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初心者冒険者と叱責

「それじゃあ行くわよ!眠りの雲(スリープクラウド)!」


 アンネさんの言葉で、サルたちが一斉にバタバタと枝から落ちてきます。そして、落ちて来たところをアリシアさんが次々に首を切り落として行きます。私も慌てて弓で射抜いていきました。


 ただ、それだけ。最初の戦闘は、そんなあっけないほど簡単に過ぎ去っていきました。何だったらニコットちゃんは戦闘に参加せずちょっとうろうろしてただけです。


「うん、これはワイルドモンキーね。素材としてはそこまで有用でもないけど、ギルドに持ち込めばお小遣いくらいにはなるんじゃない?」


 そう言うアンネさんの言葉と共に、ニコットちゃんとアベルさんが解体を始めます。

 その間私は……。


「おい!聞いているのかウリエラ!」


 アリシアさんに絞られていました。


「はい。で、でも、あの時は早く攻撃しなきゃって思って」


「あのな、お前の持ってる弓は玩具じゃないんだよ!そりゃ、ジュモンジ様やサスティナ様の目ならあの距離でも敵性存在か分かるかもしれないが、まかり間違って権利種族や権利部族を襲ってしまえばこっちが犯罪者なんだぞ!間違えましたで謝って許されても、多額の賠償金だってかかる。種族によっては許す代わりに失われた命の分だけお前が生んで増やせとか、そういうこと平気で言ってくる種族もいるからな?」


「……ハイ」


 アリシアさんによれば、こういった場所に権利部族がすんでいることは珍しくないという事です。ゴブリンやコボルドの集落があったり、人里で買い物をするためだけに権利を取っている種族が人里離れて住んでいる、みたいなことがあったり。

 そのため、よほど巨大な個体であったり、硬質な肌を持っていそうな場合を除いて先制攻撃を相手に譲るか、隠れて人権印章の有無を確認するそうです。実際、母数がそれほど多くないため毎年、とはいかないものの、結構な頻度で権利種族の殺害による立件事件は報告されていて、場合によっては人権のはく奪もありうるのだとか。


「基本的に虫系の魔物やオークなんかの魔物以外は人権印章確認してからじゃないと攻撃しちゃいけないんだよ。まあ、尤も?こっちだって切羽詰まってるんだ。こっちが先制攻撃受けてたり、脅威を感じるような状況なら攻撃しても許してくれる人権部族も多いけれどな」


 そう言うと、やれやれとアリシアは肩をすくめて手を差し出してきた。


「まあ、怒ってばかりでも仕方ないか。さっきの戦いは最初の相手を見分ける以外は良かったよ。今度はよほどのことが無い限りはこっちが言ってから攻撃してほしい」


「分かりました」


 結局そう言う話になったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふむ、しもうた。人権印章についてはそこまで伝えておらんかったのう」


「……」


 額を撃つジュモンジをしり目に、サスティナが脂汗をにじませてたたずんでいた。


「おい、サスティナ、まさかお前」


「ち、違うのじゃ、流石に人権印章持ちに喧嘩売るほど馬鹿じゃないのじゃ。じゃけど、そう言うのは弱いののやることじゃろ?じゃから。妾は強いのばかりなぎ倒してじゃな……」


「……要は、人権印章もよく確認せずに襲撃し回っとったんじゃな?はぁ、どうやら講義が必要なのはウリエラ嬢だけじゃなかったようじゃな」


 そう言うと、ジュモンジは大樹の方に視線を向けた。すると、するするとツタが垂れ下がり、サスティナを拘束し始めた。


「うぉい!何をするのじゃジュモンジ!二人がかり……二人がかり?ええいしゃらくさいのじゃ!とにかく離すのじゃ!」


「そう言うのなら、人権種族の嗜みをもうちょっと勉強するべきじゃのう」


 そう言って、もう完全に取り込むレベルにツタに絡めとられたサスティナにジュモンジ老の従者であるエレメンタルガーディアン達がサスティナの顔に書物を押し付けに行っていた。


「……ん?あ、いや、んんっ?」


 そうしてジュモンジ老を見て、俺はふとある事実に気付いてしまった。俺は小さい方のジュモンジに声をかける。


「なあ、ジュモンジさん」


「なんじゃ?」


「あのさ、勘違いだったら悪いんだが、もしかして俺たちって、旅する必要なかった?」


 そう聞くと、ジュモンジはサッと目線をよそに向けた。ついでにこちらを見た一同からも視線をそらしている。


「えーと、おじい様、それ、本当ですか?」


 ニコットの言葉に、ジュモンジは顔を伏せたまま小さく頷いた。

 よく考えれば、ジュモンジに出会ったのは黒き茂みの森である。転移門をジュモンジが使える以上、オークの集落直通は無理だとしても、その付近まではいけない道理が無かった。


「あ、誤解せんでくれ!儂自身は黒き茂みの森の方面へは行けん。いけるのはあくまでも兄者じゃ。そう言う意味ではあの時点では儂らは黒き茂みの森へは行けんかったのは確かじゃ」


「でも、行けることは知ってたんですよね?」


「ぐぬっ!?ま、まあ、気付いておらんかったと言えば、嘘になる……かもしれんのう?」


「……」


 ジュモンジに注がれた視線はおおよそ3種類。

 すなわち「まあ、ウリエラたちのことを思ってやったんだろうな」と言った感じの俺たち保護者組の生暖かい視線。

 「ジュモンジ様、流石にちょっと情けないです」と言った風の、エルフ達眷属やサスティナ、蘇芳の反応。そして。


「おじい様、ちょっと嫌いになりそうです」


 意外と慕っていたらしいニコットのそんな一言に、ジュモンジは頭をうなだれさせたのだった。

 人権印章の効力は結構強いですが、以前どこかで書いた通り絶対殺されない権ではありません。

 人権印章保持者の義務として、人権印章の保持、提示の徹底はもちろん、人類種へのすり合わせを要求されます。要するに、衣服の着用や移動速度の考慮、食料関係の考慮などを特に人権種族と関わる際に徹底させられます。

 簡単に言えば、

 狼型人権種族「片方の前足と首にかけるタイプの大きめのたすきのような物を常に身に着けています。街中では冒険者が追いつける程度の速度までしか走らず、街中ではトイレをきちんと使います」

 

何だったら、街の外で猛スピードで人に向かって接近するとかもアウトよりではあります。仮に誤って殺してしまっても、ギルドに状況説明して認定されれば無罪になります。ただ、怖くなってその場に放置とかすると故意であろうが無かろうが問答無用でしょっ引かれます。剰え素材として持ち込んだ場合は国からもギルドからも重犯罪者として人権をはく奪されるレベルの重罪扱いされます。

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