表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/261

オークと吸血鬼3


「上位の吸血鬼は、自分の血液を自在に操れるとは聞くけれど……」


 アンネの呟きを聞きながら、俺はアンネを抱えて横に移動した。直後、影が地面から生え、すぐに元に戻る。


「これだけ攻撃が続くんだ、相当高位の吸血鬼なんじゃないか?」


 そう言っている間にもギンバリエとボス、リナの猛攻は続いていた。何度も切り結ぶ間に、氷はあちこちに飛び散り、それと同時にギンバリエの血液もちらほらと水たまりを作っていた。

 勿論、影からの槍攻撃も断続的に続いている。


 一方、こちらは体勢を立て直しているところだ。

 まずは攻撃を受けて負傷した俺だが、火傷となった怪我の部位はゆっくりと再生を続け、再び同じ場所を攻撃されたりしない限りはこの戦闘で問題になることは無い程度に回復していた。

 そして、リナとボスは何度も打ち合いを続けていることで分かる通り、健在だ。流石に血液や影の槍全てをいなすことはできていないが、重鎧を着こんだボスと俺と比べて倍近い俊敏さを誇るリナはギンバリエの攻撃をかすり傷程度に抑えていた。

 ただ、戦いの継続によって、ただでさえ消耗していた魔力は回復しきっていないようで、現在は氷の乱発を控えている状況だ。リナに関しても、アサシンエッジなどの使用を控えているようだ。


 アンネに関しては、魔力についても十分あるし、けがもしていない。ただ、吸血鬼もオークと同じく状態異常がほぼ無効らしい。

 正確に言うと全くの無効というわけでもないらしいのだが、アンネが問題なく打てる魔法で状態異常にさせるのはなかなか厳しいという程度には高い耐性を持っているらしい。


 状況は悪くはない。あれだけ出血しているのだ。恐らく体力も相当に消耗してるに違いない。

 だが、それでも俺たちは押しきれない。ギンバリエの強さはそれ以上だということだ。


「……?なんだ」


 ふと、周囲に視線を感じあたりを見回した俺はその瞬間ゾッとして思わず武器を振り回した。

 闘技場の観覧席に当たる場所に、アンデッドの集団がいたのだ。幸いに闘技場上位勢の姿はないが、その数は10や20ではきかない。

 しかも、剣闘士でなくても廃都で過ごす中で顔を見た事のある者も含まれていた。


「アンネ、アンデッドに効く状態異常はあるか?」


「……この数はヤバいわね!いいわ、私が相手する。あんたはあっちを止めなさい」


 そう言って、アンネは空高く飛翔する。そして、最後に振り返り、こう切り出した。


「倒さない方が、良いのよね?」


「あぁ」


「了解!」


 そう言うと、今度こそアンネは闘技場の観覧席に向かって飛び出していった。


 戦闘力としてはあまり期待できないアンネだが、あれだけ自信満々に飛んでいったのだ。何とかなると信じるしかない。


 それよりも……。


「リナ!アンネの援護に回ってくれ、代わりに俺が入る!」


「!御意!」


 万一にでもアンネがやられないように援軍を出し、代わりに俺が入る。勿論アンネへの援軍という面もあるが、そろそろ頃合いというのもあった。傷はかなり治ってきているし、ボスの魔力のことも考えると、そろそろ動く必要もあった。


「ボス!行けるか!」


 その言葉で、ボスはしっかりと頷き、俺にちらりと視線を向けた。


「可能ですぞ!ですが……」


 次の瞬間、言葉を切って退避したボスの居た場所に、大量の影の槍と血の刃が殺到する。


「これを何とかせねば!」


 ボスのその言葉とほぼ同時に、俺の足元にも影の槍が出現する。俺は、それに剣を合わせ、出現する端から燃やしていく。


 そして、その流れで地面に落ちた氷を凪ぐようにギンバリエに打ち込んだ。


「!?」


 氷はその高熱で溶け落ち、流水……というにはいささか量が心もとないが、水弾となってギンバリエに到達する。その直撃を受けたギンバリエは、驚愕の表情を浮かべながら、全ての攻撃を一旦停止させ、身もだえた。


「ボス、どうやら流水、というよりは水そのものが苦手な様子だぞ」


「ですな」


 そう言いながら見ていると、ギンバリエが再び血液を操りながら突進してくる。

 しかし、先ほどとは違い、無差別というよりは俺に集中して突撃をしてきているようだ。


「狂ったふりは終わりか?吸血鬼」


「ガァァ!?」


 何度も剣を叩き付け、血液を俺に向けるギンバリエに、俺は両手で武器を振るった。

 一つは炎の剣。血を焼き、剣を受け止める。そして、もう一つはウォーハンマー。当然こんな使い方をしても、威力が減るばかりであまりよいことは無い……が。


「受け止めたな」


「!?」


 ウォーハンマーを大量の血液を使って受け止めたギンバリエにそのことを指摘すると、攻撃が止み大きく距離を取られた。


「……いつカラ?」


「生憎、その手の狂言は経験済みなもんでな。まぁ、そもそも、あんたの攻撃は狂人にしては指向性が強すぎる」


 その俺の言葉と共に、ボスが俺の横に並んだ。


「さて、そろそろ決着と行こうか!」


 そう言って、俺たちはギンバリエに向かって剣を振りかぶった。

吸血鬼の攻撃

剣術 吸血鬼は社会性を持っているため、武術を治めている者も多い。また、儀礼を重んじる傾向もあるため、大剣や斧などの重量武器よりは、スマートに見える細剣を好む者が多い。


魔法 吸血鬼は適正として邪属性の適性が高い。邪属性とは言うものの、実際には魔力自体が邪悪とかいうわけではなく、邪神であるカオスの属性であるからという側面が強い。

 性質としては、自然の6属性の相手によく聞く反面、防御性能はあんまりない。


影の眷属 自らの影を邪属性の魔力により眷属化する魔法。使役できる眷属は、遺伝子に残る過去の残滓から情報を抜き取って混ぜている。影と現実の境界を曖昧にすることで生み出されているため、日光が強烈に照っていたりすると容易く形を保てなくなる。

また、これは利点であり欠点でもあるが、生み出された影の眷属は生物ではないため、自動追尾機能のある魔法と同じくらいの知能しかなく、精神抵抗が0だったりする。精神性が命令遂行しか考えないため寝返りの心配が無かったり大雑把な指令で自動行動してくれる利点がある一方、今回のニコットみたいに本来は生命的な不快感で無意識に抵抗するようなドレイン系攻撃とか落とし穴とかの単純な罠にも簡単に嵌る。


操血術 自らの血液を邪属性の魔力によりまだ動かせる体の一部と誤認させる魔法。上位の使い手なら相手の流血も操れる。そう言う意味だとグォークが即座に止血したのはファインプレーだったり。



 なお、ギンバリエの狂人ムーヴは、半分が血半分狂言。

 吸血鬼自体がバトルジャンキー種族なので、良くも悪くも戦闘に入ると乱暴になったり狂ったようになったりはする。そのため、ギンバリエが狂言抜きでも割かし哄笑しながら戦うような狂人であることは確かだし、ニコットに翻弄されたうえで、弱点の水流に晒されてブチ切れてたのは確か。

 ただし、よくも悪くもバトルジャンキー気質なため、ブチ切れた後であっても最低限の冷静さは常に保っている。


 なので、破れかぶれに見せかけて割と冷静に戦況を見てる。具体的に言うと、グォーク達をくぎ付けにしつつ、影の眷属や魔法を駆使して、廃都のアンデッドの精神支配やニコットの本体を探し回っている。あとグォーク達の隙も伺っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ