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オークとヘル

 建物の内部に入ると、驚くほどの本棚と、本棚一杯に詰め込まれた書籍が俺たちを出迎えた。どうやら図書館であることには間違いないらしい。


「主殿、どう致しますかな?」


「オークに関する本を探すならここが一番だろう……ただ、この量だ、やみくもに探すのは気が滅入るな。最低でもどこにどんな本があるかの案内を見つけるか……あるいはここの図書館の管理者なんてのがいるなら会ってみるのも手かもしれない」


 ボスの問いかけに答えつつ、俺は思索を巡らせる。スカー院長は気の良い奴らと言っていたのだから、話は通じるだろう、と信じたい。懸念点があるとすれば、俺達がオークのため、スカー院長なら気の良い奴らでも俺たちには剣を向けてくる可能性もあるということくらいか。

 そんな風に考えていると、アンネが俺の袖を引っ張ってきた。


「ねぇ、ちょっと待って、何か聞こえない?」


 アンネのその言葉にハッとして耳を澄ませると、確かに奥の方からささやくように何かが漏れ聞こえてくる。


「これは……なんだ?」


「主君、あちらから」


 リナが指さす方を見ると、そこは本棚が途切れて小さな部屋となっており、何やら看板が立てかけられていた。どうやら何か文字が書かれているようだが、今この国で使われている人類語とは異なる言語で綴られているようだ……というか、あれは……。


「ん……これは、資料室、か?」


 文字の形は少し違ったものの、それは日本語、もっと言うと漢字に見えた。


「えっ、えーと、あれがこーで、これが……そうね、古代文字だけど資料室って書かれてるわね」


「流石主殿!まさか古代文字まで習得されているとは!」


 俺はボスたちを抑えつつ、思考を巡らせる。恐らくだがこの図書館には転生者が関わっているのだろう。だからこそこの図書館では……というかここが一般公開されていたのなら廃都全体で日本語が使われていたのかもしれない。


 思考の海に溺れそうになった俺の肩に、アンネがちょこんと乗って耳元で囁いた。


「取りあえず、声の主を確認しましょ。……それと、古代文字のことは後で確認するわよ」


「そうだな」


 俺たちは慎重に声の方に歩みを進め、そっとそちらを覗き込んだ。


 そこは、小さな区画に本棚がびっしりと入れ込まれた場所だった。そして、読むためのスペースなのだろう。長テーブルが3台用意してあり、その中の一つのテーブルに本が山積みされていた。

 そして、その目線を少し下にずらせば、そこに一人の女性がいるのが分かった。背の丈からして大人の女性であろう。ただ、人間ではない。肌の色が日焼けの黒でも透き通った白でも、その中間でもなく薄く濁った青色の肌の人間は流石にこの世界でも見た事が無い。


 そして、それ以上に目を引くのは少女の下にいる者だ。恐らく……蛇、なのだろうか。ワニのものにも見える真っ白な頭蓋骨に蛇としては非常に短い、しかしかなり太い毒々しい紫と黄色の縞模様の胴体がついている。


「……あれは、結構やばい奴だよな?もし敵対すれば勝ち目がないような気配があるんだが」


 俺がそう言っている間にも、その女性は口から微かな笑い声を響かせながら何かを熱心に読み漁っている。


「フフフフフフフ」


「主殿、ここは撤退するべきでは?」


「あぁ……ん?」


 ボスの進言に頷き、触らぬ神に祟りなしとばかりにその場を後にしようとした俺だったが、ふと、彼女の持っている本に目が言った。よく見えないが、なんだか男同士が裸で写っているような……。


 慌てて積み上がっていたり、近くに落ちている本で表紙が見えそうなものや、背表紙の文字が読めそうなものを読み解いていく。


「……リナ、確認したい。あの女性の手に持っているもの、それに散らばっている本。見る限り、いかがわしい本のように見えるのだが、お前にはどう見える」


「主君のおっしゃる通りかと存じます。付け加えるならば、同性との交合、もっと言えば男性同士の睦言が描かれているものではないかと推察します」


「腐腐腐腐腐……ハッ」


 俺たちがそこまで確認すると、流石に相手も気づいたようだ。割と長時間後ろにいたとはいえ、オークとしての感覚をフル稼働して大分後ろから様子を見ていたのだが、そこはこの廃都にいる存在ということだろう。


 俺たちはすぐに逃げられるようにかけ出す準備をしながら、彼女の同行を見守る。


「いやいやいやまってくれ、これは生物学的な関心からくるきわめて学術的な探求心に端を発する物であって、同性の非生産的な交合に関しては前史に於いてどのような意味を持つのかという極めて学術的かつ歴史学的な意味を持つ重大な研究であって決して私が楽しみたいからとかそう言った意味では……いやチョットそれもあるかもしれないけれど、というかそんな話はどうでもよくて、というか忘れてくれるとうれしいのだが、それより君たちは……」


 すごい勢いで弁明してきた女性に、俺は警戒を解かずに問いかけた。


「貴方は一体何者ですか?」


 それを聞いた途端、先ほどの取り乱しようとは打って変わって彼女は胸を張ってこう答えた。


「ん、私のことを知りたいのかい?私はヘル。エンシェントリッチのヘルさ」

なお、現実世界には居たらしいですね。青い肌の人劣性遺伝子による遺伝病らしいけど。


 ヘル様、元々は、というかこの廃都に来る前まではマッド寄りの科学者だったのに……廃都で研究を進めるうちに図書館の片隅にあったBL本を見つけてしまったばっかりに……。


ヘル「だって、図書館の禁書棚の奥に隠してあれば何かあると思うだろう!?」

骨蛇「そりゃ、流石に言い訳ってもんだろ。実際嵌ったわけだし」


なお、仮に腐に目覚めていない場合元々がマッド寄りのサイエンティストのため、場合によってはオーク組とリナが出合い頭にモルモット代わりに捕獲された可能性があったりなかったり。

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