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紳士とニコット

SIDE ニコット

「何のつもりだガキ」


「お兄ちゃんを虐める人は許さないんだよ!」


 偉そうに私を見るおじさんに、私は胞子を撒きながら答えます。今は戦いの途中。普段は散らしっぱなしの胞子を、触れた物の力を取り込んで小さな分身をたくさん生み出した。


「いっけー!ミニニコット!」


 私は胞子から生まれた分身、ミニニコットに黒い動物たちを攻撃させる。私自身は戦いの経験は少ないけれど、お兄ちゃんたちの戦いをずっと見て来た!


「お姉ちゃんが言ってたよ!戦いは物量だって!」


 幸い、ミニニコットを増やす力、魔力は黒い影からたくさん手に入る。ミニニコット達も攻撃、移動くらいならこちらから言わなくても勝手にしてくれる。

 だから、とにかく私は数を増やす!


「くっ!?小癪な!」


 こうして、私とおじさんの陣取り合戦のような戦いが始まったのだった。


~~~~~~~~~~~~~

「アンネ、研究資料取りに塔の方に行ってたって宰相から聞いてたけど帰って来たのか……それと、ニコットは何で?」


「あーその辺は色々あってね、取りあえずヤバい奴をどうにかしてからにしましょ」


 アンネに問いかけ、帰ってきた答えに俺は慌てて体を浮かす。


「そうだ!あいつを放置したら駄目じゃないか!早く戻らないと!」


「大丈夫よ、ひとまずね」


 その言葉がよく飲みこめない俺を見て、アンネとニコットが言葉をつづけた。


「今、あの頭のおかしいのはニコットが相手してるのよ」


「そうなのです!」


 胸を張るニコットの姿に暫し茫然としたものの、意味を理解すると同時に頭に血が上り思わずアンネに掴みかかった。アンネはアンネで避けたので、そのまま言葉を続ける。


「それは、いくらなんでも危険すぎるだろ!」


「人さらいにぶつけた人に言われたくはないけれど……取りあえず今のところ物量で押しとどめて拮抗してるそうよ」


 痛いところを突かれてニコットの方を見ると、ブイッとピースサインを見せられた。


「もし手に負えなくなったらお兄ちゃんたちに言うね」


 と言いながらも、割と余裕の表情だったので、ひとまず落ち着いて周囲を改めて見まわした。


 見れば、初代リスデュアリスである骸骨が指示を出し、それに従ってアンデッドたちが走り回っていた。


「洗脳魔法?って言ってたわね。グォークが注意喚起したんでしょ?それの対策よ」


「あぁ、なるほど」


 どうやら廃都全体で避難を開始しているようだ。慌ただしいが、まぁ、仕方がない。


「さて、それじゃあ、具体的なことを話すわよ」


 コホンとアンネが咳ばらいを一つして、俺たちを見回した。


「私が見た限り、敵の種族は吸血鬼。物理的にも魔法的にも精強で、戦いのエリートね。しかもそこら辺の木っ端吸血鬼じゃなくて、上位の個体だと思われるわ」


 吸血鬼と言えば、前世でも強大な再生能力に高い戦闘能力を持つ種族として有名だった化け物だ。ただ、一方で弱点も多いことで有名だったはず。


「何か、弱点のような物はないのか?」


「弱点は色々とあるらしいけど、ここじゃああんまり意味がないのよね」


 アンネが言うには吸血鬼の弱点は3つ、魔力を大量に含んだ水、日光、それと塔のギルドのマークらしい。

 魔力を大量に含んだ水は吸血鬼自体が半実体化した精霊に近い生命であるため、極端に性質の違う魔力を受けると肉体が薄まり弱体化するから。

 日光は夜陰に紛れるために夜型に特化した結果日光の中では目がくらみ、また極端に日焼けしやすい体質になってしまっているから。

 そして、ギルドのマークはそれとは全く別問題で、単純に賢い種族なので勝ち目のない戦いに身を投じない者が多いため、ギルドの保護のある場所に寄り付かないということらしい。


「吸血鬼はアンデッドの持つ魔力とも親和性が高くてね。ここの魔術師に頼んで魔力水を作ってもらっても単純にあいつがパワーアップする可能性が高いわ。日光は地下だから当てられないし、ここはギルドの管轄外……ってわけで弱点を突こうにも中々難しいのよね」


 俺はそれを聞き終わって少し考える。前世の記憶における吸血鬼は他にも弱点があったはずだ。この世界でもそうとは限らないが、大鯰の件もある。可能性は高い。


「アンネ、他にも弱点はないか?噂でもいい」


「えっ……ちょっと待って、え~とね……」


「主殿」


 俺がアンネに聞くと、ボスがおもむろに声をかけて来た。


「我らがニコット殿によって退避した時のことなのですが、ギンバリエと名乗ったあの男、主殿に剣を向けていたのに、慌ててその場から逃げ出したように見えましたぞ」


 逃げ出した?あそこに何か逃げるようなものがあったのか?もしも前世と同じ弱点なら、あそこにあったのは、俺と、ボスと、蘇芳と、二つの精霊剣……それに、氷?


「流水か!」


 不確定だが、あいつの弱点に流水があると仮定して、俺たちはもう少し話し合った後、闘技場へと向かったのだった。

ニコットの性能は馬鹿高いけど、実のところ時間稼ぎ以上の意味は無かったりする。

 以前ニコットの進化あたりのあとがきで書いたけど、この子、攻撃能力皆無なので。特に浮遊型だと最強武器"地面"も使えないので。

 オークに関しては強制転移しようにも設置型しか効かないため、グォークとかボスくらいの練度があれば対応可能……ということにしよう。

 特にニコットはミニニコットを起点に魔法使ってるので寄り付かないようにすればいいという。なお転移は出来るけどオークには魔力の吸収も効かないのでやっぱり相性はあんまりよくない。ただ、これはオークだけでなく上位の魔族や冒険者は抵抗力が高いのでグォーク達だけの問題ではなかったりする。


 なので、実はギンバリエがもし勝とうとすれば"影の眷属”を全て引っ込めて肉弾戦を挑むのが一番有効だったりする。もしくは俊敏性と知能特化の眷属を作って寄り付かれないようにするか。

 ただ、それをしても半分以上を自己の魔力で作ったミニニコットが一匹でも残ってれば数秒後に戦線復帰するので初期に増産させちゃったのが痛恨のミスだったり。


 なお、自分の魔力を使ったミニニコットなら戦闘後魔力を回収して普通の胞子と魔力に還元することが可能だが、他者から魔力を吸収するタイプのミニニコットは元々彼女の魔力でないため魔力を回収できず、放置してると大量のリトルマイコニドが残るというある意味はた迷惑な仕様だったりする。

 つまり、この戦闘でミニニコットを戦中に殲滅できなければ廃都中に茸が溢れることになる。……カフス院長の心配がドンピシャで当たってて草。

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