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オークと吸血鬼4

SIDE アンネ~~~~~


 吸血鬼との戦闘から離脱し、急上昇した私の目の前には、幾人ものアンデッドの群れがいた。それらは少し見た顔もあれば、全く見慣れない顔もある。


「まぁ、ただ余裕は有りそうね」


 腐ってたり骨が見えたり、或いは透き通っていたりするそれらの人影に共通することは、それら全てが頭を抱えるなりなんなりして苦しんでいるということだ。

 予想はできる。例えばオークナイトに進化する前のボスだって、オークキングの強制力に抵抗したことがあった。あの吸血鬼がいかに強いかは知らないが、廃都のアンデッドたちは数千年を死してなお過ごすある意味での英傑だし、生前は英雄とされた者達である。ならば、たった一人の術者に容易く操られることは有るまい。


 ただ、それはあくまでも今の段階で、という但し書きは付く。大気中の毒が長年かけて全身に回るように、何度も何度も執拗に魔力を送られ、操られればいずれは強固な精神にもひびが入るだろう。

 あるいは、あの吸血鬼がこうして姿を現した段階で、もう大分魔力で汚染され、操られる寸前まで来ていたのかもしれない。


 ならば、私は彼らに少し手を差し伸べればよい。


「さて、成仏するんじゃないわよ!」


 そう言って、私は呪文の詠唱を始める。竜のじーじから貰った竜魔法の魔術書に記された、初級魔法……(と言いながら、その難易度は一般的な上級魔法を超える)の一つ。”聖竜覇気(ドラゴニックオーラ)”の魔法。

 効果は聖属性の範囲魔法。生命を活性化させ、正しい秩序を生み出す魔法だ。

 なお、この魔法の元となった竜である聖法竜クラスソールが住む場所は、花が咲き木が茂り、魔物もアンデッドもいない楽園だったとか。


 そのような魔法を使ってしまえば、或いは強力なアンデッドでもある廃都の住人でも耐えられない……とは考えなかった。

 それは、聖属性魔法の性質によるものだ。

 聖属性魔法は、邪属性の大義属性として存在し、アンデッドに対しての特攻魔法として知られている。だが、その本質は”不自然な状態を自然な状態に戻す”魔法だと竜のじーじから聞かされていた。

 その場合の不自然な状態というのは一体どういう状態なのか、というのは諸説あるのだけれど、一般的には魔法的事象による一時的な変容や、生体における生命の危機につながる不具合であるとされている。


 廃都に住むアンデッドたちは、死して数十世紀を経た者達だ。そんな長期間の停滞は、果たして一時的な変容に当たるのだろうか。

 私はそうは思わない。死と親しむ彼らは、もはやそう言った一種族だ。


 詠唱が進み、私の体から噴き出すように覇気(オーラ)……魔法の効果の及ぶ領域が吹き上がる。


「……っ!?」


 次の瞬間、本能的に身を翻したその場所に影の狼が飛び込んできて、ミニニコットの餌食になる。

 タラリと汗が零れるが、私は体勢を立て直して、何とか詠唱を継続する。

 聖竜覇気(ドラゴニックオーラ)は呪文を続ける毎に出力を増していく呪文だ。効果を発揮するためには、出力がまだ弱すぎる。


 しかし、二度、三度と影の獣たちが襲撃してくると、それも厳しくなってくる。


「アンネ様!」


 影の獣に攻撃されそうになっていた私を、リナが抱えて素早その場を離脱することで安全を確保する。一瞬リナの存在に混乱するも、よく考えれば、私ひとりで別行動も無謀だと考えてグォークがこちらに送ってくれたんだろう。


「主様の命を受け、護衛いたします」


 そう言ってリナも加勢してくれたが、やはり多勢に無勢だ。次々とミニニコットの餌食になっているにもかかわらず、影の獣たちはどこからともなく湧いてくる。


 そして、私を抱えて逃げ回っていたリナも、その物量に判断を誤ってしまった。

 影の猿の群れを避けたその先に、影の竜が大口を開けていたのだ。


「!?アンネ様!」


 咄嗟にリナは私を自分とは反対側に放り投げた。そして、自分は振り向いて影の竜に向き合う。ミニニコットに集られていても、その巨大さでは滅ぶのはまだ先だろう。


 私は思わず叫びそうになるのをぐっとこらえる。ここで叫んでしまっては、術が完成できず、そうすればここまでした意味もなくなる。


 だけど、だけど!決死の覚悟で竜の元に進むリナに対して何もできないことに無力感を感じる私の目の前で、巨大なアギトを開いた竜が笑った気がした。


 その直後、リナが竜のアギトに捕らえられる直前に、巨大な閃光が瞬き、竜が半ばから吹き飛んだ。


 驚いてそちらを見ると、顔の半分の頭蓋骨がむき出しになった老人が、荒い息を吐きながらにやりと笑っていた。


「地上の生者が我ら滅びし者の為にこうも奮闘しておるんじゃ!ここで動かねば我らが廃都の名折れじゃ!」


 そう言うと、更に私の背後から鈍い音が聞こえ、そちらを見ると、手をこちらに向けた格闘家風のゾンビが苦しそうににやりと笑っていた。


「じーさん、無茶すんなよ。下手に操られちゃ大変だ」


「馬鹿にするな!誰があんな青二才に操られるかい!」


 そんな風に彼らが言い合っていると、同じように抵抗を成功させた不死者たちが集まっている。だが、その顔は見な辛そうで、荒い息を吐いているものばかりだった。


 ……たった今、膨大な術式が完成する。強力な竜の息吹が私の周りを循環し、もはや影の獣ならば触れただけで溶け落ちる強力な聖気が放たれていた。

 初めて成した魔法の予想以上の威力に、廃都の住人への影響を考えてしまい、放つのに躊躇した私に、一つの声が聞こえた。


「安心せい!お若いの!我ら廃都の住人、そのような魔法で容易く逝く者はおらんわい!魔導老師オズワルドが保証する!」


 それは、先ほど竜に大穴を開けた老人だった。

 その言葉に後押しされ、私は聖竜覇気を開放する。

 次の瞬間、膨大な聖なるエネルギーが廃都全体を覆い、邪な魔力を全て打ち払ったのだった。



吸血鬼の弱点


・聖なるもの

 正確に言うと、自己と異なる魔力全般。吸血鬼は人族に見た目が似ているが、実際には精霊や幽霊に近い精神生命体の特殊個体と位置付けられている。要は何時でも魔力に変換できる物体で肉体が構成されている、半生物半魔法みたいな存在。

 その分魔法に関する敵性は鬼高く、出力も高い。また、肉体が魔力に変換できるということは逆に魔力を肉体を構成する物質に変換することもできるため、再生力も高い。主食が血液なのも相手から魔力を奪うため……なのだが、彼らを構成する属性は邪属性(混沌属性)のため、真逆の属性である聖属性(法属性)を注入されると反発起して最悪死ぬ。他属性も一応似た性質はあるのだが、取り込む力の方が強すぎて、弱体化させる前に急襲が終わってしまうためよほどの魔力を一度に急襲させなければ意味がない。


・流水

 上記の他属性が取り込まれない例外と言える。魔力を含んだ水は、吸収する前に吸血鬼の体を通り抜けるため、返還のための魔力を使おうとした段階で取り込む魔力がどこかへ行ったり、水に含まれる魔力自体が吸血鬼の魔力組成を崩したりすることで吸血鬼が弱体化する。

 

・日光

 吸血鬼自体にはあまり効果がないが、邪属性は基本的に(混ざりやすくなる)魔法であるため、自分の肉体と外の境界を曖昧にして行う蝙蝠化等の変身や、影を眷属に変化させる影の眷属を使う際、日光によって境界がはっきりしてしまうため、消費魔力が激増する。

 また、前述のとおり吸血鬼自体も一種の精神生命体、いわば魔法と物質の合いの子なので、かなり力の貧弱な吸血鬼だと魔法としての形を維持できず消滅する。


・銀装備

 ミスリルに変化することで分かる通り、銀は魔力を貯めやすい性質があるため、いきなり内部に溜まった魔力が体内で暴れ回ったり、逆に自分の魔力が強制的に奪われたりと、魔力関係で対吸血鬼に対して優れた点がある。




聖属性について

 作中でも言ってるけど、聖属性は神聖というふわっとしたものではなく、秩序を示す属性。

 

 つまり

 肉体が健やかに生活できるような秩序ある状態を基準として構成するために、聖属性魔法は状態異常や怪我、病気の治癒が可能になる。

 また、洗脳や乗り移りなどの本来の自分でない存在を操ろうとする魔法は秩序的でないため解除される。

 キメラやらなんやらも相性が悪いし、今回の吸血鬼の血の操作や影の眷属たちもただの血や影と言った自然な状態に戻されちゃう。


 一応アンデッドも死者が動くという不自然な状態の為、これも対象。


 ただし、これに魔王たちが関わると厄介で、聖属性があまり効かないアンデッドとか、そう言うのもごく稀に出て来る。



魔導老師 オズワルド ランク マンティコラ級

 土属性魔導師の中でも最上位と言われる大魔導師。土属性の魔法を使いこなし。何だったら地割れとか地表剥がして相手にぶつけるとか、地面を流砂化させて相手を押し流すとかそんな感じの技を連続して放って来る。

 龍災当時は有象無象の中でも指揮官としての腕を大きく評価された存在だった。

 なお、彼の称号である魔導老師はゲーム的に言えば魔導師系列の上位職、大魔導師と軍師系の上位職元帥をマスターするとなれるみたいなイメージ。龍災後も生き残り、生者として廃都の整備に関わった人物の一人。


吟遊闘士 ミドエイリン ランク マンティコラ級

 動きが常識的な○イヤ人的な人。両手から気と呼ばれる力を使って衝撃波や可視化できる球をぶっ放せたりする。でも金色に変身したりはしない。あくまでも格闘家。気合を入れればちょっと浮くのは出来るらしい

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