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オークと廃都入口

「廃都……?」


 俺の疑問符に、アンネが敏感に反応する。


「廃都っていうのは12の魔境の一つね。確か、リスデュアリスのどこかにあるけど詳しいことはあんまり知られていないんじゃなかったかしら?」


 その言葉に、スカー院長は頷いた。


「そうさ、そして廃都は名の通りこのリス・デュアリス王国の昔の王都だったのさ」


 そこから彼女は、廃都にまつわる伝説を話し始めた。


 時は魔王大戦よりもはるか昔、リス・デュアリス神聖王国が、まだ神聖と名付けられていない時の話だ。平和を謳歌していたその王国に、突如として絶望が降りかかった。

 その絶望の名は竜災。はるか太古の昔から存在する全貌の見えない竜が世界全てを敵に回して戦争を仕掛けたのだという。立ち上がったのは5人の戦士、淫魔王リリスウェルナ、英雄王レビナ、魔物使いスィフォン、ナナシの魔法戦士、そして、賢者。この五人が壮絶な戦いを経て、龍災を乗り越えたのだ。

 ただ、その傷跡は深く、レビナは斃れ、ナナシの魔法戦士はその姿を消し、生き残ったリリスウェルナとスィフォンも数千年の時を魔境の奥深くで療養に使うことになった。そして、賢者もまたしばらくその姿をくらましたのだという。

 勿論5人の英雄以外にも被害は深刻で、人類の生存圏は過去最も繁栄した時の4分の一程度にまで落ち込んだのだという。


「で、その時に生き残った人類種の多くを、自らが魔境を生み出し王都自体を陥没させて守ったとされるのが廃都の魔王、初代リスデュアリスってわけさ。まぁ、尤も、あたしだって人づてに聞いただけだし、ジュモンジの奴だって三代は代替わりしてるくらい昔の話らしいがね」


「人間が魔王になったのか……」


 話を元から知っていたらしいアンネ以外はそのスケールの大きさに驚愕し、俺も何とか言葉を捻り出したが、それ以上の言葉が続かなかった。


 気になるところはある。5人の英雄の内二人くらい知り合いの気がすることとか、一人はこれから会う予定がありそうだとか。それこそ魔王になった初代国王のことだとか。

 ただ、それ以上に気になるのは、その話を今なぜ伝えて来たかだ。


 その答えを知っていそうなアンネは、俺の視線に気づいたのか、一つ手を打って解説を始めた。


「廃都は滅亡した文明の名残……って言葉があってね。12魔境の中でも、”迷宮(ダンジョン)”や”氷結離宮(ホワイトパレス)”よりも古いってされているのよ。しかもそれらと違って〈元王都〉が〈居住できる環境〉でそのまま迷宮と化しているから、過去の遺物や失伝した技術や知識が残っている可能性があるのよ。それこそ、私ら妖精の間では”未明の大図書館”っていう別名もあるくらいだしね」


「その通りさ、そこなら、あんたたちの望む情報もある、かもしれない。あと二週間もあるんだろ?なら、行ってみてもいいんじゃないかい?」


 スカー院長の言葉に、俺たちは思い思いに疑問をぶつける。


「気になるのは時間ですな。疑うわけではござらんが、二週間で何とかなるのですかな?」


「それについては問題ない、何しろ、場所はこの王都の真下だし、あそこの魔物は敵対しない者には積極的に敵対することは無いからね」


 ボスの言葉への回答に、俺は目を剥くが、ボスはそのまま納得して口を閉ざした。


「場所に着いても、案内してくれるってことよね?結構な機密だと思うけれど」


「あぁ、ペンデリを助けてくれたあんたたちなら信用できる」


 アンネの言葉に大きく頷いたスカー院長の姿に、俺は色々と渦巻いていた疑問を全て押しやって、取りあえず大きく頷くことにした。


「分かった。そんな場所があるなら、ぜひお願いしたい。案内してくれ」


 そうして俺たちはスカー院長について、街中を歩いて行く。一度孤児院立ち寄り、子ども達の様子を見てから、冒険者ギルドを通り、そして……。


「ここ、図書館じゃないか」


「そうさ、廃都へ入るための入口はいくつかあるが、一般人が使えるのはこの図書館の入口と神殿の入口くらいさ」


 そんな話をしていると、図書館でおなじみとなっている老執事風の男が姿を見せた。


「おや、あなたたちはグォーク様と……おやおやおや、カフスではないですか」


「久しぶりだね、ギル。あぁ、紹介するよ。こいつはギルバート・セルミオ。あたしの冒険者時代の魔法使いさね」


 そう言ってニヒルに笑うスカー院長に、老執事ことセルミオが改めて深くお辞儀をする。


「いやはや、話には聞いておりましたが、グォーク様がカフスと懇意だとは。世間は狭いものですな」


「まぁ、そんなもんさ、っと、ギル。こいつらを廃都に通したいんだが、何とかならないかね?」


 はとが豆鉄砲を食ったような顔をしてそれを受け止めた老執事はその後暫くスカー院長と話し合っていたのだが、何度かの言い合いの後、諦めたように俺たちの方に向き直った。


「……仕方ありませんな。昔のパーティメンバーとして、骨を折ってみることといたしましょう」


 そう言って図書館に舞い戻った彼を待つこと20分ほど。


 帰って来た彼に案内されたのは、先が見えないほどにしたまで続く階段の前であった。

なお龍災についてはこの作品ではこれ以上の関わりはない模様。該当の人たちと関わる時はちょっと出て来るとは思うけど。

 

 なお、当時の人たちについて一応補足しておくと

 淫魔王 本作でも魔王の中で一番最初に出張って来た例のあの魔王。直接的な原因ではないが龍災の余波を受けて完全人間形態から半殖物形態への進化を余儀なくされた。


 英雄王 普通に死亡。ただし、その意志の強さから遺体が聖遺物化し、効果範囲内で全ての魔法が無効化されるとかいう異例な魔境が誕生した。現在は12魔境の一つである「聖域」に指定されている。


 魔物使い 「大農場」の魔王その人。現世に留まった中では最も被害を受けており、淫魔王と違い完全に療養目的で回復が見込めそうな場所に移動させられ、いつの間にか魔境と化していた。詳細は登場時にでも。


 魔法剣士 当時の5英雄を纏めていたリーダー格。性別、年齢、戦闘スタイル等々ほぼすべてが不明。


 賢者  例のよく食べる人。当時の実力は現在よりも低めだったが、それでも世界でも指折りの実力者の一人だった。龍災以後のごたごたに巻き込まれた結果、奴隷落ちとかいろいろ経験した後、諸々合って現在の地位で安定している。





 今作においては命名法が地域や年代においてバラバラなため若干の例外はあるけれど基本的には英語式の呼び方だと考えてもらっていい。

 なので、スカー院長だと レイ(名前)・カフス(結婚前の苗字)・スカー(現在の苗字)となる。

 魔物出身だと名前だけで苗字を持たない者が多い。アンネちゃんは多分長ったらしい名前があるはず。一応村長の娘だし。

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