表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/261

オークと組合依頼

「おはよう……って、どうしたんだ?」


 昨夜鍛冶工房から帰ってきた後は、少し時間がたちすぎてろくにアンネ達と話すこともなく床に就いたのだが、今日目を覚ましてみれば、宿の共有スペースで本を読みながらくつろいでいるアンネと、その傍らで何かにおびえたように青い顔をしているマーナの姿があった。

 アンネは俺に気付くと、少し気まずそうな顔をしながら、俺にの耳に顔を寄せて来た。


「実は、あの子が私のことを羽虫って言ってね。その時にリナもいたもんだから……その後も色々ね」


「あぁ」


 ボスの妻であるリナだが、なんだかんだで仲間に対する連帯感は一番強い。特にアンネを慕っている様子もあるし、そんな仲間を蔑称で呼ばれたとなれば、どういう結果になったかは想像に難くない。


「とはいえ、自業自得だな」


 多少かわいそうと思わなくもないが、今回は確実に相手が悪い。少なくとも自身の生殺与奪権を握られている状態でそんなうかつなことを口走るのは、正直考えが足りないというしかない。


「と、それはともかく、今日のことだな」


 俺はアンネと今日のことを話しながら、目の前の本の山を見つめていた。

 一応マーナとも少し予定を詰め、しばらく雑談をしていると朝の鍛錬を終えたリナとボス、それに少し遅れて起きた蘇芳が合流し、食事の時間となった。


 全員が集まったので、一旦アンネの持っていた本の山を道具袋(経由でニコットが妖精村の書庫)に入れ、朝食をつまみつつ今日の予定を相談する。と、まぁ、そうは言うが今回は俺とアンネがあらかじめ相談していたし、基本的に西大陸での活動については初日にある程度方針を決めていたため、最終確認的な側面が強い。今日することも、そこまで特別なことではないが、ただほんの少しだけ報告することもある。

 それはラグンの工房でのことだ。場合によってはすぐに大農場へ向かうことも考えられたが、工房で精霊剣の整備をするための準備をしてもらっていることもあり、少しの待ち時間が生じた。

 なら、ここで組合での仕事を受けてみるのも良いだろうということで、今日は組合に行ってよさそうな仕事があれば受けるつもりだ。


 アンネにも相談済みでボスと蘇芳にも工房の帰りがけに伝えていたこともあり、特に何事もなく話は進み、さっそく組合へと向かうことになった。


 二度目の組合。多少遅めの時間に来たのが良かったのか、それとも一度目のことがあったために何かお触れでもあったのか、どちらにしろ俺たちは特に喧嘩を吹っ掛けられることもなく組合の中で仕事を物色していた。

 組合での仕事の選び方は、掲示板に貼られている依頼書を組合の受付に持って行って受理するか、常設依頼なら納品物や討伐証明をそのまま受付に持っていく形になるらしい。

 組織は違うが、そこらへんは変わらないらしい。


 なお、俺と蘇芳、ボス、リナは今回は役立たずだ。文字が読めないのでしょうがない。ただ、何もしないのもあれなので、マーナに翻訳機になってもらって依頼文を読んでもらっていた。

 文字が読めるアンネは別行動でいい依頼を探ってもらっている。


 で、依頼文を読んでもらっていて、ふと気づいたことがあった。


「なんだか、捕獲の依頼が多いな」


 マーナに読み上げてもらったものには生け捕りの依頼が驚くほど多くあったのだ。


「えっと、それは、狩猟祭が近いからだ。……と、思います」


 いったんは断言したものの、じっと見つめるリナの視線にビビったのか尻すぼみで言葉を付けたしたマーナに、俺は更に狩猟祭について聞き込んだ。


 簡単に言えば、獲物を狩って騒ごうぜ!という武勇を重視する獣人達ならではの祭りのようだ。参加は銀狼(塔のギルドにおけるヘルシックル級冒険者)以上の実力者は運営として回るが、それ以外なら一般人でも参加可。一応ちびっこの部もあるらしい。

 で、優秀な成績を残すと、この国の皇帝から直々にお言葉がもらえたり、士官の道が開けたりするらしい。

 狩るのはこの近くにある魔境「獣王の森」や「鳥皇の断崖」から捕獲してきた魔物たちで、皇室が代々保護している(魔境だという噂もある)「皇宮庭園」にそれらの魔物を集めて会場とするのだとか。

 

「で、その為の魔物を集めるってことか。……管理は大丈夫なのか?」


「皇宮庭園はかなり大きいですが、ふたつの魔境と比べれば比較にならないほど小さいですし……その、狩猟祭で毎回8割の魔物が駆り出されるので……」


 つまるところ、そこまで気にする必要はないという事か。皇宮庭園の生態系は二つの魔境の魔物たちの餌となる弱い魔物が多く生まれる環境らしく、捕獲した魔物を放てば、そのまま居つくことが殆どらしい。まぁ、そもそも何年も行われている恒例行事だろうし、問題なくて当然なのだが。


「まぁ、いいか。魔物なら何でもいいのか?」


「いや、流石に無差別にすれば環境が合わず逃げ出してしまったり、場合によっては探索者たちがいらない被害を受けることがあるからある程度種類は決まっている」


 とりあえずマーナも探索者の一人なので、様子を見ながら狩ってみることにしたのだった。

 薄々気付いてると思うけど、この世界の魔境とかダンジョンとかいうものは、すべからくただ魔力の多い場所、あるいは魔力によって物理法則がぶっ壊れてる場所を指すのでたいていの場合魔物の無限沸きという特典はついてません。

 今回の獣王の森、鳥皇の断崖は割と保護されている魔物の生息地。


 魔物をリサイクルしてる賢者の塔や、無性生殖というかどっかから湧いて出てくる精霊を主としている精霊郷は例外中の例外。


 逆に言えば現存してる魔境は冒険者や探索者がいくら間引いても滅ぼしきれないほど強大な魔物か大量の魔物が犇めいてる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ