんなさいごめんなさい、まさか竜帝様の知り合いがこんなところにいるとか思わなかったんです。許してください、なんでもしますから竜帝様に告げ口しないでください。お願いします、もう二度とこんなことしません本当に反省してます」
……なんたる変わり身。称号?を告げるだけでこの威力とか一体何者なんだ。竜帝って。
あとから話を聞くと、竜帝とは竜族を統べる最強の竜の中の一体らしい。人間と積極的に関わることを是とする竜族の指導者であり、賢者や精霊王達と同盟関係を結んでおり、仮に竜帝の知り合いを事故であっても害したことが知られれば竜帝自らの手で全殺しの憂き目に合うらしい。そりゃ怖いわ。
とはいえ、普段は温和であり、アンネは”竜のじーじ”として遊んでもらっていたらしい。どんだけ剛毅なんだ。アンネ。
と、それは兎も角、ドラゴンの処遇である。
「どうするの?なんでもしてくれるそうだけど」
「うーん。特にしてほしいことはないぞ。他種族を襲わなければ別にどうしてくれたってかまわないだろ」
……なんだか土下座しながらも不満そうな雰囲気がドラゴン幼女から漂ってきた。と、そんな幼女を見て、俺はふと前世で見た漫画を思い出した。所謂ファンタジーで竜騎士が出てくる作品だ。
「なあ、ドラゴン、お前、相手は人間じゃダメなのか?」
それを聞いて、ドラゴンは微妙な顔をした。
「人間かぁ。確かに上位の人間なら実力的にわらわにふさわしい奴はいるが、殆どが虚弱じゃからのぉ。わざわざ強い奴を探して、求婚するのものぉ……」
「いやいや、探すのは難しいかもしれないが、お前自身が育てるのはどうだ?」
「ほう?」
幼女の琴線に触れたらしい。土下座を止めて、顔を向けて来た。
「今、この世界にドラゴンライダーという職があるのかは知らないが、竜に乗って戦う戦士、というのは実現できないことじゃないだろう?次に気に入った人間に出会った時に、気に入ったとか何とか言って、相手をドラゴンライダーとして活躍させるんだ。勿論、それだけじゃお前に頼りっぱなしになるから、「背中に乗せるなら相応の力を」とか言って戦い方を仕込めばいい」
「ふむふむ」
どうやらかなりの興味が引けたようだ。ドラゴン幼女はかなり鼻息荒く近づいてくる。
「そしたら、もう占めたもの。人間は基本的に見た目に騙されやすいからな。しかも、その人間に対して、お前はいつも世話になっている相棒で、戦闘のイロハを教えてくれた師匠で、人間の姿に変身できる女の子なわけだ。恋に落ちそうな気がしないか?」
「す、するぞ!!」
ドラゴンはかなりちょろかったようだ。言うが早いか、俺の手を振り回し始める。
「そんなことは思いつかなかった!なるほど、探すんじゃなくて育てる。それは盲点だったわ……あ、のじゃ」
のじゃはキャラ付けたったようだ。
なにはともあれ、ドラゴン幼女は俺の案を気に入ったらしく、礼を言いながら人間の住む国の近くに巣をつくるために飛んでいったのだった。
適当に手を振りながら見送っている俺に、アンネは呆れたようにため息を吐いた。
「また適当なこと言ったわね。そりゃ、ドラゴンの巣に入り込む人間なら彼女のお眼鏡に叶うには十分だろうけど、果たしてそんな人間が聞く耳を持つのかしら?」
「まあ、その辺はあいつの頑張り次第ってことで」
そうして、俺たちはボロボロになった集落を立て直すために森に出るのだった。
……と、思ったのだが、その目の前に一体のオークが立ちふさがった。傷持ちオークだった。
「グォォォ、グォーク(モドレ グォーク)」
俺はボスを観察する。体は治りかけているがボロボロで、立つのも辛そうにも関わらず俺たちを引き留めようと必死になっているのが目に見える。
「オーク グァァア?(オーク テキ)」
とりあえず敵対する?みたいなイメージで話しかけると、ボスは焦ったように汗を垂らしながら無言で佇んでいた。
「アンネ、これ、どういう意味だと思う?」
「おそらくだけど、否定したいけどできないとかそう言う事じゃない?ほら、オークの言葉って、基本的に相手に自分の要求を押し付けるだけの言語じゃない?」
なるほど、確かにそうかもしれない。となると、十分に意志を伝えられるのは……。
「アンネ、頼む」
そう言って、俺はアンネに念話魔法を使用するように頼んだ。アンネもそう来ることは分かっていた様で、苦笑しながらも頷いてくれた。
とりあえずマズハ最初の念話。驚いたようにあたりを見回す傷持ちに、アンネは笑って念話を続けた。すると、困惑しながらもボスの頭が上下に振られた。
「とりあえず自分の思いと同じなら縦、違うなら横に振るように伝えたわ」
それ以降はオーク語を話せる俺が引き継ぐことになった。アンネもオーク語を習得しているのだが、生息地ごとに、微妙に意味が違っていたりすることもあるらしいのでそのための人選だ。
そうして話し合って分かったことは、傷持ちが俺たちに敵対したいわけではないという事、俺たちとあのドラゴンの戦いを見て、今までになく考えたこと、そして、どうにもできなかった自分を変えたいという事だった。
「……なんていうか、すごいわね」
「ああ、なんていうか、すごいな」
少なくとも、俺は殆ど言葉もない状態でそこまで思考するのは無理だと思う。俺たちはもう一度ボスを見つめ、とりあえず言葉を教えること優先することを決定したのだった。
とりあえず、色ボケ幼女ちゃんは今後も出演予定があるキャラです。
のじゃロリ口調は、尊大さこそ竜の誉れ、的思考からそうしています。
ご意見、ご感想等ありましたら、評価、コメントよろしくお願いします。




