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オークと蛇女

「基本的には敵対しなけりゃ気の良い奴らばっかりだが、油断はするんじゃないよ」


「この扉は普段は開かれておりません。グォーク様の持つ図書カードが認証キーになっておりますので、ここまで戻ってきたらそのカードを、ここにかざしてください。それで開きますゆえ」


 扉の近くにある小さな魔法陣を前にそんな説明を受けた後、スカー院長と老執事と別れ、俺たちは階段を下って行った。

 階段はそこそこ大きいものの、吸い込まれそうなほど深くにまで続く蝋燭の描く線は、俺たちを不安にさせるには十分だった。


「主殿、前を歩きます」


 そう言って前へ出ようとするボスを、俺は手で制する。


「落ち着け、気を付ければ危険はないとスカー院長も言っていただろ?勿論油断は良くないが、そんなに固くなっていると、うっかり敵でもない誰かに攻撃しかねないぞ。リナさんも、今回は先行偵察は良い。もしも気になるなら前じゃなく今まで通った道の方を警戒しておいてくれ」


「……御意」


 そわそわした雰囲気は収まらないものの、その戦意を抑えて再び歩き出す俺たちの先に、ほの暗い道の出口が見えて来た。


「なんと……」


「これは、すごいわね」


 ボスとアンネが感嘆の声を上げる中、俺を含め他の者達は声すら出せずにぐるりと眼下に映る景色を見つめていた。

 端的に言えばそれは町の景色だった。ランタンのような淡い光が辺り一面に広がり、遠方には地上にある王城にそっくりな巨大な城のような建物も見える。

 西洋の街並みを模したテーマパークの夜景……と言えば分かりやすいかもしれない。

 ただ、そのある種芸術性すら感じる景色さえも俺たちの受けた衝撃の半分だ。

 一番の衝撃は、俺たちの足元。階段にこそあった。


 そもそもの話、俺たちは上からこの廃都を目指し、現在町の()()()()()の上空にいた。


 そう、俺たちは王城よりも高く、生半可な橋よりも巨大な幅を持つらせん階段の上に立っていたのだ。物理法則すら無視するその階段は、しかしこゆるぎもせずに階下まで続いている。


「落ちタラ大変。腕一緒に組ム」


 蘇芳の言葉に我に返った俺は、思わず蘇芳の腕を掴む。それを見てボスとリナもおずおずと腕を組み、空を飛べるアンネは取りあえず形だけ俺の肩のあたりを定位置に決めてふよふよと浮きながら進んだ。


 本来なら武器を咄嗟に振るえないので悪手なのだろうが、先ほどとは別の意味で不安になる景色に、こうでもしないとやってられないというのがあった。


 慎重に階段を下りていき、一番下に降りきった頃には既にかなりの時間が過ぎていた。地の底であり日の光も見えないため体感ではあるが、一時間は過ぎているだろう。


 下まで降り切った目の前にあったのは大きな建物だ。四角い見た目の建物は、なんとなく地上にある図書館に似ているようにも見える。


「グォーク、上の方他の階段は確認した?」


「階段?あぁ、ここ以外の入口だな……悪い。下に行くことに集中していたからあまり見てなかったな」


「一番近いのは教会っぽい建物、次が王城、それより外にいくつかあったわ」


 一番近いのが教会、そしてここが図書館のような建物……。


「もしかしてだが、王都の構造と廃都の構造って、関連性があるのか?」


 俺の言葉にアンネが頷き、リナも大きく頷いた。


「廃都は王都の前身よ。王都を再建したのは廃都に避難した住人たちだったはず。なら、都市づくりのコンセプトなんかも似通った者になったんじゃないかしら?」


「何度か移住したけれど、新しい場所に住処を移しても、基本的にはモノの場所は可能な限り変えはしなかった。使える場所と相談しなければならないけれど」


 この廃都の成り立ちは龍災という天災に近いものだった。それが収まるまでここで過ごし、何らかの理由で地上に街を作り直したのだろうが……。


「時間さえ許すのであれば、同じように街を作るのかもしれないな、もしかしたら地上と同じ感覚で街を進めるかもしれない」


 尤も、実際にそうと確認したわけではないため、油断せずに街の探索を始めた。まずは目の前の建物からだ。

 入口の扉を見ると、閉ざされた扉の横に魔法陣がうっすらと見えた。

 すぐさまボスが扉に手をかけ、力を入れるが動く気配はない。


「これは鍵がかかっておりますな。素材も中々に丈夫そうだ……打ち壊せるかもしれませぬが、主殿」


「いや、まて試したい事がある」


 そう言って、俺は図書カードを取り出した。場違いなことこの上ないが、図書館から廃都への出入りにも使えるものだ、あり得なくはない。

 そして、その予想の通り、扉は少し鈍い音を奏でながら横に開いた。


「すごいな、この図書カード」


 感心していた俺だったが、その横でリナが思案気に首を捻っていた。


「どうした、リナ?」


「主君、ここに本当に入る気?いざという時の逃走経路に懸念がある」


 その言葉を受けて、俺たちは頭の中で少しシミュレーションし、確かにと頷いた。


「そうか、カードは一枚しかないから誰かが到達すればすぐになだれ込む……ってわけにもいかないのか」


「リナにカードを持って少し後方から追跡してもらう……のも、あんまりよくないかしらね。耐久力的にはそこまででもないから、仮に奇襲されたらカードを奪われちゃうかも」


 一応危険はあまりないという想定ではあるが、通過するのにひと手間かかる密室へと入り込むとなると、少し神経質になってしまう。結局、カードは引き続き俺が持ち、いざとなったら俺か、それが無理ならアンネ経由でリナが入口まで走って扉を開けることに決め、図書館(暫定)に踏み込んだのだった。


 そして、その図書館の中にいたのは……。


「フフフフフ腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐」


 巨大な爬虫類の骸骨のような物に乗ったゾンビのように青白い肌をした女性の姿であった。

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