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オークと牢の中再び

「……なんだか、前にもこんなことあったな」


 思えば、最初にリス・デュアリスの王都についた時も牢の中からのスタートだった。なんだかんだで最近は街の人たちとの関わりもあったためにうっかりしていたが、俺たちは普通に一般的に危険な魔物に分類されていることを再確認できた。あまりうれしいことではないが。


「まぁ、今回も武器が取り上げられてるわけじゃないし、何とかなるでしょ?」


 アンネが楽観的にそう言うが、まぁ、そうなんだろうなとは思う。今回は城の衛兵(とは言っても人間ではなくゾンビっぽい魔物の兵士だったが)と顔見知りのヘルがいたため、一応形としての捕縛だと考えられた。


 実際、なんだか知らないが俺たちを牢に押し込んだ衛兵が何故かお茶を差し入れて、しかもボスたちと世間話で盛り上がっていた。


「なんだいなんだい、それじゃあ、地上じゃオークが街中を闊歩してるのかい?」


「いや、流石に闊歩とまでは行きませんがな。それもこれも、主殿の人徳のなせる業と言えましょうぞ」


「はー、それにしてもオークが街中歩けるだけでも大したもんさね。ここがまだ地上にあった頃なら、その時点で首チョンパってもんだ」


 そうして馬鹿笑いをするもんだから、ボスもそれにつられて小さく笑った。

 その様子を見て、俺はその兵士に声をかける。


「話が盛り上がっているところ悪いが、俺たちと話していていいのか?一応ここの兵士なんだろう?」


「あ~?あぁ、なるほど。あんたらそう言うクチか。いいんだよそんなに肩ひじ張らなくったってよ」


 そう言うと兵士は手を大きく広げて左右に振って見せた。


「よく見てくれよ。ここは人っ子一人いない廃都だぜ?守るものといやぁ俺と同じ死人か、死人の中でもより強い上位の方々か、或いはこんな廃都を気にいっちまった酔狂な来訪者位だ。そりゃまぁ盗掘家や理性の無い魔物だってんならもう少し考えるがね。要は伝統って名の惰性でそういう対応なだけで、こっちにとってはちょっと物珍しい客人程度の認識なのさ」


 そう言ってカラカラと笑う男の頭に、ゴチンと木製の杖が突き刺さった。


「イタッ!?な、何だいいった……あ、た、隊長」


「全く、客じ……囚人の前で何をべらべらとくっちゃべっておるのじゃこの愚か者が」


 そうして男の後ろから姿を現したのは透き通るように……というか実際に透き通って後ろが見える、青白い肌と灰褐色に見えるローブを纏った足の無い老人の姿。簡単に言えば魔術師の幽霊と言える存在だった。


「済まぬの。この馬鹿が失礼した。今国王に今後のお主らの処遇を確認しておる所じゃ。何分オークを城内に入れたことなどないのでな、しばし時間がかかると思うがご容赦下され」


 そう言って、彼は不動の構えをとった。


「ねぇ、あれグレーターワイトよ。魔術系の死霊の中でも、上位の存在ね」


「こら、指さすな」


 そんな感じでわちゃわちゃしていると、衣擦れのような音を響かせながら、ヨルに乗ったヘルが姿を現した。その姿を見た途端、魔術師の幽霊は頭を下げて道を譲る。


「あ、ヘルさん」


「済まないね、呼び止められて厳重検査……くらいなら予想してたんだけど、まさかいきなり牢屋行きとは思わなくてね。とりあえず、陛下と謁見できるように調整できたよ」


 そう言いながら、ヘルが頭を下げ続けている魔術師の幽霊に何か紙を手渡すと、すぐさま檻が開かれ、外に出ることができた。


「それでは、ここからは儂、グランツが案内を務めさせていただきますじゃ」


 グランツと名乗ったのは、先ほどの幽霊魔術師だ。ふわふわと先導をしながら、先ほど兵士を叱咤したのと同一人物とは思えないほどフレンドリーにはなしかけてきた。


 曰く、廃都での最近の流行とか。


 曰く、グランツの武勇伝とか。


 曰く、今までこの廃都には言ってきた中で一番興味深かった冒険者のこととか。


「あの、話を遮ってすまない。なんだか、先ほどと大分態度が違うようだが?」


「それはそうじゃ。何しろ、あの時は儂もあいつも、囚人の監視としてお主らと対峙しておったからな。たとえそれが形骸的なものだとしても、囚人としての対応をしなければ我ら廃都に住む先達として示しがつかん。それ故にあの時はあのような対応となったのじゃよ」


 分かる様な分からないような言葉に、ヘルが補足を入れてくれた。


「まぁ、要するに彼らはそれだけ伝統を重んじるってことさ、囚人には囚人らしい対応を、客人には客人らしい対応を。そして伝統という様式を与えられれば、それが直前の行動と矛盾するようなものであったとしても、飲みこんで対応する。それが彼ら廃都の住人というわけだ」


 その言葉に大きく頷いたグランツは、大きな扉の前で立ち止まり、俺たちを振り向いた。


「さて、話はこれくらいにしようか。我らが王の御前である!」


 そう言って、グランツの手で大きな扉が開き始めたのだった。

 廃都の魔物達

 廃都の魔物は、基本的には他者に寛容です。なぜなら、廃都の魔物達とはつまるところ龍災を乗り越え、守るべき者達が地上へと再進出した後に残された者達。つまり、自らの役目を全うした戦士達が殆どだからです。

 ただ、過去の痕跡はどうしたって廃都の方に色濃く残ること、そもそも役目が終わったからと言ってそう簡単に行動パターンを変えられるような器用な性格ではないことと、そもそもアンデットになった段階で思考がある程度硬直化するという精神影響があり、「自らに対する悪意に対しては概ね寛容ながら、廃都に対する侵略行為や、当時の世間一般における悪事に関しては非常にシビアな判定を下す不死者の集団」が誕生したという経緯がある。


リッチ 魔術に精通した存在が不死の力を求めてその身を変化させたもの……とされているが、実際には例外が存在する。現在グォークと行動を共にしているヘルはもとよりリッチとして生を受けた存在である。

 この世界におけるリッチの定義は魔術や特性により寿命を失い、体内の脳を除く重要器官のどれもが破損しても代替可能な存在のことを差す。

 その性質上、最も簡単なのが一度死んで知性を持つアンデッドとなることなため、リッチ=インテリゾンビのイメージが付くこととなった。


ワイト 意識のしっかりした死者の総称。戦士も魔術師も王族も一般人もすべてワイトでくくられる。本来ならば意識がしっかり残ったアンデッドは強い恨みや憎しみ、未練が暴走した状態、つまり明確な敵意の表れとしての表出をするため、ワイト=危険なアンデッドだが、廃都はその特性から穏やかなままアンデッドが意識を保ったままなので、かなり珍しい存在である。



 書き溜めが少なくなってきたので、また暫く1話投稿になります。

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