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アルトバイアン村後編

後編です。

 オーク襲来す。

 少年がもたらした情報に、村長はすぐさまそのように村人に通達した。持つ物は最低限、王都へと向かう為に慌ただしく準備はなされ、気の早い者や臆病な者は一足先に馬に乗って逃げ出してしまった。


 がらんと静けさに満ちた村に残ったのはたったの四人。元は大きめのたれ布だったものをそのまま身に纏った四人は、悲壮感を漂わせながらも覚悟を決めた目で森の方を見据えた。


 そして、彼らが現れた。

 巨大な身体。緑の体色。間違いないオークである。それが4体。村を壊滅させるだけの戦力が4体も現れたことで、震えそうになる足を何とかなだめ、彼女たちは顔を見合わせる。黒き茂みの森は比較的高地も多いのだが、その分村から離れる時に目視されやすい地形なのだ。なんとしてもこの4体のオークをこの場に、自分たちにひきつけておかなければならない。


 そう、彼女たちは、自分の娘のため、家族の為にオークに身を捧げることを決めた女たちであった。


 そんな彼女たちは、顔を見合わせ、頷き合うと身に纏っていたたれ布を脱ぎ去った。その瞬間の激変はすさまじかった。3体のオークが性的興奮から体の一部を怒張させ、先ほどをはるかに超えた速度で突っ込んできたのだ。そして、先頭のオークが一人の女性をその手でつかもうと手を伸ばした。

 戦士すらも反応できないような速度で突っ込んでくる、相手のことを考えもしないオークの掴みかかり。そんなものを受ければただの一般人である彼女が耐えられるはずがなく、それはオークにとってのお楽しみをふいにすることでもある。しかし、オークはそんなことなど気にせず、彼女の胴を掠め……。勢い余って彼女の背後にある教会に突っ込んでいった。


 教会はガラガラと崩れ、オークの上に降り積もっていく。直接的な死の恐怖を感じた女性は、一時的に脅威が去ったことでへなへなと地面にへたり込んだ。だが、それもつかの間、また新たな脅威が現れる。当たり前だ。オークは一体ではないのだから。


 とはいえ、こちらも一人ではない。今までは村の為に死ぬ覚悟、犯される覚悟を固めていた彼女たちだが、実際に身の危険を感じれば、あっさりとその覚悟は砕け散り、どうか自分以外の場所へと言ってほしいと頭の中で祈っていた。


 そんな一人の女性の元、二体のオークがたどり着いた。どうやら今回のオークは先ほどのオークよりは慎重なようで、そうっと掬い上げるように女性を両手で持ち上げると、自らの怒張を差し込もうと位置を合わせていた……が、そこに残ったオークが殴りかかった。

 オークに協調性など皆無。自分がしたいことをするために、4人もいる女性の内一人を取り合い、殴り合いが始まったのである。


 なお、オーク的に見て彼女たちに美醜の差はない。雌であればゴブリンであろうと狼であろうと、あるいは人間であろうと関係なく孕み袋にするオークにとって重要なことは、その個体が雌であるということの一点のみである。

 つまるところ彼女を二人が選んだのは、ただ単に「最初に目についた雌だったから」である。


 最初の一撃で手放された女性であったが、そこは身の丈も膂力も人間以上の化け物たちの殴り合いの渦中である。その恐怖に一般人が耐えきれるわけもなく、彼女は簡単に意識を手放した。

 そんな気絶した女性を無視して、二体のオークは殴り続けている。

 もはや彼女のことは眼中にないようだ。


 そんな惨状の中、教会の跡が大爆発した。中にいたオークが立ち上がったのだ。残念ながらオークは頭脳以外は平均以上の魔物だ。例え大型建築物であっても、ただの倒壊なら平然と受けきってしまうのがオークだった。


 そして、教会の崩壊はもう一つの最悪の事態を引き起こした。

 教会が崩れたその先、そこには急いで逃げる村の人々の姿があった。更にその最後尾にいるのは、幼い少女……つまりは、オークの獲物たる()だった。


「ハ、ハンナ!」


 どうやら女性の中に最後尾の少女の母親がいたようだ。悲壮な声を出す女性の願いも空しく、オークは遠くに見える逃げ出した村人たちを見つけてしまった。


 オークは獲物に対してどん欲だと言われることがあるが、実のところそれは、引き際をわきまえないというだけでしかない。見つけた獲物以外意識から消え去り、自分が何を狙って追いかけていたのかすら忘れたとしても、その獲物の匂いという手がかかりさえあれば止め時を失い追いかけ続ける、それがオークの習性だった。


 それは逆に言えば、明確な止め時があれば別の行動に切り替えるということだ。例えば、「鳥頭以上に保存能力の薄いオーク脳が獲物のことを忘れた頃に、新たな獲物を見つける。」と言ったことがあれば、オークはたやすく狙う対象を変えてしまう。


 つまり今この瞬間、オークの標的はハンナと呼ばれた少女と、彼女のいる逃走者たちに向かったのだ。

 叫びつつオークの足を半狂乱になって蹴る女性の声にも気付かず、オークは村人たちを目がけて走り出した、しかし、このダッシュは未遂に終わる。

 何故なら、オークが走り出した瞬間、オークの頭に巨大な岩が飛来し、その衝撃でオークがつんのめったからだ。


「フゴッ!」


 怒りと共に振り向いたオークは、そこに新たな獲物を見つけた。それは先ほどの女よりはるかに大きな胸を持ち、巨大な臀部と掴みやすそうな角がオークにはとても美しく見えた。


 ……まあ、端的に言えば村人たちが逃げる際に、持って行くことは出来ないと持ち出しを諦めた牝牛だった。オークは別に人を狙って犯すわけではない。そんな生態なら黒き茂みの森の人の入らないところになどいるわけがない。

 馬だろうが牛だろうが、あるいはゴブリンやエルフ、はたまた同族のオークやもちろん人間であっても雌であるならば彼らの獲物だった。

 そして、怒りを覚えていたはずのオークの脳内には、既に逃走中の村人のことなど頭になかった。オークは牝牛に襲い掛かり、そのまま行為を始める。


 そんな様子を見て、安堵した女性は、しかしその身を硬直させる。彼女の傍らに、巨大な影が立った。


 そうだ、ここに来たオークは4体。女性を奪い合い、今はもはやだれを襲おうとしたのかさえ忘れ、自分に逆らうものを殺そうとするオークが2体。


 牛との交合に励むオークが1体。


 なら、残りの一体はどこに行った?


 気が付けば二体のオークの近くにも、最初に彼女たちがいた付近にも、同じ村で過ごした仲間の姿はない。ゾッとしながら振り返った先には、肩に女性を担いだ奇妙なほどに静かなオークの姿があった。


 動かないオーク、そして動けない女性。しかし女性にとっては永遠に思えるその対面も、実際にはオークが彼女を抱え上げる一瞬にしか過ぎない。


 眼下には圧倒的な暴力で殴り合う二体と、種族も体の構造も全く別物であっても今現在体を蹂躙されている牝牛、それはあと数秒先の自分の姿である……女性はそう覚悟した。


 オークたちの蹂躙する町の中央部から離れた場所で、4匹目のオークは二人を下す。

 そこに聞こえる息遣いは……オークのものを除いて4つ。町に残った全ての女性は、ここに集められていた。


 そして、オークは彼女たちに体を寄せた。その恐怖に体は強張り、顔はひきつるが、もう運命は決している。諦めにも似たその心境で、彼女たちは目を閉じ……。


「サワグナ……モウ、カエル」


 吼えるような、しかし、明らかに鳴き声でない()()()()()()で話されたその言葉に、彼女たちは思わず目を見開いた。


 そんな彼女たちの目に映ったのは、先ほどまでは気が付かなかったが、貧相とはいえ簡素な衣服を身に纏ったオークの姿だった。


グルァ!グリェラ!(〈帰るぞ!〉)


 その一言に反応したのは一体のオーク。よく見れば殴り合っていたオークは、双方血まみれとなり、片方は既に息絶えている。もう片方もあの出血量では助からないだろう。


 もう一体のオークは、牝牛の首根っこを掴み、牝牛のことなど一切考えることなくずるずると引きずってもう一体のオークを追いかけた。


 かくして、2体のオークは死に、2体のオークが立ち去ったことで、アルトバイアンの村民たちの危機は、さったのであった。


 のちにアルトバイアンの奇跡と呼ばれるその一件は、オークに襲われたにも関わらず被害者がたった一人で済んだということでしばしば吟遊詩人の手によって語られる定番の話の一つになっていく。


 だが、なぜオークが去ったのか、それを人々が知るのは、吟遊詩人によってこの話が広まるよりも、もっとずっと後の話だ。

 

毒蛇「オレ、オマエ、カブリツキ」

オークA「とにかく匂いを追いかける、とにかく匂いを追いかける」

ゴブリン”オークだ!逃げよう”

オークB「なんか草むらがゴソゴ……そんなことよりこいつを追いかける、こいつを追いかける」

ホーンラビット「ビョンビョン」

オークC「待てやオラァ!!」ブチッ

ホーンラビット「ギャン!?」


オークD(こいつら、道中で起こった全てのことに気付いてない!?)

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