オークと緊箍児
俺はヘルの持つ緊箍児とかいう金の輪を見つめる……明らかにどこかで見た事がある。あれは……たしか……。
「孫悟空?」
そう、前世で見た、孫悟空が頭に付けている謎装備そっくりだったのだ。
「ん?あぁ、良く知っているね。何でも異世界からの転移者が作ったか貰ったかしたもので、本来はソンゴクウという猿の魔物にいうことを聞かせるためのものらしい」
それを聞いて、俺は内心あの冠を作った誰かに突っ込みつつ、気になったことを質問した。
「いや、でも、それ一個じゃこの人数は意味ないんじゃ……」
「?何を言っているんだ?これは、まず私がこれを被って」
そう言いながら、ヘルは冠を被って俺に向かった。
「では、約束をしよう。君は私がここで何をしていたか言わない代わりに、私はここでの君たちの行動の手助けを出来るだけしよう」
「あ、あぁ、まぁ構わないが……あ、でも、俺たちオークは……」
俺がそう言っている間に、まばゆい光が溢れ、俺とヘルを包み込んだ。思わず目を閉じるが、それ以上は何も起こりそうにないので再び目を開ける。
「さて、それじゃぁ、ためしだ。先ほどのことを話してみるといい。……万一、ここで何かあっても被害はないからな」
「いや、だから……まぁいいか。じゃあ、アンネ、ヘルさんは廃都の図書館でッツツツツツツツツ!?」
俺が話そうとした途端、耐えがたい痛みが頭に走り、俺は思わず頭を抱えてうずくまった。その痛みは数十秒続き、あるタイミングでスッと無くなった。残るのは、何かに締め付けられた疼痛だけだ。
「痛っう。なんだったんだ今の」
頭を抱えていた俺が蘇芳の手を借りて顔を上げると、ヘルがボスの戦鎚とリナの苦無をそれぞれ片手で受け止めているところだった。
「主殿に何をした!」
「ふっ」
再び放たれた戦鎚と苦無をいなしつつ、ヘルは余裕の表情で二人に向かって口を開く。
「何って、この道具を使ってみたんだが……何か問題でも?」
「貴様ぁ!」
三度戦鎚を振り上げたボスの様子に、俺はハッと我に返り、声を張り上げる。
「待て!」
「主殿!?」
咄嗟に振り向いたボスとリナは、まだヘルに警戒をしながらも武器を下げる。
「うちのボスとリナが済まなかった。ただ、こうなるならあらかじめ教えてほしかったな」
「こちらこそ失礼したね。だが、君がこう言ったものに詳しいのかと思って、効能も知っていると思ったんだよ」
先ほどの実験で分かった通り、どうやらこの世界における金箍児は直接対象に付けてその金属が装備者を締め付けるという形ではなく、なぜか装備者と契約をすると違反した者の頭を締め付ける魔術が発動するというもののようだ。
なぜそれがオークにも通じたのか。不思議なところだが、恐らくは重力魔法と同じなのだろう。
「……これ、使えるかもな」
オークに効くかどうかは、俺に効いたことから証明されている。
なら、もしこれがあればオークの行動を制限することができるのではないだろうか?
「ん?どうしたんだ?」
「いや、俺たちがその魔道具を手に入れることが出来ないかと思ってな」
「む……そうか……」
ヘルは少し首を捻ってぶつぶつと呟き、その間に骨蛇が笑い飛ばした。
「そりゃ、無茶ってもんさ!何しろ、これはここの王城で手に入れたもんだからな」
王城という言葉に俺たちがヘルを見つめるとヘルは手を上げてこちらを向いた。
「まぁ、ヨルの言う通りこれはここの王城で下賜されたものだよ。だから、いま手元にあるものを勝手に渡すわけにもいかないし、確実にここにあるってのも言えないんだ」
まぁ、どうしてもなければならないというわけではないため、絶対というわけではないが、出来れば手に入れたいとも思う。
「というか、何でこんなものを欲しがるんだ?ここの城で下賜される宝物の中で、これを選んだ私が言うのもなんだけれど、あんまり便利なものじゃないよ、これ」
そこで、俺達は今までの話を交えながら、今までの話を続けた。
「ほう……成程ねぇ。そりゃぁ、結構な旅をしてきたようだね」
「なぁ、相棒」
「わかってる……というか、さっき気づいたさ……」
何やら意味深な掛け合いをしながら、ヘルは俺たちを見回した。
「そう言うことなら、私の方でもこれを手に入れられるように協力したい。それと、個人的に君に興味も湧いてきた。暫く一緒に行動させてほしい」
そう言って、ヘルは俺に手を差し出してきた。俺はその手をグッとつかむ。
「よろしく頼む。ただ、ダメだったらダメで仕方がない。気負わずに行こう」
そう言うと、ヘルはにこりと笑い返し、そして先導するように踵を返す。
「さて、それじゃあまずは王城に行くとしよう。ついて来て欲しい」
そう言ってヘルについて行った一時間後。
俺たちは牢屋の中にいたのだった。
緊箍児 斉天大聖(孫悟空)が頭に付けている額冠、の伝承を元に転生者が作り出した伝説級の装備品。初期モデルは額冠自体に縮小機能を付けた物だったのだが、最終的に特定の誰かに装備させるのではなく、一人の主人が複数の従者や奴隷を使役する形になったため、金箍児を被った者が命令をすることで相手の頭を締め付ける道具となった。
なお、原理的には契約成立時点で不可視不接触の冠を無理やり装備させられる感じ。その性質上、わずかながら魔力が消費され続け、補給もままならないため、最長でも1週間、何度も締め付けるような運用をしていると短い時には一日程度で効力が切れるが、ヘルもグォーク達もそのことはまだ知らない。
ヨル ランク フェンリル級
ヘルのお尻の下に敷かれている巨大蛇。死と生の境が曖昧になっており顔全体から肉が削ぎ落ちた姿となっている。なお、竜帝様のことを叔父貴と慕っているようにかかわりが深く、彼から巨大化、縮小化の魔術を習い、会得している。本来ならもっと大きい。




