オークとベビースライム
SIDEグォーク
「さて、それじゃあどうするか」
俺はスィフォン老人から受けた試練をどう進めようか考える。アンネも言っていたが、そのまま一匹ずつ育てるとひと月かかる計算だ。まあ、急ぐ必要はそこまでないのだが、それでも急げるなら急ぎたい気持ちもある。
そもそもだが、進化を左右するのは何だろうかと改めて考えてみる。
以前アンネがオーク達の進化で言っていたのはオーク自身の意志、だっただろうか。
まあ、進化時の環境や食べ物なんかが関わりそうな気がする。
「よし、とりあえず、スィフォン様に檻とかいろいろ用意できるかどうかを確認して、放し飼いみたいな感じでできるかどうかやってみようか」
確認したところ、飼育用の持ち運びできる檻やらなんやらと一通り何とかなることが分かった。それと、飼料の適正数や一般的な生活環境を用意して、2~3か所回りながら育ててみることにしようと思う。とりあえず、数は15匹くらい適当に選べばいいだろうか。
SIDEアンネ
「進化の過程を何度も見ることができるのは、なかなかないことよね」
私はめったにない機会に少し気分を良くしながらあたりを見回した。グォークは……どうやらスィフォン様にいろいろ聞いてるみたいね。私も後で聞きに行きましょう。
私が狙うのは、とにかく進化をこなすこと。ただ、漫然と進化させるわけではなくて、いろいろなパターンを試してみたい。
じっと観察して、スライムたちの濃度、運動率、大きさ、その他もろもろをモニタリングし、今回は似た特徴を持つスライムを十匹単位でそろえて育てることにする。
実験もあるので、数は多めに、それ以外の規格はそろえた方が良いかもしれない。
「とりあえず80匹貰おうかしら。場所は……まずは平原からかしらね、まずは基準点を作っておきたいわ」
この80匹は普通に放し飼いにすることにしましょう。管理を厳しくしたり、逆に完全に飼育放棄してストレスを与えるような方法、それに、環境を変えて過酷な場所や特殊な環境で飼育するのはまた次回へ引き延ばすことにしよう。
そうして、私はスライムを集めて運ぶことにしたのだった。
SIDEマーナ
「えっと……どうすれば……たしか、スライムを育てるんだったよな」
私はオーク達のことも忘れてスライムの方を見つめた。
こんなにたくさんのスライムを一度に見たのは初めてだ。一匹一匹は驚くほど小さく、小さいものは一口で食べるのにちょうどいいくらいの大きさだ。大きいものもかぶりつくのに適している程度の大きさしかない。
「……はっ!いけないいけない」
思わずよだれがたれそうになっていた。あれはおやつではない。
私は頭を振ってじっとスライムを見る…………。
「わ、分からない」
何も分からなかった。どのスライムがいいとか、どうしたらいいとか、ちんぷんかんぷんだ。
「……?」
気が付くと、一匹のスライムがこちらに近づいて来ていた。
「なんだ?私が気になるのか?」
私が手を差し伸べると、スライムは手を伝ってゆっくりとこちらに登ってきた。
「こうしてみると、なんだかかわいいな」
そうして私はスライムを顔に寄せる。うん。なんだかとてもかわいく見えてきた。
そうして見つめ合うこと暫し。
「ふんふーん……!?」
気が付くと、私の体にスライムがまとわりついていた。
「ちょちょちょ、な、なに?なに?」
そして、気が付いたら私はスライムに埋もれていたのだった。
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……何やってるんだあいつ。
スィフォン老人に話を聞き、適当に15匹を5匹づつに分けた檻に入れて出発するときに、なぜかスライムに埋もれているマーナを見かけ、思わずそう思ってしまった。
因みにアンネは大量の檻の中に大量のスライムを詰め込んでおり、あっちはあっちで気になるところであった。
リナはどうやらもうすでに出発したようで不在。ボスは吟味中、蘇芳は……意外にも少数で3匹を育成する気のようだ。
俺が向かうのは平原、沼地、高原の3か所だ。それぞれにきちんと宿泊用の施設もあるらしいので、宿泊施設の近くに食料や保護用の檻なんかを設置して回りながら様子を見ていくようにしたい。
一応、スィフォン老人から紹介された場所と照らし合わせて、何度か見回る予定だ。それぞれの場所は20分もあれば移動できるくらいの距離だし、ぐるぐる回りながら3日を過ごすことにしよう。
とりあえずまずはスタンダードな進化を狙っていこう。食料は多め、水も多めにしていったん放置。排泄物……はするのか分からないがまあ、それもするという想定で見ていこう。
ここはスィフォン老人のお膝元、魔物たちは多いが、試練だと分かれば襲ってくるものは皆無なようだ。ちゃっちゃとクリアしてしまおう。




