オークとアンサー
「俺は、3種類の魔物を使うのがいいと思うんだ」
「3種類……どの魔物かしら?」
その言葉を聞いて、俺はうなずいて指おりその魔物を答えていく。
「一種はスライムの上位種。これは海側にいた奴らが変異したってことで言い訳ができる。次がリザード系の魔物。これはサラマンドラからの変異か、似た経路での移動……。それと、最後の一つがニコット……マッシュラウネたちだな」
俺の考えはこうだ。まずリザード系は草食で縄張り意識が強い者を選ぶ。基本的には冒険者対応で縄張り内の冒険者を襲う役割だ。
そして、次のスライム。上位になればリザード系の魔物でも引けを取らない。どころか基本的に魔力で構成された体を持つ彼らは斬撃や刺突と言った攻撃を核に直撃しない限りものともしないと以前確認している。そのため、肉食のものを選べば、増えすぎたリザードの処理や中央から来た魔物を押しとどめてくれるだろう。
最後の一つ、マッシュラウネは、スライムに対する抑止力だ。スライムは魔力によってできている存在。それはつまり、以前のギンバリエとの戦いでの傀儡と同じような状況だ。あの時は意思のない傀儡だったからこその圧勝だったようだが、場合によっては他の魔物の手を借りても良いことを考えれば、結構いい線行くと思うのだ。
そう言ったことを話しきった後、俺は一つ思い出して言葉を続けた。
「あぁ、まあ、こうは言ったけど、正直殆どノープランみたいなもんだ。スライムは一応蘇芳の従魔がいるし、ニコットも話をつければなんとかなるが、リザード系の魔物に関しては伝手が無いしな。というか、そもそも該当の性質を持った魔物がちゃんといるかどうかも微妙だったな」
俺の言葉に、エッセン卿は少し明るい声で俺に向かって顔を合わせた。
「うむ、こちらとしては良い考えのように思う。上位スライムとリザード系……我らが基本的に撤退を選択するリザード系なら、アースリザードやサラマンドラ程度の魔物がいれば容易く侵入しようとは思うまい」
そう返したエッセン卿に、リリスウェルナ様は少し考えて顔を上げる。
「そうね、問題はあなた達の仲間のマッシュラウネたちがどれくらいの実力か、それとリザード系の魔物の調達ね。心配しなくても、スライム種は森の奥の方に何種類かいるわ。魔物を襲って食べるんなら……そうだね、ディープファウンテンの群れを連れてこようかしら」
その言葉に、エッセン卿は立ち上がって何かを言おうとしたが、頭を抱えて後ろにいた兵士に力なくつぶやいた。
「……分かったな。決して、この森に近づかせるな」
「そんなにヤバい奴なんですか?ディープファウンテンって?」
その言葉に、エッセン卿が頷いた。
「スライム変異種であることは確実だが、より悪辣な種だ。小さいものは水たまり、大きくなれば池ほどの大きさでじっとして動かず、不用意に足を踏み入れたり、水を飲もうと顔を寄せた相手に取りつき、顔を覆って窒息させたのち、ゆっくりと消化するような生態をしているんだ。一般的には動く底なし沼と呼ばれている」
それを聞いて、俺はゾッとする。オークは様々な状態異常にならないが、だからと言って何も摂取せずに生きられるわけではない。当然のことながら、生きている以上水というのは必要不可欠だ。もしオークがいる状態でそんなものが大量に徘徊していれば、オークは……というかほとんどの生物が早晩絶滅するだろう。
まあ、人間なら生水に警戒して水を携帯しておけば何とかなるかもしれない。そう言う意味ではありな魔物だろう。
とりあえずスライムの枠は仮決定したので、ニコットに連絡してそれを倒せるかどうかの実験のために数体分身を出して転移してもらう。
リリスウェルナ様が念話でディープファウンテンを連れてくるように誰かに連絡している間に、リザードの確保についても話が進んだ。
「後はリザードか……というか、ディープファウンテンがいるなら三すくみにする必要も薄いか?」
「いや、ディープファウンテンは確かに要注意だが、基本待ちの魔物だ。一定の抑止力はあるだろうが、それは中級以上の冒険者の話。スライム系を軽視するような風潮もある。知識のない初心者なら、たかがスライムの進化とよく確認せずに犠牲を増やす可能性もあるし、市政的にも分かりやすい大型の魔物がいた方がありがたい」
エッセン卿がそう言うので、リザードについて考える。どうするのが良いか、と考えていると、蘇芳が俺の肩を軽く叩いて来た。
「……ジージに頼む、良いと思う」
「ジージ……あぁ!竜帝様か!」
賢者の塔の中腹で出会い、後にギルドの昇進試験で戦うことになった竜帝様、何しろ竜帝と名の付く竜族の中でも有数の存在らしいし、確かに彼ならばちょうどいいリザード系の一種や二種用意するのは容易いかもしれない。それに、彼はアンネにとても甘いところがある。拝み倒せば何とかなるかもしれない。
「……えぇ、エド坊に頼むの?」
そんな風に考えていると、リリスウェルナ様が再び微妙な顔になった。俺が視線を向けると、彼女は目をそらしながらぶつぶつと言いながらそっぽを向いた。
「だって、あのエド坊だよ?あの年で童○ドラゴンだよ?その割にまるで年長者です、って顔で私に説教しようとしてくるエド坊だよ?」
俺たちはぶつくさ言うリリスウェルナ様から目を背けて聞かないふりをした。これ、内容自体はしょうもないが、竜帝様が俺たちに情報知られたことを知ったら機嫌損ねる奴だと察したからだ。というか多分機密事項だろ、しょうもないけど。
「ま、まあ、確認するだけならただなので」
とはいえ、これは俺ではなくアンネの方から連絡するのが良いだろう。というか、俺だと竜帝様に連絡を取る手段がないし。
そうこうしているうちに、なまめかしいスーツ姿の女性が二人現れ、巨大な瓶のような物の中身を地面へと広げた。それがディープファウンテンだったのだろう。それはすぐさま地面を侵食し、一分もしないうちに自然の中に溶け込んだ池が出来上がった。
見た目は完全に池で、小賢しいことに、流れ込む湧水まで再現している。木々の溢れるこんな場所に、微妙な大きさの池なんかあるか?と言う不自然さはあるが、その擬態能力は見事と言う他ない。
何はともあれ早速実験開始だ。
次回以降しばらく別視点です