表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/261

オークと事後報告

「いや、ちょっと待ってどういう事?グォーク君は私と一緒に怠惰で淫靡な日々を過ごすんじゃなかったの?」


「いや、そんな約束はしてないですけど」


 混乱してかそんな妄言を発するリリスウェルナ様を抑えつつ、俺はユグドラヘイムでジュモンジ老にオークに関する実験等のための土地を受け取ったことを伝えた。そして、先ほどのリリスウェルナ様の言葉ではないが、あることに思い至り、俺は彼女に頭を下げた。


「そう言えば、オークをユグドラヘイムに輸送することは伝えてなかったですね。すみません」


「あ、あぁ~。うん、ん~」


 リリスウェルナ様は唸りつつ、ちらちらとエッセン卿を見つめつつ、考えて、最終的に小さく頷いて口を開いた。


「……グォーク。あなたの言は分かりました。ただ、少し問題があります。この、黒き茂みの森におけるオークとは、中央から逸れた落伍者を押しとどめる役目があるのです。それが無くなれば、少なからず人間にも被害が出るでしょう。オークをユグドラヘイムへ送ることは……ッ!紅薔薇の魔王、リリスウェルナとしては止めることはできません。ですが、集落単位での移住は、問題もあることを理解してください」


「なんと、そんな役目が我らに?……まさか、オークキングの時に来て下さったのも?」


 驚くボスの横で、俺も驚愕していた。確かにオークの集落は黒き茂みの森の外縁部に集中しており、死亡事故が多発しそうではあるものの、海岸部や中央部ならいくらか生き残っていても良いくらいであるにもかかわらず、一体もオークに出会わなかったのは不自然と言えば不自然だった。


「……そう言えば、オークを新拠点に誘導しようとしたとき、途中でオークが引き返して行ったな」


 思えばあれも不自然だ。オークは鳥以上の鳥頭。多少拠点のことが頭にあったにしろ、満腹状態で休憩する場所を探すにしても、わざわざ引き返すよりはそのまま周囲を探した方が自然だ。尤も、実際にはその周囲には集落はないため結果としては大正解ではあったのだが……。


「……」


 無言のリリスウェルナ様は、俺とエッセン卿に顔を寄せ、小声でささやきかけて来た。


「二人とも、グォークが看破したことは他言無用です。良いですね」


「……蒸し返すようですまないが、他言無用の話を少し詳しく知りたい。私が許されるというのであれば、私は帰って民や宰相に此度の件を報告しなければならぬのです。思い違いや想像でリリスウェルナ様と敵対するのは勘弁ですので……」


 その言葉に、リリスウェルナ様は少し考えた後頷いた。


「……ならば、『私がオークの動きをある程度誘導できること』『私が人間のために森の生態系をある程度調整つしていること』そして、それらを容易に類推できることをこの場にいる者以外に他言することを禁止します。良いですね」


「承知しました。おい!お前らもわかったな!」


「は、はいっ!」


 エッセン卿の声にリリスウェルナ様に気絶させられていなかった兵士も声を上げて同意した。

 まあ、考えてみれば、リリスウェルナ様が意図的にオークを操ることが出来るというのは人間たちにとってはかなりの脅威だろう。それに、人間のために森の生態系を調整していること、これもバレれば少し厄介なことになりそうな気もする。


「……?なんで、魔王様、人間大事に思ってる、言わない?」


 蘇芳の疑問に、少し微笑みながらリリスウェルナ様が対応した。


「人間たちを恐れさせるためね。私自身は人間に害意は殆どないけれど、この森の住人となると話は別よ。そして、ここが私の領域である以上、私はどうしたって黒き茂みの森の方に寄りそう。それなのにいい狩場と思って無作法に森に侵入されたり、侮った態度で私に接するなら、私もそれ相応をしなければならなくなる。なら、始めからある程度離れた距離から関わるのが一番、ということよ。あなた達が集落を文明化させるなら、人間たちも侮ることもないだろうし、ある程度なら様子見もできるかと思ったのだけど……」


 そう言って悩まし気に眉根を寄せるリリスウェルナ様に、エッセン卿が口を開く。


「……正直、一領主がこんなことを聞いてよいのかと思って聞いておりましたが……例えばこういうのはどうでしょう。

 リリスウェルナ様は、人間が過度に森に干渉し、不幸な行き違いが起こるのを危惧しておられるのですよね?ならば、此度の作戦に参加した部隊員が、謎の魔物により返り討ちにされ、逃げ帰った。

 あまりの力の差に、その魔物の詳細さえ分からず、対応策として反撃の部隊さえ派遣が難しい状況である、と私が領主の名において民たちに知らせるというのは。領主の命なら今以上の広さを禁止区域に設定できるし、間引きが必要なら騎士団を使うことができる」


「嘘を吐くのは、いかがなものかと思いますぞ。領主殿」


 ボスがエッセン卿の言葉に苦言を呈し、それに、と言葉を続けた。


「政に関しては我も詳しくは無いが、領主殿の言うような事態になれば、より強い冒険者がここを訪れ、魔王と領都の何かしらの関係性が勘繰られるだけでないですかな?狩」


 ボスの言葉に続いて、俺も考えたことを口にする。


「俺も人間の政治には詳しくないが、領主の兵が撤退ってなると、かなりのことだよな?被害者が無くて撤退しました。で何とかなるものなのか?それとその対応方だと、不安がる民衆が一斉に街から逃げ出しそうなんだけど」


 その言葉に静かに項垂れるエッセン卿。彼もその発言の拙さを一切合切気づいていなかった……なんてことは無いだろう。だが、自身の持つ騎士団が赤子の手を捻るようにあしらわれ、気分次第で自分たちを滅ぼせる相手に対して最大限自ら譲歩した結果、あまり建設的でない提案をしてしまったのだろう。


 そんなわけで、これからどうするか、という作戦を俺たちは立て始めたのであった。


お待たせいたしました!ちょっと展開に手間取ってます(汗)


リリスウェルナ様は親賢者派閥、そして賢者は人間贔屓なのでリリスウェルナ様も人間贔屓です。というか、そもそもこいつサキュバスなので、男女のある種族は大体庇護対象です。


リリスウェルナ様が取った手は性欲系の操作で、集落中央に本能に訴えかけるフェロモン的なものが滞留している。オーク達はそれを濃度の濃い方に向かっていく感じ。魔王であるからか、微妙にオークにも通じる魔法の一つではある。理性が濃い相手には無意味。


因みに、黒き茂みの森は、動物などが殆どの外縁部(森は続いているが、基本的には黒き茂みの森とされない)、オークやトレントで緩やかにふさがれている前線部、アントなどがいてかなりの広さを誇る中央地帯、そして、クィーンアント、ビーなどがいたり、魔王の拠点がある中央部に分かれています。

で、蜂系魔物やアリ系魔物の蜜を求めたり、貴重な精力剤の材料になる素材が生えてたり、数は少なくても貴重な魔物なんかもいるので、実際黒き茂みの森前線部にオークとかがいない場合、無茶して死ぬ冒険者が増幅するうえ、リリスウェルナ様の影響で繁殖力がかなり上がっているので、下手すると数年に一度程度魔物が溢れ出すという地獄みたいな状況になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ