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オークと未進化

 俺がどうして進化しないのか……それについて俺は言葉を詰まらせた。進化できない……わけではないだろう。何故ならボスがただのオークからオークナイトに進化したのは黒き茂みの森での話だ。仮に俺たちが非常に経験値を貯めにくい特殊な存在であったと仮定したとしても……経験値的な意味で進化できないというのは考えにくいほどの激戦を切り抜けている。


 ならば、どうして進化しないのか……そもそも、俺は進化の感覚を知らない。進化を一度もしていないので当然と言えば当然だが……。進化しそう、という感覚すらないのだそれはなぜか。


 アンネは進化についてなんて言っていただろうか……確か「体内の魔素を使って、身体を望む姿に変質させる行為」だったか。


「主殿?応えられぬのなら……」


「いや、いい。考えたこともなかっただけだ」


 俺はアンネから得た進化の知識、そして俺の前世の事、今までのことを考えて、頭の中で整理した。


「そうだな、多分、俺は怖いんだよ。進化するのが」


「怖い?」


 それを聞いてボスが目を丸くした。そりゃ、そんな風に言われたら驚くだろう。だが、思い返してみればそうとしか思えなかった。


「ボス、俺が異世界の記憶を持っているって話は、したことが無かったな」


「ええ、初めて聞きましたな。ただ、賢者様との話などから察してはおりましたが」


 察していたなら話が早いと、俺は話を続けた。


「ああ、お察しの通り、俺は異世界の記憶を持っている。名前は……生憎思い出せないがその世界で俺は人間で……なんというか普通の生活をしていたんだ、戦いもなく、飢えに困ることもなく、……何だったら女と浮いた話もない。向こうの世界ではありふれた……いや、最後はちょっと違うかもしれないが、まぁ、そんな感じの世界の記憶を持っていて、自分はそんな世界のとある人間の、その延長線上に居ると思ってる」


「主殿は聡明ですからな、恐らく、その通りなのでしょうな」


 そう言うボスに、俺はしかし、かぶりを振った。


「だけど、本当は違うんだ。賢者様に言われたよ。俺は確かに異世界のある青年の魂を持っているけれど、この世界でのこの体の持ち主、オークの魂も混ざってるんだ。だから、俺は俺であっても、異世界の……日本にいた頃の俺とは違うんだ」


 そう言い、俺は過去を振り返りながら言葉を重ねる。


「アンネと出会って、進化の話を聞いた時は、少しは心が躍ったよ。俺の世界はファンタジー小説……空想の物語がたくさんあってね。魔法も魔物もいない世界だったけど、そう言う創作物はたくさんあった。魔物が主人公のそう言った作品には、進化によって驚くほどに強くなっていく主人公が何人もいた。だから、俺も強くなれるかも、と思った……だけど」


 そう言って、俺はボスを見た。だって、俺が進化をためらったのは……。


「そんな矢先、ボス、お前が進化した」


「我……ですかな?」


「あぁ、片言でしか話せなかったお前が、進化するだけで流暢に言葉を操り、それどころか思考さえも鋭くなった……それって、進化によって人格や思考すら変わってしまうということじゃないのか?」


 そう、深くは考えなかった。まだ何とかなる、負けても命を奪われるわけじゃない……そんな風に考えて、今まで技術や作戦で乗り越えようとしてきた。それはもちろん、そうするのが最善だと思ったからではある。だが、それでも一度も……進化によってオーク集落の危機を救おうとした俺が殆どと言っていいほど進化について考えなかったのは……。


「俺は怖かったんだよ。進化することによって、俺が俺でなくなってしまう事が。進化によって、もしかしたら俺はただの強いだけで馬鹿なオークになってしまうんじゃないかって……」


 そう言ってうずくまる俺に、ボスはもう一つの質問を口にした。


「では、もしや主殿が蘇芳殿に手を出さぬのも、その恐れに関係が?」


「……そう、だな、その通りだ。俺はオークの本能に身を任せてしまう事で、本当のオークになってしまうのが怖いんだ。だから俺は性欲を抑えて来たし、なるべく理性的に振る舞ってきた」


 そう言うと、ボスはしばし考えるそぶりをした後……。


 ふっ、と笑い出した。その様子を見て、俺は思わず激昂する。


「何がおかしいんだ!?」


「いえ、主殿にも、愚かなところはあるのだな、と思いまして」


 そう言うと、俺が何かを言うより先に、ボスが立ち上がって己を指さして言った。


「主殿、我を見て下され、我は進化して、そして妻を娶り、日々愛を育んでおります。そんな我は、主殿に忠誠を誓ったあの日の我と、全くの別人ですかな?毎日妻を愛でる内に、心まで獣欲に支配されたオークですかな?」


「いや、そんなことは無いが……」


 俺がそう言うと、ボスは大きく頷いた。


「主殿。進化とは、身体が、頭が、精神が、本当に希求してその身を作り変えるもの、進化する者の望まぬ進化など、ほぼあり得ませぬ。少なくとも、その者の最も望む者を変質させる進化などありますまい。獣欲も同じ。如何に女性を愛そうが、それは主殿の御意志によるもの……まぁ、場合によっては抑制が効かず身を亡ぼす物もいると聞きますが、主殿はそうではないと、我は思いますぞ」


 それを聞いて、俺は気が抜けたようにボスの言葉に聞き入った。


「主殿、我は無理に進化しろとは言いませぬ。今の主殿なら、進化せずとも望みを達することができるのかもしれませぬ。ですが、進化を恐れないでください。それは、主の可能性を狭めるものと、我は思います。


 ……それと、蘇芳殿のことも愛していただければと……これは余計なお世話でしたかな?」


 その言葉にハッとして、改めて蘇芳のことを考えた。正直な話、蘇芳のことは嫌いではない。勿論それは恋愛的な好きではないが、それでもいくら言い寄られても遠ざけようと思わない程度には彼女のことを好いているのは確かだ。


「そうだな……正直、まだ気持ちの整理ができたとは言い難いが、それでも少し気が楽になったよ。大農場の魔王に会って、オーク達の存続の目途が立ったら、蘇芳ともしっかり話してみようと思う」


 そう言った俺の言葉に、ボスはにこやかに頷いたのだった。

ということで、グォークが進化しない理由でした。

というか、これ、若干私が前々から思ってたことでもあるんですよね。

魔法を使える→まぁ、憧れっていうのはあるし分かる。

レベルが上がると能力が上がる→若干不気味だけど、生きるためには必須だし強くなること自体は良いことなのでまぁ受け入れられる。

魔物の体になる→ぶっちゃけ受け入れるしかないが、出来ればなりたくない。

魔物の体になり更に進化する→自分なら必要に迫られなければ進化したくない。

 的な。

 普通に考えて、ひどい時には目や口の個数が変わったり、身長が1割増しになったり、身体能力が3割ましになったりするような急激な変化が起こるって普通に考えてホラーだと思うの。


 あと、蘇芳の件について一応補足しておくと、グォークの美意識は実は結構がばがばで、メスについては全員美しく感じられるような精神作用がある。ただ、意識自体は人間の頃の物なので、そこからフィルタが働いて一応常識内に入る程度には美醜が修正されている。ただし意思疎通ができる相手に対してはそのフィルタが緩くなる傾向がある。

 つまるところ(下品な言い方をすれば)現状、ぶち込めない羽根っ子よりも同族の蘇芳の方が脈があったりする。流石に正ヒロイン交代とかは現状望めないけど(この作品は人間用に書いてるので)

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