オークと談合
「専属?どういうことだ?」
二バールの説明によれば、大抵の国内の組合はチェーン店のような形態であり、各町に存在する組合同士で、連携しながらも、一部競争しているらしい。
そのため、優秀な探索者を優遇することで、自分のところの組合を優位になるように誘導するらしい。
当然専属になれば縛りも増えるがそれによって得られる利益はかなりのものらしい。
「とはいえ、俺たちはもともと塔のギルド所属だからな」
「そう言わんと、考えてくれへんか?リーディアは港が近いから探索者の出入りが激しくて、なかなか競争力が安定せんのや。あんたらがいてくれれば、心強いことこの上ないんや。……もし専属になってくれるっちゅうんならこれだけのことはさせてもらいまっせ」
そうして出された紙には……なんだかよくわからないが文字が書いてあった……。普通に帝国語だった。
仕方がないのでアンネや二バールの説明を聞いてから話を再開した。
なお、まとめると二バールの提案した優遇措置というのは
1 報酬を常に一割増額した状態で成功報酬を支払う。
2 リーディアで生活するための物資や建造物の無利子提供を行う。
3 法的、倫理的な問題で犯罪を犯した場合、あるいは犯罪に巻き込まれた場合、リーディアの探索者組合が及ぶ範囲であれば全力で手助けを行う。
と。いったところだ。
まぁ、そんなことを言っても結果は決まっているわけで……。
「すまないが、本当にここに根を下ろす気はなくてな……。大農場での用事が終われば、もう出て行くつもりなんだ」
「左様ですか……仕方ありませんな」
これ以上はもう無理だと判断したのか、二バールはため息をついて肩を落とした。
「まぁ、他の組合で活躍されるよりはましですな」
そう言って最後に、ここにいる間はたくさん依頼を受けてほしいと言われて解放されたのだった。
とりあえずラグンとの約束は明日の午後の為しばらく街中を歩くことにした。
手に入れた貨幣はずっしりと重く、何でもといわないまでも、多少無駄遣いしても問題は無いだろう。
とはいえ、すでにアンネの求める本は購入済みだし、食料も今のところ自炊の予定はない。他に欲しいものも特にはなかった。……いや、ちょっと待てよ。
「なあ、大農場の魔王には、世話になるわけだし、菓子折りとか用意した方がいいかな?」
「カシオリ……って何かしら?」
……ああ、そうか、これ日本語だ。そもそも菓子折りという文化はこの世界にない可能性もある。
「ああ、その、なんだ。訪問するときに持って行くプレゼントのことだよ。報酬の前払い、もちょっと違うが、お世話になったり、仲良くしたい相手には持って行くものなんだ」
「ん~つまり、献上品ってことよね。まあ、用意しててもいいんじゃないかしら?今回は賢者様経由での依頼だから、恐らくすでに報酬は支払われているか、不要と返答されているだろうけれど、こちらの真剣さや誠意を見せるためにはいい方法だと思うわよ」
「そうか、じゃあ、何を用意するかな……」
……いや、本当に何用意すればいいんだ?
「マーナ」
「は、はい!あの、大農場の、魔王……?への贈り物ですね……あの。そもそも大農場の魔王というのは?」
その言葉に、俺はアンネと顔を見合わせる。
「そりゃ、大農場の主、魔物使いの魔王でしょ?」
「ダンジョンは、誰かに管理されているのですか!」
驚愕の声を発するマーナに、俺たちは再び驚きの声を上げた。
「……なあアンネ、これって、もしかしてやらかしたか?」
「……かもね」
「どういうことですかな?」
ボスの言葉を聞き流し、俺はマーナに向き合って顔を寄せる。
「マーナ、平穏に過ごしたかったら、魔王のことは他言無用にするように」
リス・デュアリスでは一般人でさえも知っていることを、探索者として活動していたはずのマーナが知らない。ならば、それは国自体が秘匿している可能性が高い。
知らないはずのことを知っている存在が見つかった場合、たどる未来は、まあ良い方向には向かわないだろう。
「ボスたちも、この国では魔王のことは口に出さないように。どうやらこの国では魔王のことは一般的に知られていないみたいだ」
とりあえず口止めを行い、詳しいことは後回しにして菓子折りについての話に戻す。魔王、のことは伏せてということで、基本的にはアンネの知識と俺たちの想像力が頼りだ。
「そうですな……。とりあえず食べ物が良いと思われますな。武具だと使用者の好みもありますし、衣服も同様、金品や宝飾品でないなら消費できるものが一番でしょう」
「同意……ただ、食料は毒を盛られる危険がある。相手が警戒心が強かったら、受け取ってもらえない可能性は考慮すべき」
ボスとリナの夫婦がそう言う風に意見を出し、それにアンネや俺も頷いた。確かに菓子折りというくらいだし、食料品が一番なのだろう。ずっと残るものではなく、食料ならいつかは消費されるはずだ。
一方で、リナの意見もその通りと言える。平和だった日本と違い、この世界はなんだかんだ言って危ないところがある。流石に街中で毒を入れた食料を配って回る馬鹿はいないだろうが、魔境の主という身分であり、近隣の都市であるこのリーディアでも魔境攻略に熱を上げる探索者が拠点を作っているという状況を考えれば、毒殺を画策された可能性はないではない。
「……ダーリン、ポーションは?」
「なるほど」
蘇芳がぽつりとつぶやいた言葉に、俺は思わず感嘆の声を上げた。
「確かにポーションは食料と違って独特の風味があるし、品質証明書や鑑定魔法での精査の仕方もいろいろある。何だったら渡すときに一つをリナに使って効果を証明することも可能ね」
「それでも疑わしくても、振りかければ少しは効果を発揮するしな」
そんなわけで、俺たちはポーションを手土産にすることにしたのだった。
なお、売店を見回ったのだが、あまり高品質なものは売っておらず、結局以前竜帝様と戦うときに入手していたものを手土産にすることになったのであった。