妖精と後始末
やっぱり、戦闘中に集中を乱したらダメね。ウリエラが警戒しているからと思って念話を続行しちゃったけど、まさかアラクネが木の上から狙ってるとは思わなかったわ。
ウリエラの弓で誘い出されたアラクネと、後ろから飛び出してきたゴブリンたちを魔法で吹き飛ばしてから、私は改めてアラクネに向き合う。
顔の真ん中に弓が突き刺さったアラクネだけど、彼女らの生命力ならこれでも致命傷ではない。
「なんでここで潜んでたのかしら?」
「……!」
私の質問に答えず、腕を振るってきたので、重力を発生させて地面に縫い付けた後、抵抗できないその体勢で眠りの霧を思いきり吸わせて無力化した。
そうこうしている間に、アベルとアリシアの方も終わったようで、歩いて帰ってきていた。
「アベル、アリシア。お疲れ様。そっちも終わったみたいね」
「うむ、そっちも問題なかったようで何よりだ」
「……あれ、問題ないって言うんすかね?」
そう言うとアベルは手際よくアラクネを縛っていく。
「どうするの?それ」
「アラクネって、美味いんっすよね」
「うぇ?」
私の質問の回答にウリエラが変な顔をする。そして、私も改めて自身の失敗に気付く。
「……あぁ、そういえば、アラクネって普通は虫だったわね」
賢者の塔には女郎蜘蛛という妖魔の集落やナチャと呼ばれる蜘蛛の霊獣の存在もあったので忘れていたが、アラクネの本体は蜘蛛の部分で上の人型の何かは武器兼突起であって知能は虫と同じような感じらしい。
「あぁ、上の瘤はちょっと上級者向けっすね。一部マニア以外はお勧めできないっす。でも蜘蛛部分もかなりうまいっすよ」
そう言ってアベルは嬉々としてアラクネを解体し始める。なお、アラクネはよく見ると口が無く、目も穴が開いていて眼球が無かったりする。やはり虫は虫だということね。
結局、アラクネが夕食その日の夕食に出たことで、ウリエラがプルプルしながらアラクネを口に運んでいたのに少し笑ってしまった。
そして、次の日。
「えっ!アンネさん、ジュモンジさんの所に行くんですか?」
私はグォーク達と話し合い、竜のジージと交渉するためにグループを変えることになったのだ。
「えぇ、何でも、向こうの方でちょっと交渉が必要な事態になったらしくてね。ジュモンジよりも私の方がいいだろうっていうことになってそっちに行くことになったのよ。あぁ、戦いの方はひとまず問題なくなったみたいだから、私の代わりにリナちゃんが来てくれるわ」
そう言うと、アリシアとアベルが何かを察したようにこちらを見つめ、ウリエラが残念そうにこちらに目を向けた。
「ということは、アンネさんとは暫く別行動なんですね。アンネさんにはいろいろと教えてもらいたいことがあったんですけど……魔物の急所とか」
……うん?
「まず、相手を無力化すれば、サスティナ様に降りかかる火の粉かどうかはあとでゆっくり確認すればいいですからね」
言っていることは間違いないけれど、なんだろう、この違和感。
まあ、いいか。
私はそのままニコットの転移で移動しようとして……、アベルに声をかけられた。
「あ、アンネさん、ちょっとジュモンジさんに伝えてほしいことがあるっす」
そう言って、ウリエラに聞こえないように耳打ちしてくる。
「もしかして、ウリエラちゃんの育成のためにチームを分けてるっすか?」
「……気付いたのね」
私がそう言うと、アベルは納得したように笑いかけた。
「そもそも、あのジュモンジ爺さんがあそこまで慌てるのがおかしかったっすから。それだけならそれこそ100年に一度の異常事態の可能性もあるっすけど、すぐに話し合いで解決する問題になって、しかもそんな状況でウリエラちゃん大好きなサスティナちゃんが戻って来ない……ここまで来たら何かあると思うのは当然っす」
そう言ってアベルは私ににこりと笑いかけた。
「勿論、ウリエラには言わないっす。あと、アリシアも嘘は苦手だから適当に誤魔化しとくっす……まぁ、あいつも察してるとは思うっすけど。確信しなきゃいわないっすよ」
「とりあえず、お礼を言っとくわ」
そう言ってニコットに頼み、私は黒き茂みの森へ、そして代わりにリナが姿を現したのだった。
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私は今まで、戦いの中で甘く見ていた部分がありました。なんとなく、敵を倒せばいいと。だけど、それは違ったのです。
敵の動きを止め、人知れずあの人の害になる存在を消す……。私が指標にすべきだったのは、それが規範に従ったかどうかではなく、あの人の害になるか否かを指標にすべきだったのです。
アンネさんがいなくなってしまうのは本当に残念です。だって、彼女ならいろいろな種族の弱点も特性も知っているでしょうから。
その後、そう言えばリナさんは隠密と暗殺に長けた人物だと思い至ったのは、それからすぐ後のことでした。
infomation 幼女がヤンデレ化しました。
元々サスティナ至上主義の気はありましたが、彼女自身普通にいい子なので、正当な闘争による貢献を目指していました。しかし、アンネを救うために権利種族かもしれない魔物を倒す、という経験から、彼女の中で取ってはいけない手の基準がグッと引き下げられ、サスティナに尽くす気持ちが暴走しました。
本人がいれば止められましたが、どうしようもありません。