表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/261

狼と竜

 剣戟が響き渡り、何度も何度も剣が振り下ろされる。

 しかし、そこで傷つくのは剣を振り下ろされたディノケルスではなく、マーナの方だった。


「……主殿、あまりにも、あまりにも力が違いすぎませぬか。これでは……」


 起こっていることは単純だ。業物の能力も、それを操る存在の能力も圧倒的に足りていない結果、まるで地面にしっかりと固定された鉄柱を思いきり叩いた時のように反動がマーナにダメージという形で帰ってきているのだ。

 逆に言えば、それはまともに攻撃を受けてもマーナの一撃はディノケルスをこゆるぎもさせていないということだ。

 だが、俺はそんな様子に少しだけ安堵していた。


「ディノケルス……様、少し、質問しても良いか?」


「クックック。この状況で問いを掛けるか?良かろう、この娘を相手する片手間程度には話してやろう」


 それを聞いて、俺は一つ頷いた。


「これは、いつ終わるんだ?」


「ふむ、それは私も分からぬ。この娘次第だ」


 その言葉に、俺はマーナを見る。


「グォーク殿、他のみんなも、手を出さないでくれ!獣人たちにとって、ディノケルス様との戦いは、神聖なものなんだ!」


「それがお前の望みなんだな?」


「ああ、獣人の悲願だ!」


 そう言うマーナの言葉を受けて、俺はボスをじっと見つめる。


「ボス……すまないが……」


「主の、思うがままに」


「ありがとう」


 俺はその言葉を受けて、マーナに向けて炎の精霊剣を放り投げた。


「受け取れ!マーナ!今のお前の持つ武器じゃ、どうあってもかすり傷一つつけられない!貸してやる!それと、これもおまけだ!」


 そう言ってマーナに知能向上魔法をかける。そんなことをしていると、アンネが話かけて来た。


「偉い大盤振る舞いね、グォーク」


「そりゃ、俺に進化のことについてヒントをくれた人だしな。……それに、願いをかなえようとしてあんなに頑張ってるんだ。応援したいじゃないか」


 そんな俺に、アンネは笑ったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDEマーナ


 グォーク様から投げ渡された、彼の業物である炎の剣を恐る恐る受け取り、ディノケルス様に向かって改めて目を向ける。


「これは……凄まじいな」


 今まで使っていた剣だって、そこそこの業物だった。店売りではなく、鍛冶師に頼んで作ってもらったものだった。だけれど、これは違う。

 そもそも店で手に入るものではないだろう。百歩譲って、何かの大会の優勝景品や何らかの報酬で国庫から放出されるタイプの……いわば宝剣と言われるべきものではないだろうか。


 正直、自分が扱いきれるのか、扱えるとして扱っていいものなのか。そんな懊悩が一瞬通り過ぎるけれど、それでもしっかりと剣を握ってディノケルス様に向けた。


「改めて……不肖マーナ。胸を借りさせていただきます!」


 そう言って剣を振るうと、巨大な炎が渦巻いてディノケルス様に襲い掛かった。


「!?」


 放った私が驚いていると、その炎の中から三つ指の掌が私の顔を握りつぶそうと飛び出してきた。咄嗟に避け、返しの攻撃を腕に向けて切り抜く。


「……クックック。先ほどは驚いたぞ。だが、武器に振り回されているならば私に届くことなどないぞ!」


 そう言って切りかかるディノケルス様に私は慌てて剣を立てて防いだ。

 一合、二合、三合。剣が合わされるたびに、自分の実力のなさがありありと分かり、自分の弱さが、ディノケルス様の期待に応えられない自分に嫌気がさしてくる。


 ……というか、なぜあのオークはこれを託してくれたのだろうか?一応奴隷と主人という立ち位置なのだけれど……。


 私は、思わず剣の動きを止めて、グォーク様の方を見ました。


「グォーク……様!なぜ、このように助成してくださるのですか?」


「……そうだな」


 少しの沈黙から、グォーク様はにこりとこちらに笑いかけてきました。


「お前は俺の恩人だからな。俺がスィフォン老人の試練を受けずにオークの進化に手を出していたら、俺はオーク達を、結果的に不幸にしていたかもしれない。その試練突破のきっかけをくれたのは、俺はお前だと思っている。だから、今度は俺がお前を助けたいんだよ。それに……お前はもう、俺たちの仲間だからな」


 その言葉に、私はもう一度ぐっと炎の魔剣を握りしめます。

 先ほどまでの自分が勝ちたい、という気持ちに、グォーク様、否、グォーク達のためにも、勝つところを見せたいという思いが重なります。


 私は、改めて剣を見つめました。それは、業物の剣。私が本来は持ちえない宝剣。だけど、せめて今だけは!


「ほう、良い顔になったな。それでは行くぞ!」


 改めて見ればディノケルス様は組んでいた腕を解き、こちらに向かってきます。どうやら待ってくださっていたようです。でも、私はその声に応えませんでした。代わりに、裂帛の気合を込めて吐き出します。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 剣技も、力も、己の命さえも考えずに振るった一撃はまるで閃光に包まれたかのように眩く照らされ、ディノケルス様の脇腹をかすめることに成功したのでした。

ディノケルス様は今まで出て来たヌシ系の魔物の中で最弱です。

というか、そもそも彼は竜種でもなければ魔王ですらないので……。


 ディノケルス様は元々は大農場から飛び出した恐竜系の魔物。魔素の管理能力ものないため、普通にただただ強いだけの魔物。一応勝てる魔王がいる程度には強いっちゃ強い。


 この世界では竜種と恐竜種は全くの別物。具体的には「竜、龍、ドラゴン」の名を冠する魔物たちはとある存在に影響を受けて進化したか、進化した親の影響で竜種になった魔物が竜系の魔物です。正確ではないけれど、竜帝、竜神、竜王、それとルーリィエの魔王の眷属だと思えば大体あってる。


 ディノケルス様はそこら辺への憧れでなく、恐竜っぽい結構強い魔物が、2足歩行で歩ければ便利だろうな~。みたいなノリで進化した姿の為、全然竜種とか関係ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ