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オークと二人

 パラパラと本を読み進める音だけが響く宿屋の一室。俺たちは向かい合って本を読み進めていた。


「……」


「……」


 俺たちはお互いを何となく認識しつつも、特に気に留めることもなく本に意識を集中する。何となく今までにない安心感の中、本をめくる音だけが響き続ける。


「そう言えばさ」


 ふと、アンネがそんな風に声をかけて来た。


「久々ね、二人きりなのも」


 突然の言葉に少し面食らうものの、思い返せば遠いところまで来たものだとも感じる。


「確かにな。最初は、俺がジャイアントスパイダーに捕まってたアンネを見つけて、そこからボスが仲間になって、アリシアと旅をしたり、リナと蘇芳が言葉を覚えて追いかけて来たり……」


「本当に、いろいろ変わったわよね。知ってる?最近、王都でオークの認識が変わってるらしいわよ?」


 初耳なその言葉に、俺はふと本から目を上げる。


「私達が冒険者登録した時から、注目自体はされてたでしょ?その時は警戒しかなかったみたいだけど、戦い方次第では一方的に無力化することもできるからってことで、私達と付き合いのある冒険者中心にミジナの森でオークを調達しようとする従魔術師が出始めたみたいなの。まぁ、あんまり芳しくはないみたいだけど。

 でも、最近は冒険者以外にも『オークってアホだけど、賢い奴は話し通じるかも』みたいな風潮になってるみたいよ」


「それは……うれしいような怖いような」


 それで不用意に野生個体と触れ合って被害が出た上に、危険だからとにかく排除とか政策をとられかねないと思い付き、苦い顔をするものの、オークが認められるかもしれないというのは素直にうれしく、結果複雑な顔をしてしまう。

 そんな顔を見て、アンネもそうね、と微笑んで続けて俺に問いかけて来た。


「それには、やっぱり進化が良いのかしらね。あ、そうだ、そう言えばグォークは進化はしないのかしら?」


 そう言うアンネに、俺は少し言葉に詰まる。確かによく考えればボスも進化しているしリナも進化している。ほぼ同じタイミングで産まれたであろう蘇芳が進化していないので必ずそうだ、とは言えないが、二人が進化した時期を考えれば経験値的にはもう進化できそうではある。


「そうだな……まぁ、進化できなくてもいいんじゃないか?現状はボスやリナもいるし、能力的には負けているかもしれないが、不足だと感じたことは無いしな。……そんなアンネは進化についてはどう考えてるんだ?」


 それを聞かれて、アンネはふっふーんと胸を張った。


「私は何といっても大精霊になりたいわね!妖精から大精霊になったら意識も結構はっきりしてるらしいし。何よりも戦闘能力そこそこ、寿命はほぼ無限!食事や睡眠も大して必要としない!これほど研究職に向いた種族はないわ!……尤も、一旦妖精系の進化を進めちゃうと精霊系の進化に進むのが厳しくなるし、必要な経験値があほみたいに高いのが問題ではあるけど……」


 そう言うアンネは俺を見て少し落ち着いたように言葉をかけた。


「ま、しばらくはこの妖精の体でいいわ。逃げるだけなら妖精で十分だしね」


 そう言うと、アンネは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「……って、そんなことより本よ本!さっさと読んじゃいましょ!」


 話を振ってきたのはアンネの方だとは思いつつ、俺は本に目を移しかけて……ふと目線を机の上に向けた。先ほどの話を聞いたからであろうか。机の上で何やらもぞもぞとする人影?があったのだ。


「あぁ、そうか、悪かった。茸人も大事な仲間だったな」


 そう言って机の道具袋から出て来た茸人に話かけると、茸人は体を震わせながらアンネを見つめた。


「ん?何かしら」


 そして、もはや懐かしい、念話とボディランゲージによる意思疎通により、茸人の意志を読み取った。

 具体的に、そして端的に言えば「進化したい」ということだった。


「……」


 俺は少し気まずけに茸人を見つめる。アンネや蘇芳は結構茸人と関わっていたが、俺はあまり関わらなかった……というかぶっちゃけ便利な転移を使えるおとなしいペットくらいの感覚で関わっていたのに気づいたからだ。


「どうしたの?グォーク」


「い、いやー。茸人は俺たちの大事な仲間だからな!早く進化できるように協力しないとな!」


「ちょ、いきなり声が大きいわよ」


 じーっと俺を見つめるアンネは、しかし何も言わずに茸人に視線を写した。


「うーん。進化って言ってもどうしたものかしらね。経験値、条件、両方揃っていて進化を望んでいればすぐさま進化が始まるはずだけど」


 そう悩みつつも答えるアンネの言葉に、俺も思考を巡らせる。


「考えられるとすれば経験値の方が可能性は高そうだが……。とりあえずこれも読み終わりそうだし、図書館で一度調べてもいいんじゃないか?」


 そんな話をした結果、俺たちは本を読み終えた後、図書館に向かうことになったのであった。


 なお、本の内容は、いくつか俺たちが知らなかった進化を知ることが出来たり、専門家のオークへの見解を知ることが出来たりといった得るものはあったのだがオークの知能を何とかする方法や知能の高いオークにすることにつながりそうな情報は得られなかったことを追記しておく。

次回から茸人ちゃんの進化を模索します。

まぁ、リナちゃんやボスよりは長くなりますが、ちゃっちゃと進化する予定です。

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