オークと宿
「さて、それじゃあ作戦会議よ!」
そう言って、丸テーブルを囲んで俺たちは話し合いを始めた。なお、ここまで案内してくれた犬獣人の少年は俺たちを宿に送った段階で別行動となった。一応明日、明後日までは案内してくれるそうだ。
「……正直、我はこのまま大農場へ行ってしまった方が良いと思いますぞ。この国の住人はどうも気に食わぬ」
「同意です。それに、監査長も不審」
ボスとリナがそう言って俺に目を向けてくる。
「あ~、いや、確かにそうなんだけど、ちょっとくらい観光しない?ほら、こっちに来ることなんて滅多にないだろうし」
意外なことに一番憤慨していたアンネは観光賛成派だった。
「姉御殿、それで不利益を被ったらどうするのです」
ボスがそういうと、アンネがうっと言葉を詰まらせた。
「そもそも、我らはこの国では下位の人種として扱われると。そこまでしてこの国を観光する必要はないと思われますが……」
「うぅぅ」
そこまで言うと、アンネがうつむきつつ息を漏らす。
「そういえば、この宿に着くまでに本屋があったな」
「!?」
「それと、研究施設っぽい建物も見えた」
「あ、それは……」
俺の言葉に、アンネが顔を上げ、そして視線をさまよわせる。
「新しい場所に来ても、そういうところに行きたいんだろ?」
「あう……はい」
アンネは恥ずかしそうにうなずいた。
そして、俺はそれを横目に見つつ頷いた。
「正直な話をしよう。俺たちの目的は大農場の魔王から魔物の進化に関する情報を得ることだ。もちろん期限はないが、より多くのオークを救うことを考えれば、早い方がいいのは間違いない」
そういうと、アンネは顔を俯かせて宣告を待つようにうなだれた。
「……だが、それを差っ引いても、この二日間は観光に終始するべきだと思っている」
「!?……グォーク!?」
「主殿、理由をお聞きしても?」
俺は尤もなボスの疑問に、大きく頷いた。
「簡単なことだ。大農場に行くまでの時間、大農場で話を聞く時間。それがどれだけかかるかわからないからだ」
俺はテーブルに丸めてある地図を広げて、現在地と大農場を指さした。
「ここが大農場、そしてここが現在地……。大まかにみておおよそ1日程度で着けそうではあるが、それは直線距離での話だ。本当に一日で着けるかわからないし、着いたところで魔王に会えるかどうかもわからない。もし日数がかかった時に、俺たちだけでいろいろな手配ができるかどうか。どうだ?」
ボスに問いかけると、ボスは顎をさすりつつ頷いた。
「可能かと思いますが……確かに」
そうして頷くとボスは一つ頷いて言葉を続けた。
「つまり、主殿はこの国のことを知るためにも観光をすべきだと、そう言いたいのですな」
「そういうことだ」
俺たちはこの国のことをあまり知らない。一応出発前や船内で調べはしたのだが、そもそもリス・デュアリスと大帝国がそこまで友好的でないため、あまり資料がなかったのだ。
信用しきることはできないとはいえ、監査長の部下というそこそこの地位の現地人にいろいろと教えてもらえる現状を逃す手はない。
「じゃ、じゃあ!」
「ただし、観光する場所は考える必要があるだろうな。最低限必要なのは稼ぐ場所と食べる場所だ。それと、俺たちの精霊剣は今まで刃こぼれが無かったからいいが、リナの苦無や蘇芳の武器の調整を考えれば鍛冶屋なんかも見ておきたい」
「衛兵の詰め所も場所を確認しておくべきですな。援助を求めるにしろ、戦うにしろ、場所を知っていなければどうしようもありませぬ」
「移動馬車があると聞いた。場所と料金を確認しておきたい」
俺、ボス、アンネが次々出す場所に、アンネが諦めたようにうつむいた。そこで俺は頭を掻きつつ言葉を続けた。
「ま、それを全部皆で行く必要はないからな。初日は全員でギルド……こっちでは組合って言うんだったか?そこと鍛冶施設なんかを見て、次の日は個別行動……はさすがにあれだが、2つに分かれて動けばいいんじゃないか?」
それを聞いてアンネの顔がパァッと明るくなる。
「じゃ、じゃあ!」
「まぁ、少しくらいなら寄り道もできるんじゃないか?」
そう言うと、アンネが若干涙ぐみながら抱き付いてきた。
「ありがとう!グォーク!」
「ジャぁ、私はコッチ」
なぜか蘇芳も一緒に抱き付いてきた。いや、なんでだよ。
いや、まぁそういうことなんだろうが。
「とにかく、今日は休んで街に行くぞ」
「おぉ!!」
ということで、俺たちは眠りについたのだった。
なお、あのヤギ顔の監査長が関わっているからか、そこそこいい値段で体格の大きな俺たちも十分に休めるベッドを備えた、そこそこ広い部屋に3人ずつで泊まることになった。
俺たちオーク組の値段と、リナ・アンネ組の値段に1.5倍くらいの値段の違いがあるのは、目をつぶることにしよう。なお、最後の一人であるニコットに関してはご飯いらない、寝床いらないということで無料になった。
アンネは寝床なしらしいが……。まぁ、考えないことにしよう。
ちなみに、まだグォーク達は気付いていませんが(次回気付く予定)国を挟むことならではの問題が噴出したりします。具体的に言うと貨幣と言語の問題。
そりゃ、入管なら異国語も話せるし、両替もできるよねっていう。
因みに前回グォークが渡したのは10G(一万円)くらい。まぁ、入管職員を同伴させるには若干損な気もしますが、監査官さんは賄賂そのものでなく、賄賂を使って物事を解決しようとするクレバーさとそういった異国の分かも飲み込める懐の深さ的なものを図っているので特に問題なかったりする。(大帝国内で庇護下に置いた者が功績を上げれば若干庇護した側の評価も上がるため完全に無意味というわけではないが、逆に迷惑をかけられることもあるため、ギャンブル要素は高い)
宿の人(熊獣人)の評価
グォーク、ボス、蘇芳
「え?オーク?まぁ、ここまで来てるって言うんなら別に問題ないんだろうけど、ちょっと心配だし危険手当含め5割増しくらいかねぇ」
リナ
「うーん?肌の色が違うが何の種族かねぇ?まぁ、人間と同じで良いかねぇ?」
ニコット
「珍しいマスコットだねぇ?え?マスコットじゃない?知性持ってるのこれ?え?本体じゃない?え?ごはんもいらないし寝るのも袋の中でいい?え?え?いや、それ宿屋に泊まる必要ある?面倒だからもう無料でいいよ」
IF 今までのパーティメンバーなら
アリシア、ウリエラ、サスティナ
基本的には人間種として普通に相手される、値段もそのまま。ただし、サスティナだけは人間種ではなく竜人種だと思われている。仮に宿の人がそれを口にするとそんなのと一緒にするなと若干殺気を飛ばすため、ちょっとやばいことになる。
ニコット本体
庭先なら無料、宿に入るならご飯無しで通常料金。胞子を吹き出したら割増し料金、みたいな感じ。
ジュモンジ
そもそも宿に入れない。何だったら船も割とぎちぎちなのであんまり行く気にならない。従者のエルフたちは人間扱いで泊まれる。




