オークと避難訓練
「突然すまなかったな。俺だ、グォークだ」
「ほら、あんたたち、出ておいで」
アンネに念話で伝えてもらったものの、その後俺たちが中庭に出るまでの間に子ども達が出てくることは無かったので、俺とスカー院長が大声で子ども達に声をかけることになった。
「全く、面倒だね」
「だが、危機意識という面で言えば、それぐらい慎重な方が良いんじゃないか?」
「まぁ、それもそうだがね」
そう言うと、憔悴した様子でボスが話しかけて来た。
「我は、主殿や我が妻以外の行為に関してはあまり気にしておりませんでしたが、実際面と向かって避けられると、少し嫌な物がありますな……。主殿のご友人というのもあるのでしょうが」
「まぁ、オークに対する一般的な反応がこんなものだってことだ。フィノはボスとも普通に話してただろ?慣れればここの子たちも普通に接してくれるさ」
「……そうですな、気にしてもしょうがないでありますな」
そんな話をしている間に子ども達が俺たちの元に集まってくる。
「ふむ、みんな集まったかね、それじゃぁ……」
「子ども達よ!此度の対応、見事であった!」
スカー院長の言葉を遮り、ボスが声を張り上げた。一瞬あっけにとられた俺だったが慌てて止めようとしてスカー院長に止められる。
「待ちな、老いぼれの言葉よりも、実際に脅威として子らの前に立ったモンの方がちったあ役に立つかもしれないじゃないか。先ずは話を聞いてからだよ」
そう後ろで言うスカー院長の声も聞こえていないのか、ボスは集まった子ども達に必死に語り掛ける。
「しかし、生き残るためにはまだ足りぬ!そこな巨人の子よ、獣人の子よ。野生を生きた者に今回のような隠形は意味を持たぬ。たちまち見つかり蹂躙されていただろう!
それと、そこな妖精の子よ。魔力による伝達は漏れやすい。慣れた者なら、念話の具合から大凡の術者の場所も把握してしまうだろう。そうならぬためにも、いま少し工夫をすべきだろう。
他の者達も、様子をうかがっているのも把握しておったが、中途半端に様子を見るくらいならば、戦える者に情報を伝えるためにいち早く逃げるべきである!以上が、今回の評価である」
そう言うと、周りの空気に気付いたのかハッとして困り顔で俺の方を見つめた。俺は苦笑をしつつ目線でスカー院長に許可を取り、言葉を繋ぐ。
「あ~。そうだな。先ずは謝罪させてくれ。怖い思いをさせてすまなかったな。ただ、本来は危険な種族である俺としては、皆が俺以外のオークに出会った時に適切な行動ができるかどうかは確認しておきたかったし、もしもそう言った危機感が無いのなら、その大切さを知ってほしかったんだ……まぁ、必要はなかったようだけどな」
俺の言葉を聞いて、ボスの言葉に茫然と聞いていた子ども達の顔にも、安堵と喜色の色が浮かんできた。それに安心し、ボスのフォローもすることにした。
「それと、さっきのオーク……俺の仲間であるボスの言葉だが、おおむね俺も同意見だ。魔物の対処は命がけの仕事で、実力のある俺たちでさえゴブリンの一団に足止めされて大岩を頭上に落とされたこともある。
隠れることも大事だが、基本的に野生の生き物は感知能力が高い。俺たちみたいに体が大きい相手なら息をひそめ、相手が入れない隙間に入り込んで身体を丸めて相手が気になってもそっちを向くな。でなければ思い切り逃げろ。自分で対処できないことを把握することも大事なことだ」
その言葉に、子ども達は意外なほどに真摯に耳を傾けていた。そして、次の瞬間、蜘蛛の子を散らしたかのように子ども達が逃げ出した。
「……ん?」
「ダーリン♡」
「あ~蘇芳のこと忘れてたな」
とはいえ、さっきの今で一目散に逃げる子ども達の逃げっぷりに感心しつつ、一緒にやって来たアンネに念話で子ども達に伝達するようお願いして、もう一度一から子ども達を探し始めたのだった。
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「……はぁ、とりあえず、お疲れさまでした」
あの後、俺たちはゆっくりと子ども達を集めて説明をしていたのだが、逃げた子ども達の中に陸上走行を得意とする鳥人種……まぁ、ありていに言えばダチョウの近縁種の獣人の子が念話が届く前に範囲外に逃走してしまい、そのうえで衛兵の詰所にまで救援を求めた結果、かなりめんどくさいことになった。
とりあえず事態に気付き追いかけた俺は逮捕。その後、安全確保ということで20人近い衛兵が孤児院に押し入り、あまりの出来事に抵抗しようかどうしようか迷っていた蘇芳とボスを確保。
ついでにそれを止めようとしたアンネが眠り粉で眠らされ、リナは隠れているところを暴かれて捕縛されかけたらしい。
ただ、そこでスカー院長がものすごい剣幕で衛兵たちを静止し、客人と明言したこと、また、そう言った一連のことが孤児院で行われている間に、俺が事情聴取でエドニ―ルの名を出したことで事態はそこまでひどいことにならずに済んだ。
その後、エドニ―ルと共に孤児院へ向かい、スカー院長の証言などを照らし合わせた結果、避難訓練による不幸な行き違いであることをやっとわかってもらえた。
なお、首謀者である俺は一時間ほど、「そう言った事をするなら事前に説明しておけ」といった趣旨の説教を受けることとなった。
どうやらスカー院長もなにか説教されたらしく、渋面を作っていた。
「なんだかすみません……」
「ふん。まぁいいさね。これから長い付き合いになりそうだしね」
そうしてスカー院長が見つめる先には、子ども達の模擬戦相手のようなことをしているボスと、何故だか投げ輪の曲芸みたいなことをして人気者になっている蘇芳の姿があった。
「……そうみたいですね」
落ち込んでいてもしょうがないと思いつつ、心の中で愚痴りつつ、俺はそう言ったのだった。




