オークと妖精と図書館
「ふむ、茸人の進化ですか……」
そう言うと、老執事風の男は頭をなでながら言葉をつづけた。
「勿論ございます。ただ……」
そう言うと、ちらりと茸人を見て嘆息した。
「その、誠に申し訳ないのですが、茸人の進化についてはあまり詳しく分かっておらぬのですよ。勿論、オークほどではないのですが、気が付けば増えているような種族でありましてな。だからと言って何か有用な素材が取れるかと言えば……まぁ、取れぬわけではないですが種類が複雑すぎて専門家でも目的の茸人か分からぬゆえ、ごくごくわずかな錬金術師が取り扱っているような現状だったはずです」
後に資料を確認して分かったことだが、正確に言うと生態自体は割とありふれているそうなのだが、いつの間にか大量に湧いて、しかもいつの間にか進化して全く別の魔物になっていることがままあるため研究と言う意味でも採集という意味でもあんまり知られていないようだ。
「というか、そもそも、何を調べに来られたので?茸人は進化に関しては特別なものは必要なく、何となれば一度も戦闘などの多量に経験値を集めるようなことを経なくても進化するような存在だったと記憶しているのですが」
それを聞いて、俺たちは顔を見合わせる。そして、俺はアンネに確認した。
「なぁ、アンネ。茸人は「進化したい」って伝えて来たよな?」
「えぇ、確かに。ただ、確かに何でもいいから進化したいって話なら、普通に進化してもおかしくないわよね。普通は覚えないはずの転移魔法なんてものも覚えてそれでもって何度も使ってるわけだし」
俺たち三人が一緒に腕組みをしたが、とりあえず思いついたことをアンネ達に振った。
「とりあえず、状況的には全ての進化ができないわけじゃなさそうだし、特定の進化になりたいってことになるんじゃないか?なら、進化先のことが分かれば対処法も解ると思うんだが……」
「そうですな、図鑑を用意しましょう」
とりあえずそんな話になり、俺たちは植物系の魔物が詳しく載っている図鑑を借りて茸人に聞き込みを開始するのだった。
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「結局、分からなかったわね」
図鑑を元に聞き込みを再開した俺たちだったが、茸人は困ったように体を傾けるだけで、あまり要領を得なかった。そして、しびれを切らしたアンネが念話でどんな真価がいいのか問い詰めるも、アンネをじっと見つめるだけだったのだ。
「うーん。これはどうすれば……」
そう悩む俺の耳に部屋の外から冒険者の話し声が聞こえて来た。
「……でさ、丸太の納品が……」
「えぇ、別にトレントじゃなくても……」
「いやでも、構造的に……」
何となく聞いていたが、その言葉でハッと立ち上がった。
「いい人がいるじゃないか!」
「え?いい人?」
不思議そうな顔をするアンネに、俺は興奮してまくしたてた。
「ジュモンジ老だよ!あの人なら、きっと茸人の進化についても分かるだろうし、少なくとも話し合いくらいはできると思うんだよ」
「……茸と植物は違う系統だとは思うけど……まぁ、転移魔法を一方的に渡すくらいは波長が合ってるんだろうし、可能性はなくはないわね。行ってみましょうか」
そう言って俺たちが立ち上がると、話を聞いていたからか、すぐさま茸人が転移門を作り出した。勿論場所はユグドラヘイムの森の中だ。
”む、どうした、グォーク殿”
すぐに転移門に気付いたジュモンジ老がこちらに声かけて来た。俺たちは森に降り立ちつつ、茸人が進化したいということを伝える。
その間、元エルフの精霊達が近づいて来て、興味深そうに茸人を見つめていた。
”ふむ、ふむふむ……成程のう”
そして、茸人と何やら話し合っていたらしいジュモンジ老はこちらへと意識を向けて来た。
”うむ、大体状況は把握した。どうやら、目的をもって進化がしたいようじゃな。殆どの条件は達成しているようじゃから、後はお主らが少し手助けしてやれば、望むように進化できるじゃろう”
そう言ってジュモンジ老は俺たちにいくつかの指示を与え、案内役に元エルフの精霊の一人を付けて送り出してくれた。向かう先は、ここからでも見える巨大樹、ユグドラヘイムを抱く世界樹の周囲に点在しているらしい。
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「入手するべきは”洗礼土””世界樹の樹液””形代人形”の三つです」
そう言いながら、半透明の姿で先導する元エルフのリシ―が振り返った。
「まぁ、正直なところ、無くてもどうにか進化はできるでしょうが、望んだ進化という意味では確率は上がるとのことです」
そう言って、リシ―はそれぞれの素材について説明をしてくれた。
「まず、”洗礼土”ですが、これは世界樹から降り注ぐ魔素が大量に含まれた土……ようは肥料ですね。当然世界樹に近ければ近いほど良いですが……まぁ、ユグドラヘイムに入る必要はないでしょう。次に”世界樹の樹液”これについても肥料の代わりですね。正直よほど高度な種族に進化するのでなければイラなはずなんですが……。それと、最後の”形代人形”は、形を固定化させるものです。ただ、少し……いえ、まぁ行ってみましょう」
何となく煮え切らない態度に少し不安になりながらも、俺たちはリシ―について素材採集に向かうのだった。
茸人……正確に言えば、主人公に付き従っている茸人は茸人の中でも「小純茸人」と言った種族。一般に茸人と呼ばれる種族はこの「小純茸人」の進化種を基本として複数種を纏めた種族名です。基本的な分類は
形として
山型茸人……笠の部分が三角の形をした茸人。最も一般的な茸人。
平型茸人……笠の部分が平たくなっている茸人。大きな個体が多い。
群体茸人……複数の茸人が集合したような見た目をした個体。一人一人は小さいが、敵対すると一番厄介。
毒の有無として
茸人……多くの人類種にとって無毒。
茸人……多くの人類種にとって有毒。
茸人……二つの総称、あるいは毒性がよくわかっていない種の名称。
これに加えて、大きさ(基本的には妖精サイズ、人類種の子どもサイズ、大人サイズ、それ以上)に合わせてスモール、ラージ、ビッグ塔の大きさを示す物が頭につく。
例外的に非常に特徴的な種族に関しては別に名称がある時もある。




