オークと帰還(最寄り村)
結局、黒き茂みの森へ即日機関が可能と判明してすぐ、俺たちは転移門を使って一足早く黒き茂みの森へと向かうことにしたのだった。と言っても、全員が向かうわけでなく、連絡役としてニコットの分身を3チームで同行させ、オークチーム、旅チーム、世界樹チームに分かれての行動だ。
オークチームが分かれた理由としては、単純にいろいろな準備がいるのではないかという話が出たからだ。
本来なら、オークの集落に向かう為にはいくつかの問題を解決する必要がある。まず、ジュモンジ、アベルに関しては基本オークの集落の方に行くのは難しい。アンネが滞在していた時のシィラの実による襲撃ガードが使えないからだ。そのため、待機場所として森の外に宿を求めるか、あるいはそこで分かれることを考えなければならなかった。
一方で、アンネ、リナ、アリシア、サスティナ、ウリエラ、あとアリシアの妖精とジュモンジの従者のエルフ達に関しては普通に入り込むためにはシィラの実が必要になる。シィラの実はそこまで希少なレア植物、というわけではないが、それでも人数分用意して下処理までこなそうと思うと一日がかりの仕事となるだろう。
また、オーク達をもしこのユグドラヘイム、ジュモンジのお膝元に転移させるとすれば、そのための支度も欲しい。折角今は任せられる保護者に囲まれてウリエラが戦っているのだから、こちらはこちらで準備を進めておいても良いのではないか、という話が出てきたのだ。
というわけで、旅チームはアンネやニコットが誘導したうえでの訓練として、引き続き継続して旅を続け、ジュモンジ、サスティナ、リナがユグドラヘイムにてオークの住環境の整備(と言いつつオークはたいていの環境に順応できるので、どちらかというとオークによる外部への被害軽減のための細工)を行い、俺たちオーク組が黒き茂みの森の方で段取りを進めるということになったのだった。
「……さて、それじゃあ行くか」
ジュモンジの転移門をくぐってすぐ、ファンタジー作品の定番として、転移系の魔法は街の前にしか転移できない、みたいな話があるが、その話の通りここもだいぶ街に近い場所だった。
とはいえ、ジュモンジからすればそれは全くの筋違いらしく。曰く
「別に街でも魔境でもないところに転移門開いたって使い道無いじゃろ。下手したら一瞬方向見失うリスク孕んでそんな意味わからんことする意味が無かろう」
だそうだ。まあ、確かにその通りだ。
なお、そのせいで大樹ジュモンジでも黒き茂みの森のオーク集落直通転移門は作れなかった。一度行った事がある場所が条件の為、大樹ジュモンジが行けるのは、「旧オークキング集落跡地」「リリスウェルナの本拠地(黒き茂みの森中央部)」「領都 エレシア」の3か所ほどだった。その中で一番近いのがエレシアだったというわけだ。
「それじゃあ、一応街の方にも寄ってみるか。一応歩いたって、集落の方には急いでも一日くらいかかるからな」
気ままに動くオークとはいえ流石に一日で到達できる距離に集落があれば気付くわけで、オークの集落と個々の距離は歩いて三日、全力疾走で一日くらいの距離が開いていた。
歩くこと少し、そもそも転移直後から見えていたそこそこの高さの街門へとたどり着いた。
そして、直後、数人いた旅人が泡を食って慌てだし、兵士も我先にと街に入ろうとする旅人を抵抗なく受け入れた後、割と頑丈そうな扉をゆっくりと閉ざした。
「…………」
「あ、主殿、気落ちをすることは有りません!我らの体力なら、別にあの街にこだわる必要もありますまい!さあ、我らが家に帰ろうではありませんか!」
俺自身もそうしたいところなのだが、実のところできることなら街の中に入りたいのが正直なところなのだ。理由は二つ。一つはジュモンジに一つ、領主当ての手紙を預かっていること、そしてもう一つ。このまま立ち去った場合、無駄に詮索されて追撃が来そうなことだ。
とりあえず俺は息を吸い込み、そして扉の向こうにいるであろう兵士に向かって声をかけた。
「騒がせて済まない!別に敵対する気はないんだ!一つ渡したい者もあるし、どうか話をさせてくれないか?」
待つこと少し、もう一度声をかけようと思ったくらいで、向こうからの返答が来る。
「こちらは、エレシアの警備隊の者である。そちらからの要求は承った!しかし、おいそれと扉を開けることはできん!それに、一年ほど前にオークの襲撃で村が一つなくなっていて、その難民がまだこの街で受け入れられている!彼らの心情を推し量れば、おいそれとお前たちを街の中に入れることはできん!」
それを聞いて、俺はあぁ、と思いをはせる。アレは、ボスが仲間になってリナがその伴侶として付き合いだして少しした時のことだ。
ちょうどボスがリナのいる新集落に行き、アンネがオーク観察で集落に残っていた時に、連れ立って走りすぎていったオーク達を追いかけたら山村にたどり着いたことがあった。あの時一応死者はなるべく出ないようにしたが、それでもオークが出現する場所に町があるというのも、正直それ以上住み続けるのをためらうのは当然と言えた。
「……そうか、承知した!ならば、こちらに一人、誰か寄こしてくれないか?とある冒険者の知人から、領主様宛の手紙を預かっているんだ?」
そう言うと、少し間があった後、外壁の上から小さなかごが紐に括りつけられた状態で下ろされてきた。
「このような対応で済まない!だが、この街の者達は本当にオークを恐れているのだ!どうか、理解してほしい」
蘇芳なんかは微妙な顔をしていたが、俺は、まあ、こんなものかと思いながら手紙をかごに入れ、固定する。
と、そんな風にしていると、扉の辺りがにわかに騒がしくなり、そして、あろうことかゆっくりと開き始めた。そして……。
「やっぱりその声、あんただったのかい、優しいオークさん」
そう言って一人の女性が姿を現したのだった。
まさかのプロローグ回収編