オークと剣士少女
改めて相対する少女を見る。見た目は20代前半といったところか。肩まで伸びた長い茶髪をそのままに流し、取り回しを重視した刀に似た細い剣をこちらに向けている。衣服は赤を基調とした簡素なものだが、その動きや足音から考えるに、服の裏に鎖帷子でも着こんでいるのだろう。すこし重々しい音をさせていた。
そして、その少女の何より特徴的なのはその耳だろう。頭から突き出た三角の耳は立派な犬耳だった。
「なぜ、ここにオークが、わからないが、出て行ってもらう!」
そう言って犬耳少女は俺たちに向かって飛び出し、剣を振り切った。が、その瞬間には俺たちも動いており、ボスのかざした盾に剣が当たるころには、リナの苦無が喉元に、俺の剣が眉間に、ついでに蘇芳の拳が腹部にそれぞれかざされているところだった。
「ひっ……!?」
一瞬遅れて事態を察知した犬耳剣士は喉元に苦無をかざされているため動くこともできず、剣を取り落とした。
ざわりと周囲がざわめき、殺気めいたものがこちらに向けられたような気がしたので、とりあえず剣を遠くに蹴り飛ばしてから俺たちは犬耳剣士を開放し、それと同時にアンネの念話と犬耳少年に説明を頼んで事態の推移を見守ることにした。
何とかならなかった場合は……まぁ、とても不本意だがニコットの転移に頼ることになるだろう。
幸い、こういった喧嘩事は日常茶飯事なのか、犬耳少年が説明に回るとすぐにやれやれといった感じで探索者たちは元居た席へと足を戻し、酒盛りを再開することになった。
「……ティカ、ナシネィーサ、コニィサ」
「ガルム!?ナシアン、コニィ!」
ひと段落したところで、何やら犬耳の二人が話し合っていた。様子を見るにどうやら元からの知り合いだったようだ。
と、その様子に気付いた犬耳少年がこちらに向けて声をかけて来た。
「あぁ、すみません。……その、本当に言いにくいのですが、姉が迷惑を掛けまして」
「ナシ……なんで、ガルムが謝る!」
少年……ガルムの言葉に犬耳剣士が食って掛かった。というかさっきの話からすると姉弟だったのか。
「姉貴、この人たちはうちのボス庇護下の人たちだよ」
「ウラパディアノ!?……それは、失礼を、ごめんなさい」
若干震える声でそう言った少女に、俺は笑って頷いた。
「正直こういうことはこれっきりにして欲しいけど……まぁ、こういう扱いは慣れてるよ。投獄されたこともあるしな。……それより少年、いやガルム君といった方がいいか?この場は何か問題は無いか?」
「そうですね。当人同士の話し合いでの手打ちなので、何度もやらかさなければ組合も何かを言ってくることは無いと思います。法的な意味でも問題は……本当は私闘は制限があるんですが、まぁ多めに見てもらえる範囲でしょう。
とりあえずさっさと登録してしまいましょうか」
そう言って、俺たちは探索者としての登録を行った。幸いなことに組合の受付嬢の中に共通語を話せる嬢がいたため、そこそこスムーズに登録を終えることができた。今後も嬢に話せば(手数料は取られるが)依頼内容の読み上げなどもしてもらえるようだ。
因みに登録に関しては普通に口頭で確認事項を確認された後、登録料を払って金属製のカードをもらうだけだった。能力値が分かるカードは塔のギルドだけの特権らしい。
とりあえず資金的に危機的状況なわけではないし、これから武器屋や生活必需品を売っている店も確認したかったため、常設依頼だけ見て組合を後にすることにした。
……ただ、少し視線が気になる。ガルムの説明で一旦落ち着いた組合内ではあったが、なんというかしこりのような物が残っているように感じるのだ。
俺は、ふと前世の創作を思い出しガルムに一言頼み、そして一つ咆哮を上げた。
「探索者たち!今日はおごりだ!」
SIDEガルム~~~~~~~~~~
全く、姉貴は厄介なことをしてくれましたね。
僕はそう思いながら、姉貴、マーナと僕の後ろについてくるオーク達を見つめます。
オーク達はウラパ監査長のお墨付きの旅行客。それだけで既に十分な権力を持った存在であると知らしめることができますが、そこはそれ、一番の力は武力であることには間違いありません。
ただ、それだって場所ややりようというものがあります。組合の中での乱闘という、いささか猥雑で粗暴な実力の見せ方だと、ただでさえ馬鹿の代名詞とされるオークという種族のこの方々が、妙な悪知恵を持つものに声を掛けられ、あまつさえいいように使われたり、逆に危険だと思われて乱闘騒ぎになったりしたら目も当てられません。
仮に殺傷事件何て起これば、ウラパ監査長だってかばいきれなくなる可能性だってあります。
だからこそ、組合の依頼を華麗にこなすなどで評価を上げた状態から実力を見せて行ってほしかったのですが……。
まぁ、不幸中の幸いは、彼らが予想以上に強かったことでしょう。姉貴を瞬殺する実力者だと分かれば、よほどの馬鹿以外は手を出してこないでしょう。
あとは、危険分子だと思われなければ、ひとまずは問題なし……。
と何事もないようにと思いながら組合を後にしようとすると、グォーク様から提案がありました。……成程。
僕が頷いた直後、グォーク様が咆哮し、すかさず僕が言葉を続けます。
「今日は迷惑料に、エールを一杯、この組合にいる全員にごちそうするそうです!」
グォーク様に渡されたのは賢者硬貨の小銅貨3枚、30ジェル分になるそれはこの組合にいる数十人で分けるとするなら、流石に一回分の酒盛りをするには足りないが、それでも一人一杯程度ならおつりがくるだろう。
その言葉を聞いて、組合にいた皆が沸き立った。まぁ、ここにいるのは酒好きな無法者が多い。それに、強さもあり、気風もいいなら、この国で嫌われることはほぼない。
おそらく、グォーク様はそれを見越していたのだろう。今後のことを考えると、身の安全を保障しているはずの彼らに助けられてしまった、と思いながら、僕は今後の対処のために動くのでした。
因みに、当たり前のことではあるけど賢者の塔の冒険者ランクと、探索者組合の登録者階級は別物です。賢者の塔では探索者組合の等級は勘案されますが、探索者組合は冒険者ギルドに対抗心を持っているのでいくら高位の冒険者でも特別扱いはありません(という建前で、職員個人が初期から実力を見抜き階級をはじめから高い状態で登録できないか上にかけあうことは有る)一応対応としては。
スライム級 ゴブリン級……白兎級
オーク級 オーガ級 ……緑蛇級
シーサーペント級 ……赤猪級
ヘルシックル級 ……黒熊級
マンティコラ級 ……銀狼級
エルダードラゴン級 ……金獅子級
これ以降該当なし
フェンリル級
K級