オークと再会
「む、おぉ!グォーク殿ではないか。久しいのう」
「久しいのじゃ、グォーク!」
ジュモンジとサスティナが嬉しそうに声をかけるとそれを聞いてアリシアとアベルが驚いたようにこちらを見た。
「グォーク殿は、こちらのジュモンジ様とサスティナ様と知り合いなのか?」
「ああ、以前少しな。それで、アベルたちは?」
「こっちは最近出会ったんすよ。ウリエラちゃんの故郷にたまたま俺たちが討伐依頼に行って、そこで里帰りしていたウリエラちゃんたちに出会った感じっす」
アリシアの問いに答え、こちらも質問するとアベルが答えてくれた。まあ、立ち話も何なので、俺たちは酒場の方に向かい、食事をしながら近況を話し合うことにした。
「……なあ、なんか、前来た時と違う、というか、なんか明らかに異常な状況になってるんだが。なんだあの同じ顔の職員」
「そうじゃの、あれ、お主らの連れじゃろう?なんでああなっとるんじゃ?」
席に着く前にそんな話もあったので、ひとまず近場のニコットに声をかけ、近況報告のついでに話をしてもらうことにした。
「はい、わかりました」
「……ん~?」
なんだか普段のニコットと違うような……。なんというか、いつもより若干テンションが低い気がする。
「あ、グォーク。折角だし、ニコットに説明してもらいましょうよ」
「ん?いや、だから……」
「はいはい!畏まりました!」
アンネの言葉に呼応して、一人のニコットが俺の後ろから元気よく声をかけて来た。見た感じ、どうやらギルドで俺達に声をかけて来たニコットのようだ。
「……ん~。ん?あっ!いや、もしかして、こいつら、ニコットじゃないのか?」
「あ~。あの子たちは娘?下僕?そこは、説明難しいんだけど、まあ、簡単に言えばそうだよ。お兄ちゃん」
あまりにも気になりすぎる話だったので先に確認すると、どうやらジュモンジのように枝分けで増えた個体が彼女たちらしい。
で、種族名にある通り、レギオンマッシュラウネ族は複数の、というか多量の茸型の個体が一つの意志、つまりニコットとして存在すると言う生態なわけだが、流石に一度魔力のパスが切れるとその限りではなく、別個体として扱われるらしい。
ただ、魔力の形自体は元のニコットとほぼ同じの為、従魔として支配下に置くのはさほど難しくなくまた、言葉や距離に影響されない意志の伝達も可能なのだとか。
「で、あの子たちは私みたいにそこまではっきりした意思は無かったんだけどここで働くうちにちょっとずつ意志が芽生えて今やあんな感じになっているのです!」
そう宣言するニコットに、ジュモンジが何かしらの特技を使ったのか、感心したように言葉を続ける。
「ふむ、なるほどのう。クロノマッシュラウネ・レギオンという種族のようじゃな。ほとんどがレベル1のようじゃが、その代わり同族との無制限情報共有能力と株分けで仲間を増やす能力を持っているようじゃ。ぶっちゃければ儂と本体の関係性を無くして、能力譲渡を出来なくした代わりに、数と情報共有能力を向上させた、みたいな種族じゃのう。ぶっちゃけ、こやつら複数の魔物みたいな顔しとるが実質同じ一つの魔物の一部分が意思持って別行動しとるようなもんじゃぞ」
つまりはそう言うことらしい。
「っと、まあ、ニコットの話はそれぐらいにしとこう。……いや、とりあえずこれだけ確認しとくか。ニコット。こいつらは置いといても問題ないんだよな?」
「うん!私と接続した時に、こっちの常識は全部渡したから!それに一応私が主人っていうか、司令塔、みたいな感じになってるから、遠隔でもダメなときはダメって伝えられるよ!なんかあったら私が直接飛んでいけるし!」
まあ、それでギルド側が納得しているならいいだろう。ちらっと受付の方に目を向けると、オーク級の受付おっさんにサムズアップされた。問題ないらしい。
と、そんな話をした後は、皆の話を聞いていく。どうやらどちらも俺達と出会った方が早かったようなので、俺たちと別れてからのことを掻い摘んでの話となった。
まずアベルとアリシアは普通に冒険者として活躍していたようだ。とはいえ、アリシアの戦闘スタイルは少し変わり、大樹の精霊から貰い、精霊王が強化した加護の力でクッソ固くなったため、逆に軽装で敵をかく乱しつつほぼ素肌で攻撃を受けるような戦法で戦っているようだ。また、リトルウィッチフェアリーの協力で必殺技を獲得したようだが、それに関してはアリシアは口をつぐんで話さなかった。
また、アベルはアベルで賢者の塔を上ったり一見少年のようなクッソ強い格闘家に師事を受けた結果、機転と単純な戦闘能力の向上に成功したらしい。どちらもオーク級からシーサーペント級まで等級を上げていた。
一方のサスティナ&ジュモンジのパーティは割かし気ままに冒険を続けていたようだ。何しろ俺たちが到達したマンティコラ級というのは依頼がほぼないという頭のおかしい状況になっている。まぁ、魔王大戦時の戦力指標をいまだに使い続けているため、マンティコラ級が名誉等級みたいになっているのが理由なのだが。
というわけで、依頼を受けるとなると完全に格下相手の戦いとなること、そして、それらの依頼ですら割と一生遊んで暮らせる(短命種に限る)くらいのお金は稼げることから、どちらかというと趣味や慈善活動の一環みたいな活動になることが多いそうだ。
流石にサスティナ達(ジュモンジはある意味稼ぎ切っているので)はそれほどの巨万の富は得ていないが、それでも数年は暮らせる資金を得ているため、ゆったりと旅を続けていたのだという。
で、ウリエラの実家がある故郷でたまたま依頼を受けていたアリシア達と、たまたまウリエラの里帰り兼様子見をしに来たサスティナ一行が鉢合わせになり、なんだかんだで一緒に行動するようになった、という話らしかった。
と、一通り二チームの話し合いが終わったところで、今度は俺達の番だった。




