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オークと吸血鬼5

「……!?」


 突如上空に膨大な閃光と魔力が迸り、それと同時にギンバリエの周囲の影の獣たちが消え、血が先ほどの勢いを失い、ただの液体として力なく地面に落ちて行った。

 ついでにミニニコット達も物言わぬ茸になっていたが、ギンバリエ自身の攻撃手段が全て無効化していたので特に問題ないだろう。

 その急激な変化による戸惑いを、俺たちは逃さなかった。

 

 俺とボスは、先ほどまでの戦いで練っていた魔力を一気に放出する。戦闘開始時に行っていた竜の見た目をした流水とは程遠い、ただの氷の柱と炎だが、後から押し出す氷の柱と炎の勢いが加わり、ギンバリエに届くころには熱湯となって襲い掛かった。


「……!?がぼ、ぼぼで、ぎざばら!?」


 水に飲まれながらも、なお前進しようとするギンバリエ、しかし、その背後に一人の影が立った。


 ギンバリエは……気付かない。流水がよほど答えるのだろう。急に背後に出現した彼女は、ギンバリエの心臓目がけて拳を振り下ろした。


「ガッ!?????!?」


 気付いたようだが、もう遅い。先ほどまでのでたらめな強さと継戦能力はどこへやら、ギンバリエは背後から急襲した蘇芳と共に、力なく地面へと落ちて行った。


 俺たちが油断なく落下地点に向かうと、焦点の定まらない眼を見開いて動かない、心臓を木杭に穿たれたギンバリエと、その隣で油断なくギンバリエを注視する蘇芳の姿があった。


「仕留めたか?」


 俺の言葉に蘇芳が首を振る。


「ダーリン、こいつマダイキテル。デモ動かない」


「まぁ、アンネが言うには聖木で作った杭らしいからな。なんか封印状態的なことになってるのかもしれないな」


 そう言う俺たちの前に、清浄な空気を纏ったアンネが舞い降りて来た。近くには依然戦ったオズワルドやミドエイリンと言った上位アンデッドの姿がある。


「あんたたちは……」


「うむ、若き剣闘士よ。情けないことに敵の術中にはまり、身動きが取れんで折ったが、姫君のおかげで何とか動けるようになった。これから加勢を……ふむ」


「どうやら、もう終わったみたいだね、爺さん」


 何はともあれ、アンネは無事にアンデッドにかかった洗脳魔法を解くことができたようだ。

 そして、それを成した相手も、既に聖木に貫かれ動きを止めている。これはひとまず息を吐いてもいい所だろう。とはいえ、完全に意識を逸らすことは無く、いつ動いてもいいように気を向けながらアンネに話かけた。


「アンネ、助かったよ。というか、すごいな、それ」


「でしょ。竜魔法よ。ぶっつけ本番だったけど上手くいったわ!」


 そう言って、胸を張るアンネに俺も笑みを返し、次の行動を話し合おうとした、次の瞬間。


「ギザマガァ!」


「!?」


「アンネ!」


 停止していたギンバリエが、恐ろしく素早く立ち上がり、アンネに掴みかかった。アンネも素早く反応したが、その甲斐なくその手に握りこまれてしまった。


「このっ!」


 俺は即座に炎剣でギンバリエの腕を斬りつけ同時にボスとリナ、それに蘇芳の集中攻撃がギンバリエに襲い掛かり、体中をズタボロにした。


 アンネは……まだ、息をしている。よかった。あの一瞬で殺されてしまったわけではないようだ。ただ、それでもよほど強い力で握りこまれたのだろう。気を失っており、羽も変な方向に曲がっている。可能ならば今すぐにでも医療の心得のある者に見てもらう必要があるだろう。


 しかし、それよりも……俺は目の前にいる吸血鬼に目を向けた。


「フッ、フフフフフ、ハハハハハハ‼」


 ギンバリエは狂ったように笑い、その顔を俺たちに向けた。


「いやいや、おめでとう、誠に不本意だが、私はここまでのようだ」


 そして、最初に出会った時の傲慢さで俺たちを見下した。


「だが、無意味だ」


 そして、そう断言し、嘲るように俺たちを見つめた。

 俺たちがこれ以上自由にさせないようにとどめを刺すタイミングを合わせようと目くばせしている間も、ギンバリエは気取った態度で俺たちを見つめた。


「いやはや、まさかあれほどの聖魔法を使える者がいるとは。だが、その術者ももはやすぐには動けまい、そうすれば、後は託すことができる……」


 その言葉で、俺たちは思わずあたりを見回した。託す……つまり。


「仲間がいたのか!」


「流石に、私としても古き古都を攻め落とすに一人では荷が重いのでね……ぐふっ」


 そう言うと、ギンバリエは血を吐き、倒れ伏す。


「貴様らの絶望の、顔が見え、ぬのは、業腹だが……地獄の果てで、笑わせて、貰うぞ……」


 そう言った瞬間、天空から毒々しい紫と黄色の縞模様がギンバリエを叩き潰した。


「残念だけど、あなた達の思い通りにはならないよ。済まないね」


 そこには、10以上の吸血鬼の首を持ったヘルと、同じく10以上の吸血鬼の首を咥え、ヘルを乗せた骨蛇の姿があったのだった。


 なお、聖竜覇気によるミニニコットの停止はあくまでもニコットちゃんとのパスが途切れただけで普通に魔物としては存在してる。

 扱いとしては「いくら生みの親でも別の存在なのに肉体を支配できるくらいの精神影響あるの不自然だよね~」みたいなノリ。ミニニコット(ニコットの魔力100%配合)は引き続き戦闘に参加してる。

 何だったらパスが切れちゃうと再接続不可能なので、自己意識がないとはいえ膨大な数のリトルマイコニド(胞子で増える)が誰の統制下に無い状態で爆誕したのが一番厄介まである。



 そしてまたジャイアントキリングをしてしまった蘇芳さん。

 いや、違うんよ。実力的に他のメンバーより一歩劣る上にキャラクター性質上搦め手が苦手だから蛮勇使って突貫しないと差別化が難しいのよ。


 ……というのはまぁ、おいておいて。実のところ蘇芳ちゃんっていい方向にバカなんですよね。アンネと主人公は元々文明側の人間だし、ボスも現在はともかく元々は死なないように立ちまわるだけの知能があったオークですし、リナちゃんも弱者たるゴブリン族の中で足掻いてきた存在。

 ニコットに至っては生まれてこの方保護者が常に存在して死の危険からある程度離されていたので「自分がちょっと傷付いても、何だったら死んでもそれで相手を倒せればよくね?」っていう極限まで突き詰めた脳筋戦術は彼女以外に出来ないんですよね。

 まぁ、流石にそう何度も命は張らないですよ(大嘘)


 ギンバリエが自分の生を諦めたのは、聖木の杭のせい。前回聖属性の説明したけれど、聖木にも同じ性質がある。吸血鬼は死にそうな外傷を邪属性の魔力で混沌化させることで曖昧にして生き延びてる、というか、戦闘にも生命活動にも邪属性の魔力を使っているので、大量の聖属性の魔力が混ざり込むと普通に死ねる。しかも心臓に杭として撃ち込まれると、基幹部位が再生できないので致命傷と言うか既に死んでいるというかという状態になる。

 でも、他の部分は邪属性を駆使して元気だと勘違いさせられるので、やろうと思えば死の直前までそんなそぶり見せないとかできる。

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