オークと吸血鬼
SIDE~~~ニコット
「それそれそれ~!」
影でできた動物たちと、ミニニコットとの戦いは、まだまだ余裕をもって進められそうです。あのおじさん本体に取りついたミニニコット達はすぐにやられてしまうけど、影の動物たちの方には効果覿面。一気に胞子からミニニコットに成長させることで、倒される数よりも生み出されるミニニコットの方が多くなっています。
「これなら、お兄ちゃんたちの役に……っ!」
後方のミニニコットから来た情報から、私は慌てて体をよじります。
「あうっ」
私の背後には、剣を振り切ったおじさんの姿がありました。
「全く、手間をかけさせて……どうやら君自身はそれほど強くないようだ。光栄に思うがいい。我が影の従僕たちではなく、私自身の手でこの世から葬ってやろう」
そう言うが早いか、おじさんは私を真っ二つにしました。
「他愛無い、全く……何!?何故止まらない!」
「ジャジャーン!ふっかーつ!!」
私はミニニコットの内の一つの体に意識を映して、指揮を続行します。まだまだ戦いは終わりません!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……これ、すごいな」
俺たちが駆けつけた時の光景は、恐ろしいほどの数の小さなマイコニドが黒い動物たちに集っている光景だった。
黒い動物の方も抵抗しているが、小さなマイコニドが20体ほど取りついて10~20秒経つと動けずに苗床になっているような雰囲気だった。
「ニコットの話から推測すると、あれはあの動物たちが影でできた半分魔法のような存在だかららしいわ。私や、ゴブリンたちでもこんなに簡単に倒したり増殖させるのは無理みたいよ」
具体的には無意識の抵抗が何だかという話をし始めようとしたが、流石にタイミングが悪い。その話は後回しにしてもらうにして、俺たちは剣を構えた。
「さて、行くぞ」
決意をもって言った言葉に今回ばかりは不安な声色でボスが答えた。
「あの、主殿と共に戦えるのはうれしいのですが……正直、これほどの大役、我には荷が重いのですが」
そう言うボスに、俺は笑って答える。
「ボス、大丈夫だ。万一失敗しても、この作戦は本命じゃない。それに、ほぼぶっつけ本番なんだ、逆に考えろ成功させれば、それはすごいことじゃないか?」
それを聞いて、ボスは頭を振ってニカリと笑った。
「そう、ですな!やる前から諦めるなど問題外でござった!主殿!行きましょう」
そして、俺とボスは精霊剣を持ち力を合わせる。
先ほどの戦いで、ボスの放った氷は溶かせば水になることが分かっている。だから、俺はボスの形成する氷に炎の精霊剣から放たれる魔力を混ぜ合わせる。
賢者と共に修行した魔力の扱いにより、俺の精霊剣からは炎が出ず、熱を伝える魔力だけがボスの形成した氷に到達して氷をどろどろに溶かしていく。
しかし、その水は溶けたままにならず、その場にとどまり続けた。これはボスの成果だ。ボスは、精霊剣を通してとはいえ、前々から氷を自在に使い、盾にしたり柱にしたりと割と無茶苦茶していた。そのため、魔力で生み出した物を操ることは俺よりも優れていると思って役割決めだったが、その考えは間違っていなかったようだ。
もはや黒き茂みの森で行った毒沼作戦の時にアンネが浮かべたのと同程度の水量になっても、水はその場にとどまり続けていた。
「あ、主殿、これは、くっ!」
「飛ばすことはできるか?」
「……クッ」
苦しい顔で呻くボスだが、その手に二つの手が重ねられる。
「ボス、私もサポートするわよ!」
「あなた、私もいる」
アンネとリナの魔力が注がれ、水がその形を変え始める。それと同時に、リナとボスの手が光りはじめた。
そして、生成されたのは水の竜だった。ニコットの目くばせによりできたミニニコットの隙間に、水竜は突っ込んでいく。水竜は螺旋を描きながら、ギンバリエを巻き込んでとぐろを巻いた。
「ガボッ!ギ、ギザマラ!」
大量のミニニコットに目隠し効果もあったのか、見事に水竜はギンバリエに命中。その一撃で濡れ鼠な紳士が出現した。しかし、とぐろを巻いた竜も、そう長くは持たなかった。
ボスの持つ精霊剣がカツンと地面に落ちた音がして、それと同時に竜が姿を消した。
「大丈夫か?ボス」
「問題ありませぬ。ただ、次にあれを出すのは……少し時間が必要かと」
まぁ、大技であるし、そもそもほぼ総出で放った水竜を戦闘中に成立させるのはほぼ不可能だろう。成立させるにはかなり無理をしなければいけないはずだ。
だからこそ、(それと、失敗しても傷が少ないというのもあり)一番最初に放ったわけだし。
いきり立って自ら突っ込んでくるのを見て、俺たちはそれぞれの武器を構えた。
「さて、これからが本番だ!」
俺の言葉を皮切りに、俺たちとギンバリエの戦いは再開されたのだった。
一応、毒沼作戦の時と比べれば自己の司る魔法でできた水と不純物まみれのただの水なので操り易さが大分違います。
基本的にボスやグォークの持つ精霊剣は周囲(もっと言うと周囲の名も無き精霊)から使用者の微弱な魔素によって伝えられる感情や意志をかなえる形で力を表出させる。
この時に剣の使用者と表出した水や火が紐付けされてるので、操り易さ的には操りやすい。
ただし、現時点のボスと当時のアンネとを比べても数十倍の差でアンネの方が魔力が豊富なため作戦としては割とギリギリだったりする。
少し前に話数200話を突破しました。作品としては、折り返しを越えてちょっとすぎたくらいかな?と思っていますが……。正直他章よりも短くなると目論んでいた廃都編が普通に以前の章と同等くらいのボリュームになりつつあるので、ちょっと分からなくなってきてます。
また、連載開始から2年も突破しました!ここまで続けることができたのも、皆さんのおかげです!本当にありがとうございます。
書き溜めが中々たまらなくてちょっと苦心してる今日この頃ですが、これからも楽しんでいただけるよう頑張って行こうと思います。