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オークと気づき

 夜、俺は一人で拠点に籠りながら考えを巡らせていた。


「……」


 スライムを見ない日々、そもそも話もできないスライムだが、いないとなると少し物足りないかもしれない。

 数を増やしすぎて最近は寝所にも数匹いたので物寂しさも一入だ。

 …………そう言えば、最近進化したものはその寝所にいたスライムたちだったかもしれない。


「……ん」


 俺は起き上がり、手を見つめた。俺はスライムを進化させる対象として見ていた。それは今も変わらない。ただ……。


「もう一度スライムたちを見てみるか」


 俺は、真夜中にスライムファクトリーの所へと向かったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……」


 俺はベビースライムたちを近くでじっと見つめる。小さいスライムたちはもぞもぞと動いていた。総て同じに見えるが、よく見ると一匹一匹が異なる存在であることが分かる。


「おや、こんな真夜中に何用かな?」


 気づけば、真後ろにスィフォン老人の姿があった。彼はゆっくりと俺の横に座り、言葉を続ける。


「朝はまだ先じゃ。それとも、……何か答えを得たか?」


 俺は、スライムに目線を移して、思ったことを口にする。


「……俺は、スライムたちを進化させる対象としか見ていなかった」


「……ふむ」


 静かに聞くスイフォン老人は、しかしそれ以上話さない。


「だけど、それじゃあ、いけなかった……のかもしれないと、頭を冷やして思ったんだ。だからここに来たんだ」


「ほっほ……そうじゃな」


 スイフォン老人は楽しそうに笑いながら、俺を見つめて来た。


「なぜ、いけないと思ったんじゃな?」


 俺はぽつぽつと話し始める。


「俺は、進化に対して忌避感を持っているんだ。今は、進化しても良いとも思っているけれど、それでも進化するということに対してまだ違和感がある。……それで、アンネ、うちの妖精に俺自身を顧みろって言われてな……。

 それで、スライムも、そう言うことがあるのかと、思い至ったんだ」


 そこまで言うと、スィフォン老人は静かに話し始めた。


「わしは、数多くの魔物を育てて来た。今でこそ、魔物使いなどと、魔王などと言われておるが、昔は仲間たちに比べれは自分はいかに力不足なのかと打ちひしがれたものじゃった」


 そう言ってからからと笑う。


「じゃから、魔物たちの話をよく聞いた。相手の相談もあったし、進化に立ち会ったことも数え切れんほどじゃ。

 じゃが、それでも儂が進化を強要したことは数えるほどじゃ。魔物たちにも魔物たちの感情がある。ただ、そんな単純な話なのじゃがな」


 そう言うと、スィフォン老人はこちらを向いてにこりと笑った。


「まだ、オーク達に自分の思うように進化してほしいと思うかの?」


 俺は首を横に振ろうとして……、俯いた。


「それでも、俺は……。俺はあいつらに俺たちみたいになって欲しい。そう思ってしまうのは、間違いなのか?普通に笑って、普通に泣いて。獣みたいじゃなく、いろいろなことを考え、自分で自分の思いを、世界を広げていくのを望むのは、悪なのか?」


「よいのではないかの?」


 そう言うスイフォン老人に、俺は思わず顔をあげた。そんな俺に、老人は再び目元を緩める。


「親が子どもの将来を憂うのは当たり前の事。友が間違った道に向かおうとすれば引き留めるのは当然の事。そうじゃろう?要は、線引きの問題ということじゃ。総てのことをお主が決め、お主の言うとおりにさせるなら、それはただの奴隷に過ぎぬ。そもそも、そう言った方法で望む進化を果たしたとして、その者は自分で考えて動ける者となれるのか……。じゃから、わしらは相談に乗るしかないのじゃよ。最後に決めるのは進化する彼ら自身なのじゃからな」


 そう言って、最後に老人は、お主にはそのための力があるじゃろう?と付け加えた。

 俺はそこで、自分の手を見つめる。……そうだ、俺は森を飛び出した時の俺じゃない。オーク達を知り、良い方向へ導くための手助けとなる力を手に入れているのだ。


「それで、どうするかの?ここで試練を終えるかの?」


「……いえ、最後までやらせてください。まずは、一匹から」


 俺のその言葉に、老人はほっほと笑い声を浮かべるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ベビースライムを一匹引き取った俺は、そのスライムを引き連れて様々な場所に行った。平原、火山、沼地……最初のベビースライムは高原に強い興味を示したため、そこに拠点を構える。

 食事はいくつかを用意し、食いついたものを優先的に出すことにした。そして、中座することは有っても、一日の終わりには必ずスライムの近くで眠ることにした。


 違いは大きい。スライムは俺に懐いたのか、近づいてくるようになったし、俺自身もスライムの望むことが分かるようになってきた。そして、三日たち、ベビースライムがエアスライムに進化した時、今までスライムを進化させたのとは比べ物にならないほどうれしかった。


 この後、俺は今までの困惑は何だったのかというほどにスムーズにスライムの進化は進んでいった。ナイトメアスライムに進化するスライムは一匹もおらず、他のスライムに関しても殆どが試練に関係する種族で、そうでない種族はスィフォン老人も目を見張る珍しい種族だった。


 そして、遅れること1週間、途中試練達成した蘇芳に突撃されたりもしたものの、俺は無事に試練を達成することに成功したのだった。

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