オークと乱入者
俺たちは、今日も今日とて闘技場での戦いを続けていた。
ガイアスとの戦いを経て何度か戦ったが、その後の戦績は白星と黒星が五分五分程度だ。剣闘王たるガイアスを打ち倒した結果、今まで休業状態で殆ど闘技場で観戦ばかりしていたより上位の剣闘士が出張って来たのが原因だ。
逆にこちらにはボスの氷剣を実戦で成功させたが、流石に付け焼刃のそれだけでは勝ち残ることはできなかった。
というか何だよ。魔導老師オズワルドって、吟遊闘士ミドエイリンって。それぞれ大火力の土魔法と自分の肉体から衝撃波を伴う追加攻撃を放つ武闘家だった。うん、精一杯抵抗したけど大敗したよ。オズワルドに関してはボスが右腕をミドエイリンに関しては左足を俺が切り飛ばすことに成功したものの、それ以上の奇跡は起きず順当に敗北した。
とはいえ、健闘したということでそこまで評価は下がらなかった……というのは俺たちにあてがわれた部屋に酒を飲みに来たガイアスの話だ。
そもそも、ガイアス自身も相性によっては善戦すらできずに敗北するような相手であるため初試合に負けるのは様式美のような物なのだとか。
これはあくまでも目安なのだが、彼ら古参の剣闘士たちの内の誰かを倒せるようになった辺りで住民権が得られるらしい。
「あと、一週間と少しか……西大陸の便までに間に合うか?」
「何、時間が無いなら一旦引退して時間ができた時にまた来ればいいのさ。俺なんか、生前にここにきて、死にかけで戻って来て剣闘士の仲間入りだ!」
そう言って大笑いするガイアスに俺はうんざりしながら言葉を返す。
「あんたが剣闘士になった話は、昨夜からずっと聞いてるぞ」
「んあ?そうだったか?」
……だめだこいつ。というかアンデッドでも酒に酔うのか。
「主殿……そろそろ」
そう言うボスの視線を辿れば、時計は闘技場の営業開始時間を指していた。尤も、アンデッドだらけのこの都において営業開始時間というのはあくまでも施設利用による清掃をするための大休憩を挟み、再び営業を再開するという意味合いしか持たないのだが。
まぁ、取りあえず酔いつぶれ……てはないが、呂律が回っていないガイアスを放置し、闘技場へと向かった。
今回の相手は……偉大なる双生「ギニア」と「フィニア」というアンデッドの双子だ。龍災の時に竜と戦った有象無象の英雄の二人であり、廃都でも有数の剣闘士である。
なお、有象無象と言いながらも当時から実力は廃都での十本の指に入る英雄だったそうだ。
……龍災のヤバさが伝わるエピソードだが、まぁそれはともかく。
「今回の相手は、普通の人型で連携を主眼としている相手だ。種族は人間種のアンデッド。本来の武装とは違うらしいが、身体能力的にも、技量的にも単体でも俺たちよりも上だろう。一応俺たちの優位性と言えば数くらいだろう。アンデッドにも状態異常はほとんど効かないしな」
それを聞いて、ボスと蘇芳は微妙な顔をする。
「それは……勝てるのですかな?我としては強者との戦いは望むものではございますが、流石に勝ち目すらないとなれば戦い以前の問題というか……我、勝てぬ戦はせぬ性分ですので」
「私も、ダーリンの為二戦う。ダケド、ダーリンが傷付クのは、嫌」
そんな話を聞きつつ、俺は言葉を続ける。
「まぁ、なるようにしかならないだろう。今朝ガイアスも言っていたが、ダメなら一時中断すればいいし、何度か戦えば攻略法も分かるかもしれないしな」
正直な話、俺たちオークにとって武器や道具が無ければ搦め手を使いにくいのだ。そう言う意味ではルールに則って武器が規定の物しか準備できない剣闘のルールは俺たちにとって不利なものではある。
とはいえ、初めから負けるつもりで戦うつもりはない。話に聞いた双生の行動パターンや必殺技等を踏まえて戦いの方向性を決めていく。
「さて、それじゃぁ、いくか!」
「「おぉ!」」
そして、俺たちは戦いに赴くのだった。
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「ほらほら!」
「どうしたの?」
ギニアとフィニアが俺に連続で双剣を振りかぶる。その一撃をいなすも浅い傷がいくつも走る。そして、その直後にボスと蘇芳が突っ込んできた。
しかし、それを察したようにギニアとフィニアは飛び上がり避ける。
「む!」
「ダーリン!」
俺も飛び上がり、一度二人を飛び越えてからギニアとフィニアを見つめる。
少し遅れてボスと蘇芳も二人に相対する。
「うーんパワーは中々だけど、まだまだだね」
「僕たちに勝てるかな~?」
とても余裕のある雰囲気でそう言う二人に、俺たちは警戒を強くする。そして……。
「うわっ」
「きゃぁ!」
見当違いの方向から魔法が襲い掛かって来た。
「な、なんだ!?」
「主殿、あちらを!」
そこには、漆黒のマントを羽織り、モノクルをかけた細身の男が浮いていた。
「我が名は廃銀塔のギンバリエ、古ぼけた古の都の民よ我が軍門に降るがよい」
「邪魔するなよ!」
「馬鹿にするな!」
突然の乱入者にギニアとフィニアが突撃した。
「ふむ、蛮勇だな」
そう言うと、ギンバリエと名乗った男は手を二人に向けた。
「うぉっ!?」
「何々!?」
二人の動きが止まり、茫然と立ち止まる。
「……ふむ、流石に高位のアンデッドですね、我が支配下に入らないとは……」
その言葉に俺は黒き茂みの森のオークキングを思い浮かべた。
「逃げろ!こいつは洗脳魔法を使うぞ!」
正しくそうかは分からない。だが、似たようなものがあるのは確かだろう。
「俺たちは洗脳系の魔法は効かない、前に出るぞ!」
「おう!」
そして、俺たちはギンバリエに立ち向かうのだった。
グォーク達の時代の有象無象 ゴブリン級以下
魔王大戦時代の有象無象 オーガ級以下 魔王軍主力と戦うという意味ならヘルシックル級以下
龍災時の有象無象 世界的にはオーク級以下 龍災への対応した者達の中でという意味ならマンティコラ級以下
ギンバリエさんですが、一応彼の所属に関しては一年くらい前に関連情報が出てたりする。具体的にはトップについて名前が分かってる。読み返さずに分かったら逆に驚くけど。