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妖精と天狗

「……こんなもんかしら」


 結局、村に到着した昨夜はヘル様の対応に追われた父さまがてんやわんやした挙句、村全体でも大騒ぎになった結果、あまり動き回ることもなく部屋に引きこもって荷物を整理することになった。

 まぁ、そうでなくても私の実験結果は玉石混交。バロメッツの一週間観察日記(最後には妖精村の人に収穫されて終わった)という何に使えるのかちょっと頭を捻ってしまう研究結果から、スライムの進化に関する研究、竜帝様の鱗の耐久実験まで様々な研究が一つの棚を占領しているため、どれを持っていくかの選定の為に結局部屋に引きこもっていたような気もする。


 ただ、一日過ぎたことで、大体の整理ができ持っていくものも大凡決めることができた。


「さて、それじゃあ、リナの所に行こうかしら」


 なお、私の部屋はやや大きめの妖精用の自室だ。父さんみたいに異種族と頻繁に交渉する場合は書籍や書類も、人間サイズの物を部下や眷属の手を借りて作成したり読み込んだりすることが多いが、個人研究である私の資料はばっちり妖精サイズである。

 というか、手伝いも無しに自分とほぼ同じ大きさの紙に手のひらよりやや小さいくらいの文字を書いていくとか無為にもほどがある。資料の読み込みに関しても、聖都の図書館のでグォークが借りて来たもののようにそれしか大きさが無い場合はともかく妖精用の大きさの物があるのならそれを使うのが自明だ。


 と、言うわけで人間サイズの客間に寝泊まりしているリナに声をかけて、荷物を持ってもらうことにした。重量的には魔力の強化で何とかなる重さだと言っても、バランス的なものや質量による前方の視界不良のことを考えれば持ってもらった方が良いに決まっている。


「ん、アンネ、おはよう。どうしたのだ?」


 荷物を纏めていると、父さまがそんな風に声をかけて来た。


「どうしたって……。必要な資料も纏まったから、そろそろ出発しようと思ってるんだけど」


「なっ!?」


 愕然とした顔の父さまに、私は言葉をつづけた。


「廃都の方で、ちょっと住民権獲得の為に動いてるのよ。期限もそんなにあるわけじゃないし、急いで戻りたいの」


 それを聞いて、父さまが崩れ落ちるようにうなだれる。……いや、ショック受けすぎでしょ父さま。


「おや、もう出立かい?」


「オォ!アンネ殿、出立カ?」


 向こうの方からヘル様とイズナ様が歩いてきた。どうやら何かしら話していたようだ。


「ヘル様、いま迎えに行こうと思っていたんです」


 私がそう言うと、ヘル様がそれに応答……するより先にイズナ様が口を開いた。


「アンネ殿。暫シ時間ヲ頂けマイか?」


「……ええと」


 私は少し考えて、頭を下げた。


「遠路はるばる来られたイズナ様たっての頼みとあれば、しばし時間を取ることも吝かではありません。ただ、10日ほど後に西大陸へと向かう予定があり、その前に廃都での用事もありますますので、なるべく早く廃都へと向かいたく思います」


「安心召さレヨ。さして時間は取ラセヌ」


 そう言うと、イズナ様はフィーリエに部屋を用意させて、しばしの会食になった。

 食卓には軽食としてケーキと紅茶が用意され……と思ったけれど、どうやらそれは私とリナの側だけのようで、イズナ様の方は自前の水筒、真ん中がえらくくびれた植物から作られているみたいだけれど、多分水筒だろう。ついでに言えば独特の匂いがする。かなり強いお酒のようだ。

 なお、ヘル様はこちらには来ずに父さまと何か話している。


「それで、話というのは」


「オォ、そうで有ッタな。イヤ何、ソナタの旅の道程ヲ知りタイのだ。聞ケバ、淫魔王ヤ竜帝殿にもマミエテおるそうデハないか。後学の為二聞かせて頂きたい」


「……まぁ、構いませんが」


 水筒を口に含みながら返答するイズナ様に今までのことを話す。リリスウェルナ様の話も出たので、グォークと出会ったあたりから順番に話していく。


 …………。


 話を進めて行った私だったが、段々と不安になって来た。というのも……。


「あの、イズナ様?」


「ム、如何サレた?」


「あ、いえ、それでですね」


「…………」


 なんだか、イズナ様の反応が微妙なのだ。確かに聞いてはいる。相槌も多少はある。だけれど、わざわざ渡したとを引き留めてまで聞きたがっていた反応に思えないのだ。

 そう思っていると、隣で静かに座っていたリナが、おもむろに短刀をイズナ様に突き付けた。


「ちょ!リナ!?」


「何のつもりだ、貴様」


 リナは私の体を抑えつつ、イズナ様に問いを繰り返した。


「貴様の目的がアンネ殿の話を聞くことでないのは分かった。何のつもりだ」


 その言葉を聞き、イズナ様は顎をさすりながらニカリと笑った。


「ソウサな。ソロソロ頃合いか」


「!?」


 そうして、すっくと立ち上がったイズナ様は、徐に窓の方を向いて語り始めた。


「某ニハ、竜骸国に娘ガオッてな。ドウもお主とセルバン殿ト被ってシモうてな。父親とイウのは何時マデ経っても、娘ヲ思うモノよ。幾ら好イタ男が待ってオルと言っても、粗雑に扱ワンで欲しくての」


「好いた男……って、いや、グォークとはそう言う関係じゃなくて……」


「カッカッカ。マァソレは良い。ダガ、セメテ一度帰って来タノダ。食事デモナンデモして、ドンナ旅をシテ来たのかナゾ話してヤレ」


 そう言ってイズナ様は私に一つの袋を投げて来た。


「ソレハ、迷惑料兼知己の者ヘノ餞別とデモ思ってクレ、悪しキ者には覿面ノ聖木の木杭ダ」


 そう言うと、イズナ様はさっさと部屋を出て行ってしまった。


「アンネ」


 リナの言葉に、私は頭を掻きながら苦笑いを返した。


「あぁ、確かに、帰って来てから父さまとあんまり話してなかったわね……はぁ」


 私は顔を二度叩いて立ち上がった。


「よし!取りあえず父さんに今までのこと話してくるわ。……いやイズナ様の言う通り、昼食でも食べながらの方が良いかしら……取りあえずフィーリエとも話し合って……」


 そんなこんなで、私達は父さまと一緒に食事をとり、近況報告をして……と色々した結果、更に一夜明けてから廃都へと舞い戻ることになったのだった。

妖精の保持できる重量に関して。


 以前魔力による強化について触れましたが、おさらいとして。

 妖精種含め、体の小さい種族は魔力で能力を底上げする傾向にあります。特に筋力は相当に強化されていて、よくファンタジー系作品の描写として見られる「自分と同等かそれ以上の大きさの果実を掴んで飛行する」と言った光景が見られる原因となっています。


 ただ、一般的な妖精種はインドア派なので、非力なのは間違いありません。

 具体的に言うと

 名無しの一般妖精 自分と同じ大きさのリンゴを持ち上げて飛ぶことができる。

 名無しの戦闘妖精 自分と同じ大きさの鉄球を持ち上げて飛ぶことができる。

 アンネ      自分の倍ほどの体積の硬貨の入った袋を持ち上げることができる。

 熟練の殺戮妖精  全身金属製の鎧に身を纏い、その飛翔速度で人間サイズの存在なら肉を食い破り反対側に突き抜けることができる。


 アンネは通常の戦闘妖精よりも経験値を貯めてるため、強化値もそれなり。最後の殺戮妖精に関しては……まぁ、極々稀に歴史上に現れたり現れなかったり。敵にすると厄介極まりないタイプ。

 というか、そこまで行くと精霊や妖精系亜人種(エルフ・ドワーフ等)に進化する方が強いし生き残りやすいのでわざわざ妖精でそこまで鍛えるのは本当に希少。

 一応大きさって意味なら妖精女王ティターニアルートはあるけど、あっちは魔法特化で物理は現在のアンネとそこまで変わらない。

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