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オークとワイトキング

 俺たちが最初に見たのは、王冠だった。そして、赤いマント、同じく赤いズボンと続く。

 それは非常に古いもののようでありながらも、一目で丁寧に扱われているのが分かる逸品だった。

 豪奢な王の姿……。と言いたいところだが、それには一つの問題があった。それは、その着物を纏っている王が、既にこと切れ、白い骨となっているからだ。


”よく来た、人g……いや、オーク、と、ゴブリンかな?”


 その骨が、言葉を発した。まぁ、わざわざ玉座に誰とも知れない骨を置いておくわけもないため予想通りだが。

 言葉を発した途端、俺たちはいっせいにその骨に向かって頭を下げる。ボスとリナは王に従う臣下のように、アンネは優雅な令嬢のように、そして、俺は蘇芳の頭を押さえつけながら。


 全員が頭を下げたところで、骸骨はカラカラと頭を上げるように伝えて来た。見上げれば、先ほどまでだらしなく体を玉座にもたれ掛けさせていた骸骨は、眼窩に赤い光を灯し、玉座にどっかりと座りかけていた。


”なに、私はもはや廃れた国の王。そのように腰を低くされる立場にはない”


「そのようなことは有りません、リス・デュアリス王。その御高名は我が父よりかねてより伺っております」


 思わず目を見張る俺をよそに、アンネと骸骨王の話が始まった。


”ほう、そなたは?”


「賢者の塔、妖精村の村長の娘のアンネと申します」


”なるほど、賢者の……。アンネ嬢、このような場所までお越しいただき感謝する。歓迎しよう”


 アンネ達は何か分かりあったのかお互いに笑みを交わし、その視線はこちらを向いた。


”ふむ、お主がこの集まりの首魁だな?如何なる目的によってこの城に赴いたのか、聞かせてみるがよい”


 その言葉に、俺は緊張しつつも、ヘルに事前にアドバイスを受けた通り、洗いざらい全てを彼に語り、緊箍児の有無について問いかけた。


”ふむ、そうか……中々、興味深い話であった”


 そう言って彼は顎骨をひとさすりする。


”まず、事実として言えばこの城には、緊箍児が5つ所蔵されておった。その内の一つは龍災時に、二つはその後の混乱期に散逸し、残りの一つは我が家臣に下賜しておる”


 そこで意味ありげにヘルの方を見て、彼はさらに続ける。


”故に、残った緊箍児を貴殿らに預けることは不可能ではない。だが、廃れたとはいえここは王城。私やこの場にいる家臣のみで、国の宝をふらりと来たよそ者に預けることはできぬ”


 その言葉に、俺は心の中で落胆する。まぁ、確かにそうだ。アンデッドだとしても、そこに住んでいる者がいて、社会があるのなら、その財をどこの誰とも知れない馬の骨に与える道理はないだろう。


”ひとまず、興味深い話をした褒章として、我が国に伝わるオークと進化の記述については手の空いている者に調べさせ、報告書に纏めることとする。それでよいな?”


 それを聞いて、俺は落胆しつつも頷いた。仕方ない。なければないで何とかなるだろう。

 そう思っていた俺に、彼は意外な言葉をかけて来た。


”しかし、資料を纏めるまでの時間何もなしというのも味気なかろう?どうだ?我が家臣になってみる気はないか?”


 それを聞いて、俺たちはどういうことか分からず顔を見合わせる。しかし、それを察した骨王はさらに言葉を重ねて来た。


”国庫の宝物を渡すことが出来ぬというのは、信頼できぬ他人であるというところが大きい。故に信頼できる家臣になれば貸し与えるという形で下賜することができる”


「それは……確かに理屈としてはそうでしょうし、こちらとしても助かりますが……実質的に赤の他人であることには変わりがないはず、それでも、よろしいのですか?」


 アンネの問いかけに、骨王はカラカラと笑いながら頷いた。


”構わぬさ。グランツあたりから聞いておらぬか?我らは既に滅んだ者である。伝統は守らねばならぬが、我ら死した者達がこの死した都で死蔵するよりは、正しく使える者に授けたほうが道具も喜ぶだろうさ”


「まぁ、こういう人たちなのさ、良かったじゃないか。やってみれば。ノーリスクハイリターンってものさ」


 ヘルの言葉に、俺は大きく頷いた。


「一つ確認しますが、家臣になった場合、課される課題や不利益は有るのでしょうか?」


”ふむ、先ほども伝えたが、我らは既に滅んだ者である。生者になにがしかを強いるのは無為に過ぎよう。故に、我らが望むのは三つ。

 一つ、己が信念を貫きその思いを遂げるよう力を尽くすこと

 二つ、廃都に、そして現在生きる私達の子孫に敬意をもって接すること”


 そこで骨王は一旦口を閉じ、そしておそらくはニヤリと笑い、こう付足した。


”三つ、私達にその話を聞かせること。何しろここ、廃都の者達は新しい刺激も滅多になく退屈しておるからな。時々話し相手になってやってほしい。強制はせぬがな”


 それを聞いて、俺は後ろに目くばせして改めて骨王を見据えた。


「分かりました、なら我々はあなた様の家臣となりましょう」


 骨王はそれに頷き、そしてこう続けた。


”それでは、我が家臣にふさわしいかどうか見極めさせていただこう”

本来下賜に貸し出すという意味はありませんが、廃都においては全てが廃都という秩序の為に全体主義的に所有権を全て王が持つという認識のため、特に王城のものとかは王が相手が滅びるまで下賜している(貸し出している)という認識になっている。


廃都での王の家臣の意味合い

 ぶっちゃければ外国人が名誉市民になるくらいの扱い。何しろ現在廃都に住んでいる魔物、生き物の殆どが廃都の王である初代リス・デュアリスの支配下なので。

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