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茸と池

一個残ってました

 小さな植物が植わっており、その近くにはのどかな池がその水を湛えている。

 ただし、その両者は下手をすれば油断したベテラン冒険者を倒しうる魔物であるという事を知れば、その美しい景色も禍々しいものに見えてしまうかもしれないが。


 そんな植物と池をじっと物陰から見ている一同。すると、少しづつ変化が現れた。

 池の水がだんだんと減少して最終的に小さなガラス玉のような物だけが残った。


「……えぇ」


「なあ、グォーク殿、このニコットという魔物、うちで引き取ることはできんか?」


 あまりの効力に俺がドン引きし、エッセン卿がニコットの勧誘を始めた。


「いや、え、えぇ……」


 とりあえずあまりの驚きに声を失う俺だったが、ニコットに話を聞く。


”えっと、さっきの池のスライムですが、どうやら池に擬態する関係で、体を構成する魔素をほぼ本物の水と同じような性質にしているみたいです。

 本当なら獲物が近寄ってきた時点で即座に戦闘態勢に移行して捕食できるように魔素を操るみたいですが、生憎私、地中から少し根を出して魔素を吸い取ってるので、抵抗されることもなく全部吸い取れました!”


 とのことらしい。これも相性の問題のようだ。 とりあえずニコットの分身を興味深げに突っついているエッセン卿に咳払いでけん制しつつ、俺はリリスウェルナ様に確認を取った。


「これは、アンネに頼むって形で良いですね」


「……そうですね、これほどというのなら問題は無いでしょう。待ちの魔物であるので森の外に”漏れ”が出ないかは少し心配ですが……」


 そう言いつつも、頷いたリリスウェルナ様の様子に、俺たちはニコットを通じてアンネに声をかけたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……魔物の解体をニコットやアベル、アリシアに任せ、ウリエラと話したあの時から一日、ウリエラの様子は確実に変わっていた。


「はあっ!」


 まず、とても積極的になった。どんな魔物でも、敵と分かれば全力で急所を狙うようになったのだ。今までもそうだったとは思うが、それでもその気迫が違った。

 そして、二つ目は魔物を倒した後に、少し瞑目して手を合わせるようになったのだった。


「ウリエラ、何をしているんだ?」


 そのことに気付いたアリシアが聞くと、ウリエラは小さく微笑んだ。


「この魔物がいい魔物だったのか、悪い魔物だったのかはわかりません。だけど、命を奪ったのだから、私を強くしてくれたこと、そして、その生について、感謝と謝罪……?をと思って」


「ふむ、確かに、冒険者の中にはそう言う信心深いのもいるな。まあ、悪いことじゃない。己の行動を悪だと断じない限りはな」


 そう言うと、アリシアは少しどこかを見つめるようにして口を開く。


「……昔、私の冒険者の師匠がいた。まあ、尤も、師匠なんて言ってもせいぜいがオーク級の冒険者で、一緒にパーティを組んだだけだし、戦いの師匠はまた別にいたんだけれどな」


 そう言って苦笑するアリシアには過去を懐かしむ気色が浮かんでいた。


「その人は、まあ信心深くてな。いつも戦った後には祈りを欠かさない坊主だった。あんまりそんなことが続くから、私も拝もうとしたら、それは止めるんだ。おかしいだろう?」


「……?」


 それを聞いたウリエラはなんだかわからないといった顔をして首をかしげていた。まあ、確かに何がおかしいのか分かりにくくはあるだろう。


「師匠曰く、何のために祈るのか、それを定めずに祈るのは逆に失礼に当たる。だそうだよ。私たちは魔物を狩って、その命を奪って日々の糧を得ている。ならば、私達が祈るのは、相手への経緯でなくてはならない。”やむを得ずだった””殺してすまなかった””安らかに眠ってくれ”そんなものは逆に失礼だ。なんて言っていた」


 アリシアは懐かしむようにもう一度苦笑して、そして思い出したかのように言葉を続けた。


「と、まあ、そんなわけで、私としては倒した魔物に祈るのは良いと思うが、それが自分のせいで、と言った感じに思いつめるのはあまりよくないだろうから、それならやめた方がいい、というわけだ。多少説教くさくなってしまったかな?」


「い、いえ」


 そう言うウリエラは、少し考えるそぶりを見せてから小さく頷いた。


「私は、強くなりたいです。そのために魔物を殺すかも知れません。だけど、それを後悔はしません。それはそうして生きてきたサスティナ様にも不敬なことだから」


「お、おぉ。……なんて言うか、筋金入りのサスティナ好きだね。ウリエラは」


「はい!サスティナ様はすごいんですよ!まずは……」


そうして興奮気味に話すウリエラの声を背景に、私は周囲を少し警戒しながら本を読む。


「……来たわよ」


 私の言葉に、戯れあっていたアリシアとウリエラが腰の得物に手をかける。来たのは群れで、接触は避けられないだろう。

 もしかしたら厄介な相手かも知れない。


 そう思いながら私は先を見通したのだった。


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