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オークと鍛冶屋

 厩舎から町はずれに行くこと暫く、そこそこ面積の広い建物が多くなってきた区画で、煤臭い煙と酒臭さが混じったような一角に出くわした。

 この感じは覚えがある。以前俺が見に纏っている防具を作ってくれた妖精村の鍛冶師、ガルディンの工房があったのも、まさにこのような場所だった。


「えーと……ここですね。監査長の影響が強い工房ですので、多少は融通が利くでしょう」


 そう言うと、ガルムは一つの工房の前で俺たちを手招きした。


「さて、それじゃぁ行きますか」


 そう言って気兼ねなく扉を開けると、むわっとした熱気が俺たちに襲い掛かってきた。そして、それと同時に中で作業していた幾人かの獣人が俺たちの方に向き合い、驚いた表情でこちらに近づいてきた。

 ……ハンマーを掲げて。


「ちょっと待て!俺たちは別に襲撃しに来たわけじゃ……」


「マティ!ワ、ガルム!コ、ウラパディアノキャジ」


 俺たちが弁明しきる前に、ガルムが工房全体に伝わるように咆哮した。その言葉にざわざわとハンマーを構えたままではあるが、こちらを見渡す男たちを見つめていると、その背後から頭一つは大きい男が姿を現した。


「テーラ、サギードッタ、チッタッチッタ」


 その男は半裸ではあるがその身はまさに獣のというほどに深い毛で覆われており、腹部と顔の下半分は白、他は殆ど茶色で、目の辺りと体の端の方が黒っぽくなっていた。


 まぁ、ぶっちゃければ巨大な狸そのものの姿をしていた。彼の一言で獣人たちは多少こちらを気にしながらも元居た場所で作業を再開した。


「で、今日はどうしたい?ガルム」


「ええ、この人たちが鍛冶場を案内してほしいと」


「そうかい、それじゃ、俺が話を聞こうか」


 そう言って、狸獣人は二ヤリと俺たちに笑いかけて来た。


「共通語、上手いな」


 思わず俺がそう言うと、狸獣人はきょとんといった顔をした後、大笑いを始めた。


「キョウツウゴ……魔人語のことだぁな。まぁ、俺もウラパの旦那と長いからな、覚えちまったよ。あんたら、ウラパの旦那の客人なんだろ?なら、こっちの方がいいと思ってな」


 そう言うと、狸獣人はパチリと俺に目線を改めて向けて来た。


「で、今日は何しに来たんだ?」


「あ、ああ。とりあえず、今日は様子見といったところだ。リス・デュアリスでは冒険者をしていたからな。こっちでも探索者として活動をしようかと思ってるんだ」


「ふむ、なら、武器の整備がご所望ってことで良いか?」


 俺が頷くと、狸獣人は手を差し出してきた。


「なら、ちゃっちゃと得物を見せな。どんな状態か確認しておきたい」


 そういうので、俺とボス、それに蘇芳の得物を取り出した。俺とボスの精霊剣、それに結局竜帝様の一件から蘇芳持ちとなったドラゴンキラーだ。一応ウォーハンマーもあるが、あれはそれほど頻繁に使っていないし、鈍器だからそこまでの手入れはいらないだろう。


「……いや、ちょっと待て」


 と、取り出したのだが、狸獣人は俺たちの剣を一目見た瞬間頭を抱えて目を逸らした。そして、大きくため息をついたかと思うと、覚悟のこもった目で俺たちを見た。


「アンタら、それを使ってどれくらいだ?」


「そうだな、俺たちが故郷の森を出てすぐくらいだから、5か月くらいか」


 それを言うと、狸獣人は無言で精霊剣2本を抜き、眇める。


「……そうさな、正直な話、手入れって意味なら問題なさそうだ。あんたらの魔力によく馴染んでる……こういう剣は使い手の魔力を少しづつ取り込むことで成長したり自身を修復したりするからな……」


 そう言ってしばらく黙ると、彼は再び口を開いた。


「一日、いや二日俺に時間をくれねぇか?」


「何の時間だ?」


 俺の問いに、彼はにやりと笑った。


「なに、その剣を手入れするにはそれなりの準備がいる。そんな宝剣を目の前にぶら下げられちゃあ、鍛冶師としては何としても一度手に取って、整備でも何でもしたくなるってもんさ」


 その言葉に、俺とボスがほぼ同時に頷いた。


「なら頼む。俺たちにとっても大切な剣なんでな」


「えぇ主殿との絆の剣。それほどに評価してくださるならば預けるに不足はないですな」


「決まりだな、あぁそうだ。言い忘れてたな。俺はラグン、ここのマミ穴工房の親方だ。よろしくな」


 そう言って男三人で笑い合ってから、俺たちはマミ穴工房を後にするのだった。


 まぁ、その前に残ったドラゴンキラーの状態を見てラグンが「うわ、ひっでぇ」と武器の状態を見てドン引きするような場面もあったが……そういえば、ボスには武器の使い方を教えたし、賢者の塔でフィーリエさんに戦闘から武器の整備まで冒険者流の物を一式教えてもらったが、蘇芳にはそこまで詳しく教えていない気がする。

 これが終わったら、蘇芳にも武器の扱いを教えようと決め、俺たちは一度組合によってから宿に戻るのだった。


 

……よく考えれば、これで工房3か所目か。こんだけ工房出てくるファンタジーも珍しい気がしてきた。

 一軒目 妖精村 ガルディン工房

 二軒目 リス・デュアリス王都 塔直営店

 三軒目 大帝国 マミ穴工房


 因みに、冒険者や探索者にとっては命にかかわる仕事道具なので、基本武器の手入れは欠かさない。(一部例外あり)また、よっぽどの業物でないと耐久に難があるので細剣や刀はあんまり人気がない。逆に叩きつけるだけの打製武器は壊れにくく、また壊れても代替物の用意が刃物に比べれば比較的容易なので人気。

 弓や投石機は敵と離れて攻撃できるメリットはあるが、耐久値が人間以上の相手と相対することもあるので、弓の弦や投石機の投石機構の限界上、一定以上の敵に対しては牽制以上の効力がない悲しみがある。何だったらレベルそこそこ上げた冒険者の素手投石の方が効果上がるし。


 槍は安価でリーチも長く、柄と槍先のどちらかがダメになってもそこから取り換えるとかできるため初心者には重宝する。上級者になると柄が攻撃に耐えられなくてぶっ壊れるとかが頻発するので総金属製の槍とかになるが、なら同じ量で剣作った方が武器の厚さ分耐久値上がるよね?って言われる悲しみがある。



 一応言っておくと、グォークとボスはきちんと剣を拭いたりして手入れはしていた。でもそれ以前に剣自体にも意思みたいのがあって自己修復してくれるので、そこまで手入れがいらなかったり。

 逆にドラゴンキラーに関しては蘇芳が手入れについて知らず、放置したのとこれだけ意志を持たないごくごく普通の(強い)剣なので最終的にさび浮きまくったちょっとやばい剣に変貌していた。


 はよ気づけよグォーク。

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